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 興奮で真っ赤になった顔でアスレイを睨むレンナ。彼女は拘束された身体をばたつかせながら声を荒げる。


「アンタホントのホントに大バカね! いい? あたしは身も心も『魔女』なの。過去に沢山の男を手に掛けて傀儡にしてきた『黄昏誘う魔女』なの! ホントはアンタより一回り以上も年上だし凄い大罪人なの! 悪い人間なのッ!! そんな人間が良い人って…アンタホント見る目バカだわ!」


 眼光鋭く怒鳴り散らすその様はこれまで見た以上の気迫―――殺気にも近いものを感じてしまう。それはまさしく『魔女』と呼ぶに相応しいほど。

 だが、アスレイは全くもってそう見えなかった。

 彼は怯むことなく真っ直ぐに彼女を見つめて答える。


「それはわかっているさ。犯した大罪は決して許されるものじゃないし許せないものだ…」


 カズマと過ごした日々がアスレイの脳裏を過る。

 短い期間だったとはいえ、久々に思い出話で楽しめた同郷の人だった。

 彼を助けられなかったということへの悔しさは、未だ拭えそうにはない。

 アスレイは人知れず拳を強く握り締める。


「わかってんでしょ、なら―――」

「だけど。心抉られるくらいショックだったとしても…恨みや憎しみに心奪われたままなのはもっとごめんなんだ。それなら…バカでも良いから許すし、それでまた明日…失った人の為に笑える俺でいたいんだよ」


 そう言ってアスレイはレンナの傍で膝をつき、もう一度笑顔を浮かべた。だがそれは決して満面のものとは言えない、哀し気な笑顔。

 それはレンナに、というよりはアスレイ自身に言い聞かせている台詞のようであった。

 差し伸べたアスレイの掌を見つめ、レンナは思わず静かに吐息を洩らした。


「やっぱアンタ…バカ過ぎて……あたしには強すぎるわ…」

「俺は強くなんかないよ」

「―――だったら。()()()()が最初で最後の宿題を課してあげる。なんでこんなにもバカで弱いアンタが()()のか。考えなさいよ……」


 アスレイはその言葉―――宿題の意図を聞こうとしたが、それ以降のレンナは沈黙したままで。彼の問いかけに答えることはなかった。






 こうして、キャンスケットの町で起こっていた『連続失踪事件』は解決し幕を閉じることとなる。

 『黄昏誘う魔女』の逮捕、失踪事件に関与した賊の一掃など。大きな功績があったその一方で、全てが解決したわけではなかった。

 キャンスケット領は偉大な領主とこれまで築き上げた信頼という、大きな名声を失ったのだ。

 この失態をどう乗り越え、回復させていくのか。

 それは次の担い手と、ここに住まう者たちの手腕に掛かっている。

 良き領へと発展できるのか。それともこれをきっかけにキャンスケットは失墜してしまうのか。

 キャンスケットに住まう者たちにとっては、ここからが始まり―――新たな幕開けと言えた。








 後に『キャンスケットの暗闇』と呼ばれるようになる失踪事件。

 その解決から、一夜が明ける。

 太陽が山間よりくっきりと姿を現す頃には事件の真相や尾ひれの付いた噂などが、号外の新聞を待たずして街中に広がっていた。

 衝撃的なニュースに驚愕し絶望する者もいた。片やキャンスケット領を此処まで導いてきたティルダが全くの悪人ではなかったはずだとそれでも擁護する者も少なくはなかった。 




 キャンスケットの街。その一角にある病院。

 そこは昨晩から物々しい雰囲気が漂い続けているが、それもそのはず。

 此処には失踪事件で行方不明とされていた―――もとい、行方不明とも気付かれず誘拐されていた者たちが保護され、入院していた。

 入院と言っても、大抵の者は誘拐による負傷、心身の疲弊から大事を取って入院したものであり、今日には退院が許されていた。

 そして、()()もそのうちの一人であった。




 呆然とベッドに座り、窓からの景色を眺めている女性。

 半開きの窓からは心地の良い冷たさの風が流れ込み、彼女の髪を撫でる。

 と、そんな静寂とした室内の―――扉の向こうから聞こえてきた騒々しい足音。


「ここは病院ですよ! 走らないで!」


 そんな看護師の忠告も聞こえてきつつ。その足音は一直線にこの病室へ近付き、そして次の瞬間。

 病室のドアはノックもなく大きく開かれた。


「ファリナッ!」

「ルーテル…」


 開くと同時にルーテルは今にも泣き出しそうな、絞り出したような声で叫びながら、ベッドにいる女性へと駆け寄り力いっぱい抱きしめた。


「良かった…無事で、良かった…!」


 ルーテルの抱擁に息苦しさを感じつつもその頬から伝うものに気付き、患者の女性―――ファリナは自身の胸にじんわりとした熱を感じる。

 それまで無表情でいたファリナだったが、気付けば彼女もルーテルと同じようにぽつぽつと涙を零していた。


「ルーテル…私を心配して、くれてたの…?」

「当たり前でしょ! 友達…だから…!」


 少しばかり照れ臭そうに、しかしムキになったように怒声交じりでそう叫ぶルーテル。

 正直、ファリナは誰も自分の失踪に気付いていなかったという現状に、誘拐されたこと以上の悲しみと絶望を抱いていた。

 だがしかし、今ここにこんなにも心配してくれていた人が。泣いてくれる人が、友がいた。

 それを知れたことがとても嬉しくて。何よりもありがたい救いだと、ファリナはまた一つ涙を零した。

 そして二人は互いを抱きしめながら、声を上げて泣いた。







   

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