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 食事を終えたアスレイは、カズマの忠告通りに領主邸のある広場を後にする。

 後ろ髪を引かれる思いであったが、これ以上留まっていても領主ティルダと出会える保証もなく、またカズマに迷惑を掛けてしまう可能性もある。

 そのため、仕方なく別の場所へと移動することにしたのだった。

 が、しかし。


「夜までやることなくなっちゃったなー…」


 直談判する算段も崩れてしまってはアスレイには最早やるべきことは何もなく。

 また日雇いの仕事をするという選択肢もあったのだが、そんな気分にもなれず。

 気付けばぶらぶらと、街中をさまよい歩いていた。




 宛てもなく歩く一方でアスレイは、カズマの残した言葉の意味について考えていた。

 

「―――この町の者たちが魔女を信じたがる理由。それってどういう意味なんだ…?」


 いくら頭を捻り、首を傾げても答えは出ず。

 考えを巡らせながら彼は歩き続けているのであった。




 と、アスレイの足が止まった。

 彼の前方で道を塞いでいる人影を見つけたからだ。

 人影は男が三人、女性が一人。

 男達は女性を取り囲み、何やら話している。


「なーなー、お姉ちゃん。ぶつかっておいて謝りもしないとかそりゃないだろ?」

「お詫びとしてさ、ちょっくらあの辺の酒場でお酌してくれるとか…してくれると穏便に済むと思うんだけどなぁ」


 聞こえてくる内容から察するに、どうやら女性に適当な難癖を付けて、何処かに誘い出そうとする手荒いナンパのようだった。

 例の失踪事件とは、全く関係なさそうだ。

 アスレイがそんなことを思っている間に、男達は女性の腕を引っ張り、強引に何処かへ連れていこうとしている。


「な? 良いじゃねえかよちょっとくらい」


 そんな声がアスレイの耳にも届く。だが、彼は全く持って助けに行こうとはしない。 

 動こうともせず、むしろ深いため息を吐き出して、男達の方に同情していた。


「あちゃー…凄い人を敵に回したちゃったな」


 その言葉から間もなく。男達は情けない悲鳴を上げた。

 突風によって吹き飛ばされていく様は、まるで先日の自分の姿が再現されているかのようで。

 アスレイは複雑な気持ちで男達の惨めな後姿を眺めていた。


「お、覚えてろよ!」

 

 ありがちな台詞を吐きながら、必死の様子で逃げていく男達。

 それと入れ違いでアスレイは女性へと近付いていった。


「…ホント、手加減ないよね」

「君か」


 アスレイの存在は既に気付いていたらしく、さして驚く様子もなく女性―――ネールは答えた。


「というか…まだキャンスケットにいたんだね。もうとっくに町から出ていると思ってた」


 実はネールと会うのはあの食堂で出会った以来振りとなる。

 偶々顔を合わせる機会がなかっただけのようだったが、アスレイはてっきりネールたちは既にこのキャンスケットを出ていたのだと思っていた。


「調べ物に手こずっていてな。まだ暫くは滞在しているつもりだ」


 淡々とそう話すと、ネールは静かに歩き始める。

 そのまま別れても良かったのだが、特に行く宛ても用事もなかったアスレイは自然と後を追うようにネールの後を追い、歩き出す。

 とはいえ、沈黙のまま歩くのは流石に気まずいと察し、彼女の隣に並ぶなり適当な話題を振った。


「ケビンはどうしたんだ?」

「別行動で情報収集中だ」

「情報って…どんな?」

「詳しくは言えないが―――我々はとある人物に頼まれ、ロエンという男を探している。今はその情報を集めているところだ」


 相変わらずの淡々とした口振りではあるが、意外にもネールは素直に事情を答えてくれた。

 内心驚きを抱きながらも、アスレイはネールの告げた男の名を記憶から掘り起こそうと試みる。

 が、生憎聞き覚えがなかったため、その情報に対して答えてあげる事は出来なかった。

 代わりにアスレイは別の言葉に興味を移す。


「…その『とある人物』…って、どんな人?」


 ネールたちに捜索を頼んだという人物が、どんな人なのだろうか純粋に興味を持ったのだ。

 しかし、それは流石に「答えることは出来ない」と即答されてしまう。

 これでこの会話は終わってしまったらしく、再び沈黙が始まる。

 そのためアスレイは急いで次の話題を振る。


「そういえば、君って魔道士なんだってね」

「そうだな」

「人を軽々と吹き飛ばせるなんて凄いよな魔道士や魔術士って。俺もそういうのになれたり出来るのかなー」

「魔道士は魔道具と資格さえあれば誰にでもなることは可能だ。だが、一方で魔術士は血筋や技術を持ってしても、生まれ持った才能がなければなることは叶わない」

「なるほどね」


 軽くあしらっても良いアスレイの質問に、これまた意外に、丁寧に説明するネール。

 だがその歩調は一定のリズムを刻んだままであるため、其処までの興味があるというわけでもないらしい。

 事実、ネールの説明が終わると同時に、この話題もまたここで終了となってしまった。

 振っていく話が次々と返され、そして終了していくことに焦りのような、憤りのような複雑な感情を抱き始めるアスレイ。

 他に何か良い話題はないかと、近くで見つけた旨い料理屋の話でもしようかと思った矢先。

 ふとアスレイは先ほどまで自身の中で抱いていた謎について、思い出す。


「あのさ…この町で起きている事件って知ってる?」

「…ああ、失踪者が出ているという話か。何も告げず町を出た者を行方不明だと言っているとか、黄昏誘う魔女が復活して人々を襲っているとか言われているようだな」


 ネールの視線がようやくアスレイへと移される。

 情報収集をしていたというだけあり、やはりこの手の話の方が興味を持つらしい。

 そう確信したアスレイは例のカズマが言い残した謎について尋ねることにした。


「この町で親しくなった人がさ、このキャンスケットの人たちは魔女を信じたがってるんだって言っていたんだけど…それってどういう意味だと思う?」


 そう投げかけられた彼女はてっきり思案顔の一つでも浮かべるのかと思ったのだが、またしても彼の予想外の返答をする。


「何故それを私に聞く…?」


 それは当然といえば当然の質問でもあった。


「まあ…さっきから一人であれこれ考えていたんだけど答えが浮かばないからさ。君の意見を聞いてみようと思って」


 そう答えるアスレイにネールは「なるほど」とだけ返す。

 気のせいかその歩調は先ほどよりも遅くなっているように見えた。

 しばらくは思案に沈黙することだろうと、唸り声を期待していたのだが、アスレイの想像は尽く覆される。


「簡単なことだ」


 ネールはそう言った。







   

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