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「ふうん…それだけで魔女だって疑われたの? その感覚キモ過ぎ」

「他にもいくつか疑う点はあったが…その説明で充分だろう」

「……は? そういう言い方マジでムカつく」


 外見こそお互い単なる少女でしかないが、その気迫たるは少女のものとは到底思えず。

 月下に照らされた二人の双眸には火花が散っているようで。その激しさは静観するアスレイにも伝わっていた。


「んじゃあ、そんな抜け目ないアンタと取引なんだけどさ。あたしを見逃してくんない? なんだったらこん中からイケメンの一人か二人あげちゃうからさ」


 そう言うとレンナは背後の屍たちを見せびらかすかのように両手を伸ばしてみせる。

 だがしかし、ネールは即答する。


「生憎、生命と人形を取り違えて戯れる趣味はない。そもそも、正体を知られた上で私たちを見逃すつもりはないのだろう…?」


 至って沈着冷静でいるネールの余裕にレンナの不満は急上昇していき、その顔はみるみる赤く染まっていく。


「あ、そう…まあ言っただけだけど。べっつにアンタにあげたい子なんて一人もいないし! つか逆にアンタの男共もあたしが貰っちゃうんだから!」


 そう叫ぶと彼女は指先をパチンと鳴らした。

 周囲に響き渡ったその音は、傀儡の男たちを一斉に動かす。それまで見せていた歪な動作から一変し、彼らはネールやアスレイたちを襲うべく素早い動きで駆け出し始めた。

 傀儡たちが迫り来る中、禁術を使用しているため身動きが取れないでいるケビンがネールへと叫ぶ。


「…頼むから無茶なことだけはするなよ!」

「ああ」


 背中越しにはっきりと聞こえてきた返答。

 だがケビンはこの返答はただの返事でしかないと内心察していた。


(間違いなくこいつは無茶をする。とっておきの、禁術中の禁術を使って―――)


 これから使おうとしているその禁術が、如何にして禁術となっているのか。

 それを使うということが、どういうことになるのか。

 充分理解している上で、それでも尚。迷わずに使うつもりなのだ。

 ケビンは諦めに吐息を一つだけ洩らし、全てが収束するまで見守る事と決めて瞼を閉じた。






 武器を掲げながら迫り来る傀儡の男たち。

 アスレイは動揺と焦りから思わず身体を動かそうとするが未だ痛みのせいか思うままに動けない。


「あまり動くな」

「け、けど…」

「どうやら腕やあばら何本かが骨折している…治療には前回以上の時間が掛かる」


 禁術の副作用でケビンも動けない以上、現状戦えるのはネール一人しかいなかった。


「だったら…俺は良いからケビンも加勢してあげて…!」

「心配するな。アイツに全部任せておけ」


 しかし、こんな状況であるというのにネールもケビンも、余裕とも取れるほどに平然とていた。

 何故こんなにも彼女たちは堂々としているんだと、アスレイは信じられずにいる。

 痛みからか、心配からか、生温い汗が彼の額から滴り落ちる。


「しかし…予測していたとはいえ約束を破った君に明かすのは……些か不本意だな…」


 そう言うとネールは自身の首元―――満月を象った水晶のペンダントへと手を伸ばし強く握り締める。

 直後。突然ネールの周囲に旋風が巻き起こった。草花を巻き込み舞い上がっていく旋風は徐々に大きくなり、目も開けられない程に強く吹き荒ぶ。

 その苛烈さは近くに居たアスレイから見ても明らかだったが、彼らは目の前に現れた―――と言っても目には見えない―――空気の層らしき魔術のお蔭で、吹き飛ばされずに済んでいた。

 それは先刻、アスレイたちを守るべく放っていたネールの力だった。


「ネール…!」


 ネールの姿は竜巻にも近い風の渦中へ完全に飲み込まれていく。

 彼女の魔術が失敗したのか。

 はたまたレンナの攻撃を受けたのか。

 一体何が起こっているのか、何が起ころうとしているのか。

 皆目見当のつかない事態にアスレイは無我夢中で彼女の名を叫ぶことしか出来ない。

 その一方でケビンは目の前で渦巻く烈風を眺めながら人知れず口角を吊り上げた。


「…相変わらず、この膨大な魔力には嫉妬すら覚えるな」










「なんなの、この…凄すぎな魔力の風は!!」


 竜巻のように吹き荒れる旋風はレンナの場所にまで届いていた。

 吹き飛ぶには至らないものの、立つのも困難な状態に身体は無意識に屈んでしまい、目も開けられないほどだった。


(これってまさか禁術!? でもでも、この風自体は魔術を発動してるってよりも、開放された魔力の余波って感じ…!!)


 魔道具に蓄積した魔力をここぞという場面で開放し、能力を向上させる魔道士は少なくない。

 その際に魔力はまるで沸騰により迸る蒸気の如く開放される。

 そうした魔力の開放自体は、レンナも何度か体験したことはあった。だがしかし、ここまで膨大で暴力的な魔力の開放は初めてだった。


「こんな魔力…見たことないってッ…!!!」





 間もなく、魔力の開放―――旋風は緩やかに止んでいった。

 風が止んだことを肌で感じたアスレイは恐る恐る目を開く。それはレンナも同じく。

 二人同時に目を見開き、その光景を凝視した。

 旋風から現れたのは先ほどまでいたはずの少女ではなく。

 一人の青年が立っていた。





「誰よッ!!?」

「誰だっ!!?」


 レンナとアスレイの驚愕した叫び声が見事に重なった。

 しかし突然ネールから容姿、体格、衣装、性別さえも全くの別人と入れ替わったのだから、驚くのは当然だった。


「―――っていうか、誰あの超イケメン! 外見だけでも90点越えはするかも…」


 遠目であるものの、その長身に容姿端麗さ、発する雰囲気さえも美麗さを醸し出している。と、レンナは思わず見惚れてしまう。

 それはアスレイも同じであったが、彼が驚愕したのはそれだけではなかった。


(そんな……まさ、か……!!?)


 呼吸も、心臓の鼓動さえ止まってしまうような驚きに声が出なくなり硬直するアスレイ。


『黄金色の髪に深緑色のコートを靡かせ、振り回す槍はまるでタクトのように軽やかに舞う―――』


 いつも言っていた幼馴染の言葉が脳裏を過る。

 今目の前に現れた青年は、まさしくその言葉通りに深緑色のコートと黄金色の髪を靡かせていた。


「何、で……?」


 夢でも見ているような感覚。興奮を通り越して眩暈さえ覚える。痛みなどすっかり忘れてしまっていた。

 と、青年がおもむろに凝視しているアスレイを一瞥する。

 彼と目が合った瞬間。アスレイの憶測は確信に変わる。


「私は国王兵隊諜報部隊所属、パーシバル・スヴェイン―――『魔槍士』の称号を持つ魔術士だ」


 青年はアスレイにそう言った。







   

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