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 レンナが凄まじい勢いで去ってから直ぐ。また新たな客がアスレイの前に現れる。

 これまでだとその登場に驚いていたところだろうが、今回は不思議とそんなこともなく。


「もしかして立ち聞き?」


 と、軽いため息を漏らしたくらいであった。


「聞こえてきたまでだ」


 一言そう言ってアスレイの前へとやってきたネールとケビン。

 二人は先程レンナが座っていた位置の席に腰を掛ける。


「二人も遅めの朝食?」

「いや、早めの昼食だ」


 そう言ってメニュー表を手に取るケビン。

 この食堂は混雑回避のため、朝の時間帯はセルフサービス形式になっている。

 そして、ネールたちが入って来た時刻からは丁度ランチタイムの始まりとなったわけだ。


「…二人もまだこのキャンスケットに滞在するの? そっちの目的だって人探しなわけなんだし、王都で聞き込みした方が早く見つかるんじゃないのか?」


 直後、ケビンは一瞬だけ目を見開き、そしてネールの方を一瞥する。

 どうやら彼はネールがアスレイに自身らの事情を説明していたと知らなかったようだった。

 ネールはそんな彼の視線も気にせず、メニュー表に目を送りながら口を開く。


「確かに情報収集は人気の多い場所でするべきだろうが、こういう場所だからこそ手に入る情報というのもあるからな」


 淡々と語るネールの言葉に「なるほど」とアスレイは洩らす。


「…それで、君はどうするつもりなんだ?」

「え?」


 ネールの視線がメニュー表からアスレイへと移る。


「先ほど『何かやっておきたい』と言っていたようだが…それは、このままただただ夜の町を巡回し続ける、ということなのか?」


 無言のまま、アスレイは目線を落とし、自然と顔は俯く。

 出来ることなら自己満足で終わらせたくない。何か自分に出来ることがあるのならば、役に立ちたい。

 だが、アスレイがこの町の部外者である以上、カズマと共に夜の見回りをすること以外、何か出来るとは到底思えなかった。


「……正直な話、どうしたらいいのか迷ってる。他人を疑いたくない町の人の気持ちもわかるけど、だからって魔女のせいにしたままで良いともやっぱり思えない。浚われた可能性があるならその人たちを助けてあげなきゃ駄目だ。けど…俺一人じゃ、何も出来ないし…」


 無意識にアスレイはスプーンの動きを止め、身の内に秘めていた言葉を吐き出す。

 こんな愚痴の様な話を二人にしてしまうとはと、アスレイは内心不思議に思っていたが、彼らが醸し出している落ち着いた雰囲気がそうさせたのかもしれないとも思う。

 すると、ネールは小さく吐息を洩らした。


「このままでは当然、君は賊を退治することどころか失踪者を見つけることも出来ないだろう」


 判りきっていた事とはいえ、はっきりと言われてしまってはアスレイでも表情は曇る。

 顰めた顔を隠すように彼は更に俯いていく。


「―――だが、それは君が『夜の巡回』だけでも良いと考えているならばの話だ」

「え…?」


 更なる叱咤が飛ぶと思っていた矢先の意外な言葉に、アスレイは思わず顔を上げた。


「始めから何も出来ないと決めつけ、『頑張った』と誰かに認められたいがためにこうして話したのならば、確かにそれはただの自己満足だろう。だが、君はそうではない。まだ自分には何か出来ると信じている。そうだろう?」

「…そう、だけど」


 彼女の言葉の意図が読めず、曖昧な返答をするアスレイ。

 そんな彼へ真っ直ぐな瞳を向けてネールは告げる。


「だとすれば、ただ『どうすれば良いのか』と言うだけではなく、君一人で『何が出来るのか』をもう一度しっかり考えてみたらどうだ?」


 助言と見せて結局はいつものように叱咤されているだけではと思いつつも、アスレイはネールに言われるまま頭を捻らせる。

 とはいえ腕を組み、考える仕草をしたところで直ぐに妙案は浮かばず。


「そもそも俺一人でやって出来る事なんて…何もないんじゃ…」


 そう洩らしつつ、真剣に考え込むアスレイ。




 と、ここまで静観していたケビンは不意に視線を感じ取る。

 隣を見やると、そこでネールが何か合図らしきを送っていた。

 その意図に気づいたケビンは、静かにため息を吐き出してから、おもむろに口を開いた。


「…あー、そうだな…アスレイ()()では確かに何も出来ないかもしれないが、逆に()()()()()()()出来ることはないのか、そこから考えてみたらどうだ?」

()()()()()()()出来ること…」


 アスレイの視線がケビンへと向けられる。


「後は…一人では出来ないと思っているならば、味方を増やす、という考え方もある」


 ケビンの助言を聞いたアスレイは暫くの沈黙後、「なるほど」と呟いた。


「そっか。わかった、色々とありがとう!」


 その瞳はいつの間にか輝きを帯びており、何かに閃いたのだろうことを物語っていた。


「ああ、やるだけのことをやってみろ」


 そうケビンが一声掛けると、アスレイは満面の笑みを浮かべる。それから彼は残りのガスパチョを一気に口へとかき込んで席から立ち上がり、善は急げとばかりに食堂を飛び出して行った。







   

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