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 最初こそ先陣を切って歩いていたレンナであったが、領主ティルダの居場所を知らないと気付くなり、今度は大人しくユリの後に続く。

 一方で今日の探索はもう無理だろうと自分の予定を諦めつつ、アスレイもまた彼女たちの後を歩いていた。


「ところで…ユリさんはどうしてあの裏路地にいたんですか?」


 道中、アスレイはふと抱いた疑問をユリへと投げかけた。

 その目の端には、先程まで彼らのいた裏路地の入口が見えている。

 あの華やかで煌びやかな領主に仕えるメイドが、こんな薄暗く狭い―――綺麗とは縁遠い路地を利用していたとは、アスレイには不自然でならなかったのだ。

 するとユリは恥ずかしげに口元へ手を添えながら、声を小さくさせて答えた。


「その…ご主人様に遣いを頼まれた途中だったのですが…つい興味本位で通ってしまいまして…」

「へえ、見掛けによらず意外と好奇心旺盛なのねー」


 と、後頭部に手を当てながら話すレンナの姿は、ユリとはまるで正反対に映る。

 しかしレンナの言う通り、アスレイの記憶にある初対面での彼女の印象が至極落ち着いていたものであったため、恥じらいを見せる今の姿がとても意外に見えた。


「って。もしかして、鼻の下伸ばしてんじゃないの?」


 物思いに耽るアスレイに気付いたレンナはそう言うと、突然彼の頬を思いっきり引っ張った。

 その力強さにアスレイの顔は横に変形し、痛みで我へと返った彼は思わず眉を顰める。


「ひ、ひたいひって!」


 苦痛を訴えるも、残念なことに頬が歪められてしまっているため、呂律が上手く回らない。

 と、二人がそんなやり取りをしている中で、ユリは静かに足を止めた。

 大通りへと移動した、その十字路の先。

 一角にあったオープンテラス付きのカフェに、彼の姿はあった。

 それも、十数人近い女性に取り囲まれて。







「ティルダ様…私怖いんです。もし魔女に浚われたらって思うと…」

「心配することはないよ。どんなに醜悪な魔女が悍ましく君たちを襲って来ようとも、僕が必ず守ってあげるから」

「本当ですかっ?」

「ああもう素敵です!」

「流石私のナイト様!」


 美しい女性たちに囲まれているその姿は、画家が描けばそれなりに価値ある一枚絵となるだろうか。

 だが、職務で多忙だと聞いていたアスレイからしてみれば、その予想外の姿は目も当てられないもので、呆れて閉口せざるを得ない。

 と、両手に花状態の領主に不満を抱いた人間が、彼の隣にも一人いた。


「ちょっと…何よあれ!」


 そう言うなりレンナは顔を顰めさせ、領主たちのいるカフェテラスへと駆け寄っていく。

 不意に見えた彼女の横顔から嫌な予感を抱いたアスレイは、慌ててユリと共に彼女の後を追いかける。





「どういうことなの領主様!」


 アスレイの呼び止めも間に合わず、レンナはテラスに集う女性たちの間を割って入るなり、そのテーブルを大きく叩いた。

 その振動で、置かれていたティーカップがガタリと揺れる。


「君は確か…」

「こんなところで昼間からイチャイチャと…そんなことしてないで『その魔女』ってのの対策とかしなくって良いんですか!?」


 てっきり女性と戯れる彼へ嫉妬の苦言でも告げるのかと思っていたが、アスレイの予想に反して彼女が口にしたのは『魔女』という言葉であった。

 どうやら彼女はアスレイ同様、職務怠慢といった様子の領主に対して憤りを抱いたようであった。

 がしかし、突然現れたレンナに怒りの形相で睨みつけられているというのに、ティルダは顔色一つ変えないでいる。

 不思議なくらい穏やかな様子でティーカップを手に取り、それから彼女を見つめる。


「おやおや、そんなに怒った顔をしていると美しい顔が醜くなってしまうよ」


 余裕の表れなのか、逆にそんな悠長な言葉をレンナへ投げかけるくらいだ。


「あ、貴方に言われなくっても結構よ! あたしは怒った顔もチャームポイントって言われてんだから!」

「そうかい?」

「アンタらもアンタらよ! ホイホイと見っともなく集まっちゃって何が魔女怖―いよ! 何が私のナイト様よ。そもそも彼はナイト様じゃなくて領主様よ!」


 そう叫ぶレンナは、次にティルダの取り巻きである女性たちに牙を向ける。

 当然売り言葉に買い言葉の如く。女性たちの怒りは急速に沸点へと達し、揃ってレンナを睨み返していた。


「ちょっと何このガキ」

「ティルダ様に構って貰えないからって私たちに奴当たりするんじゃないわよ!」


 喧嘩腰となった両者は、今にも取っ組み合いになり兼ねない険悪な雰囲気となってしまう。

 そんな事態の一部始終を目撃していたアスレイは、何故レンナがあそこまで激怒しているのかと思いつつも、急ぎ渦中へと向かって駆けて行く。

 が、そんなアスレイを後目に、ユリは突如、驚くほど俊敏な動きを見せた。

 音もなくアスレイの前を駆け抜けて行き、彼女はあっという間に領主たちの元へと辿り着く。


「え…早っ…!」





 ユリは憤怒するレンナの前へ立ちふさがるように立つと、主人であるティルダに向けて深々と頭を下げた。


「申し訳ございません。この方は私めを助けてくださった方でして、是非お礼がしたくお連れしたのです。故に彼女が取った非礼は私めが犯したも同然。何卒ご慈悲を…」


 静かに深く、丁寧に腰を折り曲げているその様子はまさにメイドの鑑といったところだ。

 だが、彼女の登場により、何故かその場の空気が一瞬にして凍り付いた。

 それは彼女が刹那に、無意識に放った凛としながらも冷たい、殺気にも似た気配のせいなのだろうか。

 思わず足を止めてしまい遠目で目撃していたアスレイから見ても、突然言葉を無くしたかのように黙り込む彼女たちの姿が異様に映った。







   

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