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 互いに食事が終わると、アスレイとネールは別の場所へと移動する。そこは町外れにあった人気のない公園だった。膝丈まで鬱蒼と生い茂る、空き地とも呼べる場所で二人は対峙し、視線を交えた。


「わかってると思うけど、俺が勝ったら天才魔槍士について、知っている事教えて貰うよ」

「ああ。そう何度も言わずとも解っている」


 ネールはそう言って苦笑を浮かべ、アスレイを見つめる。

 一方でアスレイは目つきを若干鋭くさせると自分の拳を構え、ファイティングポーズを取る。

 と、ある事に気付き彼はふと口を開く。


「そういや武器はどうする? 流石に刃物系は困るけど木刀くらいなら持っても…」

「いや、このままで構わない」


 冷淡に即答するネール。

 とは言われても、いくら彼女が魔道士とはいえ、少女相手に本気で拳を交えることに僅かながら抵抗を抱かずにはいられないアスレイ。

 故郷では妹相手に本気で喧嘩もしていたものの、兄妹ではない他人の女性を傷つけても良いものなのか迷うところではあった。

 すると、そのことを察したのかネールが口を開いた。


「一戦交えるからには手加減は無用だ。私も全力で行かせてもらう」


 全力、ということは魔道士として戦うということなのだろうとアスレイは推測する。

 初めて手合せしたとき―――敗北したあの時も、ネールは魔術を使っていたという話をレンナから聞いている。おそらく、あの時以上の力を持って挑んでくる。ということだろう。

 ならば、抵抗を抱いている余裕などない。


「ああ、わかった」


 頷き了承すると、改めてアスレイは拳を構え直した。




 向かい合う二人の傍ら、立会人として静観するレンナとケビン。戦う前から勝敗の判り切っているレンナにとっては気が気ではなく。先ほどから落ち着かない様子でいる。


「ねえ、ホントに大丈夫なの? 本気でやるって…アイツ凄い大怪我しちゃうんじゃないの? そもそも勝つつもりなんて無謀も良いとこだし、それにアンタたちが本当に天才魔槍士の情報を知ってるかどうかだって定かじゃないってのにさ…?」


 レンナから怒涛の質問攻めを受け、隣にいるケビンは小さなため息を一つ洩らす。


「まあ…情報云々についてはノーコメントとして…手合いに関しては心配無用だ。それに、本気を望む相手に手加減することの方が失礼というものだろ」


 彼女の投げかけたぼやきのような質問一つ一つを親切に答えるケビン。


「そういうもんなの?」


 が、どれもこれも明確な回答とは言えず、更にレンナは不満を募らせる。

 不機嫌そうに、彼女は睨むように、二人の対決を見つめる。

「ホントバカなんだから」と、小声で悪態を付いているものの、つまるところレンナなりに彼の身を案じているということだ。

 そんな心情に気付いているケビンは、レンナを見やり人知れず笑みを漏らす。

 彼女が心配するほどの事態にはならないと、ケビンには確信があったからだ。

 が、彼が案じているのは違う点だ。


(果たしてアイツがどれだけ()()()()()()()()()()に見せられるのか…)


 顔を顰めながらアスレイとネールを交互に見つめ、それからケビンはまた小さく吐息を洩らした。






 特別な合図があったわけでもないが、戦いは既に始まっていた。

 しかし、二人は一向に動こうとしない。

 そもそも自身の拳で挑むアスレイは必然的に近距離戦を要しなくてならないのだが、彼が得意とするのは迫りくる相手の力を利用し、いなすという戦い方であった。

 だが、ネールが近付いてくる気配は微塵も感じられない。

 ならばと間合いを詰めようにも、ネールが扱う『魔術』の距離間が掴めていなくては、無駄に突進してしまうだけ。

 そのためアスレイは下手に手を出せず、身動きが取れずにいた。




 するとそんな彼の手の内を知ってか知らずか。突然ネールが歩き出した。


「それでは行かせて貰う」


 そう言った直後だ。

 それまで歩いていたはずのネールが、視界から消えた。


「―――くっ!!」


 瞬時に気付いた、と言うよりはほぼ直感であった。

 僅かに感じた不自然な風と気配。それが彼女のものだとアスレイの脳へ回った頃には、ネールはアスレイの真横―――死角に飛び込んでいた。

 ネールの方へ向き直し、防御に両手を構えようとしたが、既に遅く。

 振り回していた彼女の足がアスレイの腹部に直撃した。


「う、ぐぅ…っ!!」


 思わず漏れ出る呻き声。

 その場に崩れることもなく、彼の体は後方へと吹き飛んだ。




 蹴り上げた足を下しながら、ネールは両膝をつくアスレイを見やる。


「咄嗟に自ら後方へ飛び退きダメージを軽減させたか…思った以上に動けるようだな」


 相変わらずの上から目線とも取れる言いぐさで、反論さえさせない正論を言う。

 苦痛であると言うのに口元には自然と笑みが零れてしまう。

 腹部を押さえながら、アスレイはもう一度立ち上がった。


「そっちこそ…思った以上に重い一撃で驚いたよ…」


 か弱いとも言えるその華奢な見た目からは想像の出来ない一撃。

 故郷の妹たちと同等の体力だと思っていた自分の愚かさに、より一層と笑わずにはいられないアスレイ。


「油断はもうしない…!」


 そう叫び声を上げ、アスレイはネールへ向かって飛び込んでいった。

 彼女に再度死角を突かれるよりも先にと、今度は彼から一手出た形だ。

 少女相手とは思わない、懇親の一撃。

 それは軽々と避けられてしまったが、体を捩じらせたネールにアスレイは休むことなく次の一撃を向ける。

 繰り出す拳。完全に死角を狙った一手だった。

 が、しかし。

 ネールはそれさえも知っていたかのようにひらりとかわしてしまう。

 まるで踊っているかのような、軽やかな動きで。


「くそ…!」


 思わず出てしまう悪態。

 だが、それでも彼の顔に悔しさは微塵もない。

 まるでこの戦いを楽しんでいるようにさえ思える表情。噴き出る汗も、受ける激痛も、心地よくさえ思える。

 しかしアスレイは決して負けるつもりもなく。絶対に勝てると信じている上での感情なのだ。


「…負ける喧嘩であんな笑ってられるなんて…ホント男ってバカね」


 呆れた声でそう言ってため息を洩らすレンナ。

 隣でそれを聞いていた男のケビンとしては、苦笑とも取れない複雑な笑みを浮かべるしかなかった。







   

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