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「うかつ…もっと早く気付くべきだったってこと…?」


 レンナは自分の見落としに歯噛みせずにはいられない。

 天才魔槍士―――パーシバル・スヴェインが最も得意とする魔術属性は『風』だということ。

 そしてネールが使用していた属性もまた『風』であったということに。


「ってか! だからってそれで同一人物に繋がるわけないっての!!」


 と、彼女は自分に突っ込み叫んだ。

 しかしレンナの叫びの通り誰が想像出来ただろうか。それまで隣に居た少女ネールの正体が実は噂に聞くかの『天才魔槍士』で、姿を偽っていたなどと。





「…本当に、ネールなのか? それより…えっと、初めましてって言った方が良いのかな…」


 高鳴る興奮と言うよりは動揺を抑えながら、アスレイは天才魔槍士に声を掛ける。が、その狼狽えた様子を見つめるネール―――もといパーシバルは微笑を浮かべた。


「先ほどの姿は禁術によりネール(彼女)の身体を借りていたものだが…意識自体は私のものだよ、アスレイ」


 彼から呼ばれた、アスレイという名。

 ネールのときとはまるで違う、低く落ち着いた声。しかしネールのときと変わらない波長、雰囲気にアスレイは胸を高鳴らせ、自然と笑みを零す。


「ああ、わかった」


 次々と湧き出そうになる言葉を、今はぐっと堪え。アスレイは力強く頷き、そう返答した。







「はは…まさかあの天才魔槍士様とこうして対面出来るとか…さいっこうに最悪よね」


 レンナの額から嫌な汗が滲み出る。

 これまで耳にした数々の噂を思い返すだけでも、その力の差は歴然。そんな天才魔槍士と戦うなど甚だしいにもほどがある。

 全身が粟立ち血の気が引いていく。

 だが、それらの感情をぐっと封じ、レンナは果敢にも立ち向かう。


「でもでも…逆に言えば天才魔槍士をあたしが倒しちゃったら……単純な話、あたしが最強ってことじゃん?」


 勝てる算段はないが、負ける確証があるわけでもない。

 それに彼女自身、昔は『黄昏誘う魔女』と恐れられた身。

 その高い自尊心がレンナの背を押した。


「だからさ―――折角カッコよく登場してくれたとこ悪いけど、ぶっ倒れされてくんない? あたしの最高のコレクションに加えてあげるから」


 顎下に指先を添え、滴る汗を隠すように不敵な笑みを浮かべるレンナ。

 しかし、そんな彼女の言葉に乗る事なく。パーシバルはいつもの通り冷淡に返す。


「結構だ。君の方こそこのまま投降する気がないと言うのならば致し方ない。圧倒的な力の差を見せつけるまでだ」


 そう言うとパーシバルは改めてレンナと対峙する。

 今度は天才魔槍士と魔女として。互いに静かに、しかし激しく火花を散らしている。

 と、ここまで静観し続けていたケビンは思わずポツリと口を開く。


「その台詞は流石に悪役側だろう」


 そう突っ込まずにはいられなかった。






 先に動いたのはレンナだった。

 指先を鳴らした合図と共にそれまで静止してしまっていた傀儡が一斉に動き出す。土色の亡骸たちが高々と刃を掲げ迫り来る。

 だが片やパーシバルは武器さえ持たぬまま、悠長に立っていた。

 史上最強と謳われる天才魔槍士を疑うわけではないが、相手は最恐とも云われた伝説の黄昏誘う魔女。アスレイは心配せずにはいられなかった。

 と、おもむろにパーシバルは右手を手前で構えた。

 一体何をするのかとアスレイが目を凝らした―――次の瞬間。

 素早く振り下すと同時に、その手にはいつの間にか鋼色に輝く槍が握られていた。

 『魔槍士』の名の通り、彼の身の丈程の長槍が突如現れたのだ。





「な、何が…まさか手品…!?」

「特に魔力が高い魔術士は物質を得意属性を変換させ、収納・召喚することが出来るんだ。まあかいつまむと…水中や地中から武器が召喚出来るといった感じだ」


 困惑するアスレイのためにケビンがそう説明する。


「黄昏誘う魔女…レンナの得意属性は『土』。だから大地から傀儡となった男たちを召喚した」

「…そっか。つまりネール…じゃなくて天才魔槍士の得意属性は『風』だから自分の手を振って風を生み出して、そこから()を召喚したってことか」

「そういうことだ」


 アスレイの推測を肯定するべく頷くケビン。

 槍の謎について納得したアスレイは何度も頷き、それから改めて二人の対決を静観しようとした。が、しかし。その前にどうしてもアスレイはケビンに言いたい事があった。


「―――って、それより…ケビン。ネールの正体について知っていたってことだよね。それなのに何で二人してもっと早く教えてくれなかったんだよ」


 アスレイ(自分)がどれだけ天才魔槍士に会いたがっているのか。それを知っていた上で正体を隠されていたことに悔しさを感じてしまい、その文句を言わずにはいられなかったのだ。

 だが同時に、正体を明かせるほどの仲でもないこともまた事実で。それ以上追及することは出来ず、アスレイは静かに唇を噛みしめる。


「すまない。俺たちにも色々と訳ありな事情があってだな…それ故、軽はずみに真実を明かすわけにはいかないんだ」


 解っていた返答であったが、いつもとは違う真剣みを帯びたケビンの謝罪にアスレイは静かにかぶりを振る。


「俺こそごめん…俺なんかには言えない深い事情があることは解るんだけどさ。ただちょっと……この秘密はずるいなって愚痴を言いたかっただけなんだ」


 そう言ってアスレイは苦笑を洩らす。ケビンもつられるように苦笑を返し、次いで正面を見つめる。


「事情云々について今語ってやることは俺には出来んが…この戦いを見物出来るまで回復してやることは出来る」


 そう言ってケビンはアスレイにも正面を向くよう促す。


「お前と()()が想い焦がれていた魔槍士の戦いが目の前で見られるんだ。こんな機会、先ずないだろう?」


 その言葉にアスレイの瞳は自然と大きく輝く。

 確かにケビンの言う通り、此処からなら存分に天才魔槍士の―――あの憧れて羨ましくて悔しかった人物の戦いをこの目で見る事が出来る。

 ミリアが夢見ていた光景を目撃することが出来る。


「瞬きする暇もないぞ。アイツの戦いは一瞬で終わるからな」


 アスレイは未だ癒えていない痛みも忘れて身を乗り出し、目前に立つ魔槍士を食い入るように見つめる。

 その双眸に深く、強く、彼の雄姿を焼き付けるために。







    

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