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 酔いもすっかりなくなったらしく、ふらつく様子もなく真っ直ぐな足取りで逃げ去っていく男たち。

 そんな後ろ姿を見送っていると、驚いたといった顔を見せているレンナがアスレイの隣に並ぶ。


「意外とやれば出来るんじゃん!」


 その言い回しにアスレイは苦笑を浮かべ、肩を竦める。


「こう見えても一応護身術は学んでいるんで」


 若干の自信を含みながらそう言うと、レンナは「だって」と即答する。


「この前は酒場で派手に負けてたし」

「あ、あれは相手が魔道士だって知らなかったから…それに女の子だったからちょっと油断したんだよ」


 『女の子の魔道士に吹っ飛ばされた』という嫌な記憶を持つのは、逃げ出した彼らに限ってのことではない。

 アスレイもまた彼らと同じ体験をしていたからこそ、彼らには同情も抱いていたしその傷に触れれば激高して攻撃が単調になるだろうと読み、敢えてそう誘った算段もあった。

 とはいえ、そんな傷がまだ癒えていないにも関わらず性懲りもなく同じ愚行を繰り返したのだ。これくらいの仕置きは当然だろうと、アスレイは三人の去っていた方を見つめていた。







「っていうか、わざと地図広げて見せて隙を見せるなんてしないでさ、始めっから叩き伏せちゃった方が手っ取り早く終わったんじゃないの?」


 両手を腰に当てながらレンナは、呆れた様子でアスレイにふと思ったことを尋ねる。

 するとアスレイは先ほど投げ捨ててしまった地図を拾い上げながら答えた。


「あれはホントに教えてあげようと思ったんだよ」


 直後、レンナの素っ頓狂な大声が通りに響く。


「いやあ、嘘付いてるのはわかってたんだけどさ。それでもあの人たちをもう少し信じてあげてみたかったから」

「…呆れた。あんたってマジで変わってるわ。てか人見る目なさすぎ」


 彼女の大きな、わざとらしいため息がアスレイの耳に残る。

 地図についた土埃を叩きつつ、そんなことはないとアスレイは得意げな顔をして見せた。


「こう見えても人を見る目はあるよ」

「ないない、マジでない」


 しかし得意顔の彼に対し、レンナは即座に片手を左右に振って一蹴する。

 と、アスレイは突然じっとレンナを見つめた。

 真っ直ぐに、全く逸らすことなく見つめている彼の双眸に気付いた彼女は、僅かに動揺を見せ、慌てて視線を逸らす。

 するとアスレイはたっぷりの笑顔を見せながら、自信たっぷりに言った。


「うん、間違いない。レンナは良い子だよ」


 その言葉の直後、瞬時にレンナは反応する。

 真っ赤にした顔をアスレイに向け、叫んだ。


「はあっ!? どうしてそうなんの? あたしは、ぜんっぜん良い子なんかじゃないから!」


 その叫び声は最早怒声に近いもので、裏路地の向こう側にまで響いているかと思う程だ。

 が、アスレイはそんな様子の彼女に動じる事もなく。

 口元に笑みを浮かべたまま断言する。


「俺は信じてるよ。レンナは良い子だって」


 そう言ってみせる彼の顔は純心以外の何ものでもなく。

 そんな笑顔を見せつけられたレンナは、最早閉口せざるを得なかった。

 上がっていた体温は急激に冷めていき、呆けたとばかりに高ぶっていた感情は萎んでいく。


「馬鹿らし…勝手に言ってなさいよ、もう」

「ホントに俺の目は言ってるんだけどなあ、レンナは信じられるって」

「はいはい、寝言は寝てから言いなさい」


 アスレイの言葉をこれ以上は受け付けないとばかりに軽くあしらうと、彼女はさっさと彼から離れていく。

 それからその地面へとしゃがみ込み、「そんなことよりも…」と話題を変えてしまった。


「とっとと証拠品探ししちゃおうよ。こんなに薄暗いと夜にはマジで何も見えなくなりそうだし」


 話をすり替えられてしまい吐息を洩らしつつも、彼女の言う通り本来の目的を見失ってはいけないと、アスレイもまたその場に屈み込む。


「そうだな、兎に角証拠っぽいものは片っ端から拾ってこう!」


 と、そう言いながらアスレイは地図をハーフパンツのポケットにしまい込み、本格的な捜索を開始する。

 だが、一日中薄暗い裏路地は苔やゴミが至る所に散乱しており、思わず目を反らしたくなる程。

 捜索の手も無意識に止めてしまいそうになる。

 しかしだからこそ、この場所で何か証拠品を落したとしても賊たちはそう簡単には気付かないだろうと思われた。

 もしかすると本当に此処で何かが見つかるかもしれないとアスレイは意気込み、地面を這いつくばるようにして周囲をくまなく探し始めようとした。

 そのときだ。





「あ、あの…」


 二人の手が止まる。

 振り向いた先には、先ほど助けたはずのメイドが未だその場に立ち尽くしていた。

 もう去っても良いはずの彼女が何故か困惑した顔で立ち止まっているため、アスレイはその場から起き上がると微笑みを浮かべた。


「えっと…ユリさん、で良いのかな。ここは安全な場所じゃないから、早く移動した方が良いですよ。追っ払った連中がまた戻って来る可能性もあるし」


 そう言ってアスレイは彼女の移動を促すべく、おもむろにその背を押そうとする。

 が、レンナの白い目線に気付き、慌てて触れる寸でで両手を放した。

 しかしユリはそれでも帰る様子を見せず、それどころか一向に戸惑った様子のまま、アスレイを見つめている。

 どうしたものかとアスレイまでもが困惑してしまう。

 と、彼女はおもむろにその口を開いた。


「あの…お二人は、此処で一体何を…?」


 どうやら彼女は一緒に立ち去ろうとはせず、地面と睨みあっていたアスレイたちが気になったようだった。

 するとレンナがため息交じりによいしょと体を起こし、告げる。


「見てわかんないの? 探し物よ、さ・が・し・も・の。今この町を騒がしてる失踪騒動の証拠を探してるってわけ」


 やけに強めの口調でそう話すレンナ。

 八つ当たりのようにも聞こえるその台詞は、彼女の苦労も知らずにきょとんとしているメイドに向けての当てつけと言ったところだった。

 何もそんなムキになって説明しなくともと内心思いつつ、アスレイももう一度彼女を帰すべく、説得しようとした。のだが。

 それよりも先にユリの方が口を開けた。


「あの…よろしければ、その探し物が急ぎでないのでしたら…是非とも、助けてくださったお礼をしたかったのですが…」


 と、控えめに彼女はそう告げる。


(ああ成る程、だから直ぐには帰らずにいたのか)


 そうアスレイが思ったのと同時に、レンナが大声を張り上げた。


「えーっ! ホントにッ!?」


 今度は先ほどとは真逆の、歓喜に満ちた声が路地裏の奥にまで轟いていく。

 彼女の歓声が何を意味しているのか。アスレイは直ぐに察しがついた。


「だけど、別に領主に会えるってわけじゃないだろ…?」

「あ、いえ。是非ご主人様にお会いして下さい。きっとご主人様も同じことを仰ると思いますので」

「え、いいのいいの?」


 ユリの言葉にレンナが益々浮かれた態度を見せる。

 一方で予想もしなかったまさかの展開に驚き、目を丸くするアスレイ。

 二人の正反対な表情を後目に、ユリは両手を腹部で丁寧に重ね合わせながら「はい」と微笑みを浮かべてみせた。




 しかし正直な話、アスレイは余り気乗りしなかった。

 つい先日までは領主と会う事に執着していたわけではあるが、今となっては証拠探しの方が確実に解決へ導く手段だと確信しており、出来るだけそちらに時間を費やしたいと思っていたからだ。

 別に領主と直接会うのは、その証拠が見つかってからでも良かった。むしろその方が都合も良いというもの。

 そう判断したアスレイは彼女の申し出を断ろうとする。

 が、しかし。





「わかった。よし行こ行こー!」


 完全に有頂天となっている少女は強引にアスレイの腕を引っ張ると、もう片手で拳を作り頭上へ突き上げて見せた。

 今までにないほどのテンションの高さにアスレイは思わず閉口してしまう。

 更に宝石の如く輝く彼女の瞳を見ては、これはもう止められそうにないと早々に悟り、アスレイは諦めのため息を吐き出した。

 そもそも、アスレイは半ば強引に自分の頼み事に彼女を付き合わせている。

 そのため彼女の強行を拒否することも出来ず。アスレイは仕方なくレンナにされるがままに歩き出す。

 そんな二人の背後では苦笑のような笑みを浮かべて歩くユリの姿があった。







   

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