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 建物と建物の隙間、抜け道とも言えるその通りを歩いていくアスレイとレンナ。

 日光さえ射し込まないその日陰道は確かに人気もなく、人を浚うにはうってつけの場所と言えた。


「こんな通りがあるなんて気付かなかったな」

「近道っちゃあ近道だけど…あんま好き好んで通りたいって道じゃないね」


 この道を推した当人であるレンナが思わずそう言ってしまうほど、そこは独特の陰湿な空気を漂わせていた。

 と、突然レンナが足を止める。

 その後ろを歩いていたアスレイはそれに気付かず、彼女の背中へとぶつかってしまった。


「おわっ。何かあった?」


 彼女の顔を覗き込むようにして尋ねるアスレイ。

 しかしレンナの視線はアスレイにではなく、前方へと向けられている。


「あんなんまで居るんだから、ホント最悪の道じゃん」


 アスレイはレンナの見つめる視線の先へと目を移す。

 するとそこには三人の男と一人の女性の姿があった。




 それは典型的な、困った様子の女性を取り囲んでいる男たちといった図式で。更にアスレイが驚いたのは、その人物が顔見知りであったということだった。


「あれってキャンスケット領主のメイドの…ユリさん…?」

「ティルダ様の侍女が何でこんな場所に…?」


 以前出会った時同様の―――如何にもメイドといった風貌である彼女は、人通りの多い場所だったならば、直ぐ様衛兵に助けて貰えていたことだろう。

 しかし人通りの全くないこの場所では、いくら領主のメイドであろうとも、悲鳴を上げていたとしても、誰も気づけやしない。

 その証拠に、彼女は顔を伏せたままずっと硬直している様子で。随分としつこく絡まれ続けていたように見えた。

 アスレイは居ても立っても居られず、レンナを押しのけ四人のもとへと駆け寄っていく。





「こんな場所で女性を囲んで何やっているんだ」


 そう言ってアスレイは男たちと侍女ユリの間へ強引に割って入った。

 突然現れた助け舟にユリは驚き、目を見開いて彼を見つめる。

 そんな彼女を庇うように自身の後背へ匿いながら、アスレイは男たちに立ちふさがる。

 一方で男たちは当然の如く、睨むようなきつい目線を邪魔者であるアスレイへと浴びせた。


「俺たちはただ道に迷ったから通りがかったその子に聞いてただけだ」

「邪魔すんじゃねぇよ」

「お呼びじゃないんだよ」


 絡みつくようにアスレイへ顔を寄せる男たち。

 彼らから酒の匂いが漂ってくる。

 定まっていない焦点に真っ赤な顔色といった具合から見ても、彼らが酔っ払いであることは明確。

 ため息を深く吐き、アスレイは言った。


「わかった。道に迷ったって言うなら代わりに俺が目的地に案内するから。丁度地図も持ってるんだ」


 そう言ってポケットから取り出した地図を広げて見せ、呑気にも彼らの目的地を尋ねる。




 と、そんな様子を傍から見ていたレンナは彼の言動に呆れ、眉を顰めた。


「ったく、何やってんのよ。どう見てもそんなの口実に決まってんじゃん」


 レンナはそうぼやきながら頭を抱える。

 するとその直後、一人の男がアスレイ目掛けて拳を突き出してきた。

 しかし地図を広げたことでアスレイの視点では彼の拳は死角となっており、気付いている様子はなかった。


「言わんこっちゃないっ!」


 瞬時に男の動きを察したレンナはそう嘆きつつも助けに入ろうとする。

 が、次の瞬間。

 殴りかかろうとした男は何故か足を縺れさせ、派手に転んでしまったのだ。

 一方のアスレイは、背後に居たユリごと寸でで避けたため無傷であった。

 何が起こったのかと一瞬驚く男たち。

 しかし遠目で目撃していたレンナには、彼の起こした一瞬の動きが見えていた。


「あの体勢から足払い…?」


 あの刹那、アスレイは後ろに居るユリを庇いつつ、不意打ちのように素早く差し出した足で男を払い退けたのだ。

 驚く仲間とは裏腹に、転ばされた当人は即座に起き上がると怒りの形相でアスレイへ飛び掛かろうとした。


「テメェ!」


 アスレイは持っていた地図を投げ捨てると、駆けてくる男の動きを一心に見つめる。

 そして突き出した拳を瞬時に見極め、それをひらりと交わす。

 と、同時にその腕を掴んだ。

 自身の体を素早く反転させ、掴んでいる腕を軸に男の勢いに被せて、彼を放り投げた。




 綺麗な一本背負い。

 男の体は宙を回転し、地べたへと落とされる。

 背中を強打した男は直後、「うぐっ」という呻き声を上げた。

 軽々と倒された仲間を見て酔いも醒めたのか、残りの二人も臨戦態勢となり、自身の拳を構え始める。


「やる気かよ…!」

「道案内するとか嘘つきやがってぇ!」


 そんな彼らへアスレイは額を掻き、呆れたため息を吐きながら答えた。


「嘘をついて先に襲ってきたのはそっちなのによく言うよ。そもそも―――最初っから俺はアンタたちのことを信じてないから」


 アスレイの脳裏に過る、あの日の光景。

 ネールに軽々と吹き飛ばされ逃げ出していったあの三人組の男たち。今目の前にいる彼らは()()()()()だったのだ。


「というよりも…この間あんなに派手にやられてたばっかりなのに…よく懲りないよね」


 吐息交じりにアスレイは言う。

 彼の言葉を聞き、男たちもアスレイ同様の記憶が蘇ったらしく、紅い顔を更に赤く染めていく。


「て、テメェ何でそれを…!」

「クソオォォッ!」


 男たちは雄叫びを上げるなり、二人がかりでアスレイへと飛び掛かってきた。

 だが、ただでさえ酔いが回っているというのに、怒りに身を任せた彼らの動きは、誰が見ても単純そのものであった。

 突き出した拳は次々と交わされ、逆に男たちはアスレイに軽々と投げ飛ばされてしまう。そうしてデジャヴの如く呆気なく負けてしまった彼らは、またしても安直な捨て台詞を吐きながら逃げて行く末路を辿ったのだった。







   

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