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 それからアスレイは3日間、カレンの職場で仕事をし続けた。

 始めは筋肉痛と戦いながらの作業であったが、3日目になると多少は楽に動けるようになっていた。

 体力が付き給金も得られ、更に昼夕食はカレンの手料理もご馳走になれた。

 まさに至れり尽くせりで最高の職場と言えた。

 これで人手不足だというのだから不思議な話しだと、アスレイは思ったくらいだった。

 しかし、アスレイの本来の目的は此処で仕事をすることではない。

 旅の資金は十分に貯まった。

 どんなに素晴らしい仕事場とはいえ、これ以上長居は出来ないと思った。

 否、素晴らしい場だからこそ長居は止めようとアスレイは思った。

 これ以上、カレンたちと一緒に居ては別れが辛くなってしまうと考えたからだ。






 四日目。

 アスレイはこの日を最後の仕事と決め、慣れた足取りで倉庫へとやってきた。

 だが、倉庫前に辿り着いたところでアスレイはいつもとは違う雰囲気を感じとる。

 恐る恐る倉庫内を覗き込んでみると、そこには皆が作業もしないで人だかりを作っていた。

 その中心にはルーテルの姿がある。


「何かあったんですか?」


 状況が掴めないアスレイは、人だかりの方へと歩み寄りながら尋ねた。

 皆の視線を浴びつつ近付くアスレイに、困った表情を浮かべているカレンが答えた。


「それがね…ルーテルの友達が突然居なくなったんだって…」

「居なくなった?」


 するとカレンの視線がアスレイからルーテルへと移る。

 つられるようにアスレイも彼女を見遣ると、ルーテルは顰めた顔をしたまま黙って俯いていた。


「ルーテルさんの話では一昨日からファリナさんが家に帰っていないみたいでして…」


 ルーテルに代わり事情を説明するリヤド。 

 しかし、彼女の代弁者であるはずのリヤドも、流石に今回は困惑した表情を見せている。


「ファリナって…確か俺より二日前から働きに来てたっていうあの子か」


 と、思案顔を浮かべるアスレイにリヤドは「そうです」と目を大きくして答える。




 ファリナというのは、ルーテルの紹介で数日前からここへ働きに来ていた女性だ。

 ルーテルと同じ孤児院出身で同世代ということもあり、彼女にしては珍しく特別気にかけていた人物だった。

 だが、一方のファリナ本人は仕事の苛酷さからか、全く働こうとはしていなかった。

 性格もルーテル以上の人見知りであったため、仕事仲間からも浮いた存在になっていた。

 カレンやリヤドでさえ、彼女とはほとんど会話をしていないというのだから相当なのだろう。

 アスレイも記憶に浮かぶ彼女の姿は、いつも倉庫隅で見学者のようにぼう然と立っているだけ。というイメージであった。




「昨日の夜、ルーテルが町中探して回ったらしいけど…何処にもいないみたいで」

「衛兵団に相談したんですか?」


 アスレイの問いにカレンは「勿論したさ」と即答する。

 しかしその曇った顔色を見る限り、衛兵団から良い返答は貰えなかったようだった。


「この町の特性でね…移民が多いために住民とそうでない人たちとの区別が難しいからね」


 このキャンスケットの町は住民や移民以外にも、出稼ぎで来ているだけの者やただの観光客も多くいる。

 そのため、昨日隣にいた人間が明日にはいなくなっている。という話はよくあることなのだそうだ。


「ある程度金を貯めて町を出て行く孤児も少なくはない…だからファリナも―――」

「だからって、何も言わず居なくなるなんて有り得ない!」


 カレンの推測を強引に遮り、ルーテルは怒声を上げる。

 そして、その場から逃げるように突如走り出していく。

 呼び止める皆の声も聞かず、彼女は何処かへと去っていってしまった。

 残された者たちには気まずい空気が漂っていく。

 が、それを打ち消すようにカレンが突然大きなため息を吐き出した。


「しょうがない子だね…とにかく、ルーテルのことは放っておいて、みんなは仕事に戻っとくれ」


 そう言いながら彼女は両手をパンパンと力強く叩く。

 それが合図となり、一同はそれぞれの持ち場へと散っていった。

 と、不安げな顔を浮かべたままのリヤドへ、仕事仲間の男が話しかける。

 リヤドよりも倍以上も年上であろう中年の男は、ひっそりと少年へ耳打ちをした。


「なあ…もしかして、ファリナも噂のアレに浚われたんじゃねえか?」


 ()()()()という単語が耳に入り、アスレイは彼らの方へと視線を向けた。


「でもそれはあくまで噂じゃないですか…」

「いやいやいや。最近ファリナのようにある日何も告げずに忽然と消える奴が少なくないって話よ。だから衛兵団もどうしようもなく失踪扱いにするしかないんだとか」


 早く自身の持ち場に付かなくてはいけないのだが、どうにも彼らの話が気になってしまい思わずアスレイは踵を返す。

 そして、リヤドたちの傍に近寄り、尋ねた。


()()()()って…?」

「そりゃあ―――黄昏誘う魔女だよ」


 予想通りの回答にやっぱりかとアスレイは眉を寄せる。

 同時に、先日カズマから受けた忠告が脳裏を過ぎる。






『今この町は魔女に狙われている』






 正直半信半疑であったが、この実態を目の当たりにしてはその考えも捨てきれなくなったとアスレイは思う。


「こうなったら領主様に直談判して、魔女討伐してもらって来いよ」


 と、男は親しげにリヤドの肩を組んで言う。


「って、えええっ! 僕がやるんですか?」


 男の言葉に無理無理と素早く首を左右に振るリヤド。


「ほら、そこの三人。早く仕事しな!」


 そんなやり取りがカレンの耳に入ってしまったらしく、彼女は眉間に皺を寄せながら、アスレイたちを怒鳴りつけた。

 普段は温厚である彼女だが、その怒る様は鬼の様だ。というのをアスレイはこの三日間で既に何度も体験している。

 カレンが鬼となり雷が落ちる前にと、三人は慌てて作業へと向かい走り出した。

 その最中、ふとルーテルの去る姿を思い返し、アスレイは人知れず眉を顰める。

 しかし、今はどうすることも出来ないため、仕方なく仕事をこなしていった。







 

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