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 昨晩遅くまで見回りしていたせいか、今日のアスレイはいつもより遅く起床し、遅めの朝食を取っていた。

 しかしピーク時を過ぎた食堂は閑散としており、お陰でゆっくりと食べる事が出来る。

 と、アスレイは思っていたわけだったが。そんな彼の元へ、意外な客が姿を見せた。


「アスレイじゃん。こんな時間に珍しー」


 そう言ってアスレイの前に現れたのはレンナだった。

 彼女はアスレイと同じく遅めの朝食を取るようで、注文したものであろうパンとサラダのセットをトレイに乗せていた。

 そして、わざわざアスレイの前の席へ座り込むと、早速皿のパンを頬張った。

 アスレイはそんな彼女を見つめながら「おはよう」と間の抜けた挨拶をし、大きな欠伸を一つ零す。

 それを見つけたレンナは不機嫌そうに眉を顰めさせながらもう一口パンを頬張る。


「ったく…そんなにまでなって未だに領主様探ししてんの?」


 その言葉からして、どうやら寝不足の原因が領主探しによるものだと思われていると察したアスレイは、かぶりを左右に振って答える。


「それは諦めたよ。今はカズマと夜の町を見回りしているところ」


 と、レンナは直後驚きの表情を見せた。


「え、そうなのっ?」


 いつになく興味を持ったらしく、彼女はその輝く瞳をアスレイへ見せつける。


「いいないいなー、あたしも参加したーい」

「領主じゃなくてカズマなのに?」

「確かに性格はアレだったけど…イケメンには違いないし。それにカズマさんと親しくなれば、領主様ともお近づきになれるかもしれないじゃん!」


 彼女はキラキラとした表情で乙女らしい妄想に耽っている様子であったが、そんなレンナの思惑を裏切るかの如く、アスレイはまたしてもかぶりを振って答える。


「悪いけど、カズマには無理を言って同行させて貰っているし、夜の町は危険だから駄目だ」


 そんな彼の言葉を聞くなり、再びレンナの表情はガラリと変わり不機嫌なものとなる。

 その変貌ぶりに若干の罪悪感を抱いたが、彼女のためにも引くわけにはいかなかった。


「なんでー? アンタがいいのに、あたしは駄目なの?」

「本当ごめん」


 そう言ってアスレイは両手を強く合わせてみせる。

 更なる追求も皮肉も覚悟していたアスレイだったのだが、意外にもレンナはそれ以上の文句は言わなかった。

 すぐさま諦め顔になり、深く背もたれに寄りかかりながら「まあ良いけど」と漏らしていた。

 すんなりと諦めてくれたことにとりあえず安堵したアスレイは、小さく吐息を出してから皿のガスパチョを一口分掬った。


「…でもさアンタ、本来の目的忘れちゃってんじゃないの?」


 無意識にスプーンの手が止まる。

 アサはレンナの方へと視線を向けた。


「アンタの目的って天才魔槍士に会うことでしょ?」

「そう、だけど…」

「なのに今ここでこうして夜の見回りなんてして時間つぶしてていいわけ?」


 言われていることに間違いはないため、アスレイは反論が出来ない。


「これから王都じゃ生誕祭が始まる。そうすればどんなに忙しいって言われる彼だって国王直下の王宮魔道士だし、絶対王都に戻って来るに決まってる」


 だからこそ、今王都へ行くことに価値がある。

 レンナはそう力説する。


「馬車が無いのは残念だけどさ、だとしても歩いてでも王都に向かうべきなんじゃないの?」


 あたしだったらそうするわ。と、付け足すと彼女はアスレイへ向けていたパンを勢いよく頬張った。

 確かに彼女の言っている事は正論だとアスレイも思う。

 天才魔槍士に会いたいという目的があるならば、今はどうあっても王都へ向かうべきなのだろう。

 が、しかし―――。


「ありがとう。でもやっぱり俺はまだ此処に残るよ」

「なんで?」


 アスレイの言葉に、レンナは即座に尋ね直す。

 眉を顰めているその顔は、アスレイの答えに理解出来ないといった様子であった。


「確かに、今王都へ行けば天才魔槍士に会える可能性もあるんだろうけど…やっぱりこの町で今起こっている事態を放っておけない」

「けどそれってアスレイじゃどうにもならないことじゃん。それなのに居座るって…いつまで?  ずっと居座るつもり?」


 冷静な口振りで告げているが、その様子には憤りのような感情が見え隠れしている。

 アスレイはそんな彼女に苦笑いを浮かべた。


「何も出来ないのはわかってる。でも、自己満足だとしても何かやっておきたいんだ」


 譲らないアスレイの態度に呆れたらしく、レンナは深いため息をわざとらしく吐き出す。


「ホント自己満だわ、それ」


 悪態を付くような言いぐさで、それからやけ食いの如くパンにかじりついた。

 しかし、言動こそ悪く見せているものの、彼女が自分のためを思って言ってくれているのだと感じたアスレイは微笑を浮かべながら軽く頭を下げた。


「心配してくれてたみたいでごめん。それとありがとう」


 レンナの表情が一変する。


「別に…アスレイのために言ってるわけじゃないし。ただあたしは目先にばかり囚われてたらチャンスを逃すって忠告してるだけ!」


 そう言うと彼女はサラダを強引に口へかき込んだ。

 怒りとも取れる態度だが、それは照れ隠しのようにも見えた。


「だけどそれって結局…」

「あーもうこの話はこれで終わり。はい、終わり!」


 それから勢い立ち上がり、レンナは逃げるように食堂を去っていく。

 一人取り残されたアスレイはそんな彼女を思い苦笑しつつ、改めてガスパチョを頬張った。







   

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