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 ケビンの禁術による治療を終えたアスレイ。

 先ほどまでの打撲やら捻挫やらの痛みは全くなくなり、むしろ先ほど以上に軽々と動けるようであった。

 その場から起き上がるとアスレイはケビンの手を強く握る。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 禁術の副作用からまだ虚弱さが抜けないものの、ケビンもまた立ち上がり、彼の手を握り返す。

 と、二人の間に割って入るように、突如レンナがその指先をアスレイへ向けた。


「それで? 傷も治って間もないってのにもっかい挑む、なんて言わないでしょうね? ボッコボコに負けたってのに」


 しかめっ面で見つめている彼女に、アスレイは苦笑を返す。

 ケビンとの握手を解くと、アスレイはかぶりを振って答えた。


「取り敢えず、しばらくはしないよ」

「しばらくって…」

「ボッコボコに負けて頭ん中スッキリしたし、だから今度は俺が()()()()()()をしようと思う」


 彼の言葉にレンナは疑問符を浮かべる。

 だが、そんな彼女を後目にアスレイは突如、何処かへと歩き出していく。


「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!?」

「やることが決まったらすぐ行動に移さないと! よく言うだろ、思った瞬間に動いた方が良いって!」

「いや、聞いたことないし!」


 しかし善は急げとばかりにアスレイは、颯爽と空き地から走り去ってしまう。残されたレンナは暫くポカンと口を開けていたが、沸々と湧き上がってくる憤りに口先を尖らせた。


「もう! なんなのあれ!?」


 親身になっていた身としては、突然置いてけぼりにされては不満爆発も無理はない。

 一方で、同じくとり残されたケビンはため息混じりの苦笑を浮かべ、暫くの沈黙の後、おもむろに口を開いた。


「こうと決めたら一直線…お互い苦労するな」


 ケビンの台詞に含まれている『お互い』という言葉から察するに、彼の仲間(ネール)もまたそういった気質なのだろうとレンナは推測する。


「まったく、そうね…」


 への字に曲げていた唇を解き、レンナはもまた深いため息を吐いて相槌を打った。

 と、彼女は不意にケビンへと視線を向け、その口端をつりあがらせて見せる。


「そうだ、折角の機会だし…振り回されっぱなし者同士、ちょっとお茶でもしてみない? 良い愚痴も零せると思うけど…」


 上目遣いで、懇願にも近い眼差しを浮かべるレンナ。 そんな彼女の提案にケビンは暫く思案顔を見せた後、答えた。


「…この近くにあるカフェで、ということだろう? 確かそこのパイ菓子は美味だと聞いているからな」


 彼女の隠していた意図を読み取ると、レンナは大正解とばかりに歓喜の顔で両手をパンと合わせる。


「さっすがケビン。アスレイとは違って話が早いじゃない! それじゃあ早速レッツゴー!」


 そう言ってレンナは未だふらついた状態であるケビンの腕を引っ張り、歩き出していく。

 親と子並みの身長差であるにも関わらず、易々と彼を引っ張るレンナに、ケビンは苦笑と言うよりも焦りに近い顔を浮かべる。


「おい、あんまり引っ張るな、自分で歩ける」

「でも早くいかないと人気店だからパイ菓子売り切れちゃってるかもでしょ? そ・れ・に、こういう時は思った瞬間に動いた方が良いって言うじゃない?」

「それはお前が言わないって否定してただろ」


 呆れ顔をするケビンの様子など知る由もなく、レンナは「パイ菓子早く食べたいな」と陽気に自作の唄を歌いながら歩いていく。

 手を解かれたケビンは軽く頬を掻いた後に、彼女の後ろに続いた。








 治療して貰ったばかりのアスレイは、早速ある所へと向かった。

 キャンスケットの中心部、その一角にある兵団の詰所だ。時刻も時刻であるため、屋内ではランプの明かりが煌々と照っている。それ故に中からは人影も見え、兵団の者が在中であることが確認出来た。

 アスレイは迷わず、その扉を叩いた。


「すみません!」

「なんだお前は?」

「ああ、カズマさんが襲われたとされる現場に居合わせた少年ですよ」


 扉が開くなり怪訝そうな顔で見つめる壮年男性と、その奥に居たやや細身の青年。

 二人の姿はカズマの件の際に事情聴取をしていた人物であったため、アスレイも記憶に残っていた。


「…そういやそうだったな」


 そう一言洩らしている壮年の男はアスレイに冷やかな目を向けたまま言った。


「事情聴取で話は全部聞いたはずだが…何か思い出したことでもあったのか?」


 面倒くさそうに扉へと凭れ掛かったその様は、あまり良い印象を与えない。

 だがそれは男側にとってもそうであった。




 町の衛兵団たちは年齢上下関係関わらず、皆揃ってカズマを慕っていた。

 不愛想と思える印象を与えがちな素振りの反面、それとは真逆の他人への繊細な心遣い―――まさにカズマはキャンスケットの縁の下の力持ちであった。

 領主お抱えの用心棒という身分でありながら分け隔てなく接していたカズマは、町の者たちだけではなく、この兵団たちにとっても尊敬する存在だった。

 だからこそ、それ故に。カズマが襲撃された現場にいたアスレイを兵団たちは疑っているし、やり場のない憤りをアスレイに抱いていた。

 『コイツ(アスレイ)がいたにも関わらず、何故カズマが襲われなければならなかったんだ』と。







   

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