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 聞くところによるとレンナもまたアスレイ同様、空席がなく困っていたとき、運良くケビンに声をかけて貰ったらしい。

 アスレイと知り合いのようだったから、との理由でケビンは声を掛けてくれたらしく、それだけでも彼の人の良さが伺える。


「ほんとケビンのおかげで席が空くの待たずに済んだし、助かっちゃった。もう性格合わせて90点って感じ」


 満面の笑みを浮かべながらそう言ってパスタを頬張るレンナ。

 彼女の言葉にはアスレイもケビンも苦笑するしかない。


「そういやどうして三人ともここにいるんだ? てっきりもう次の町に行ったかと思ってた」


 メニュー表に目を通していたアスレイは、不意にそんな疑問が浮かび、三人へと視線を移す。

 彼の質問に合わせるように、ピタリと手が止まる三人。

 と、先ず口を開いたのはレンナであった。


「あたしはもう少し領主様見学しようと思ってね。色々調べたいこともあるし」


 彼女に続いて、ケビンもグラスの水を呑み込み、答える。


「俺たちも似たようなものだ。調べ物の為、しばらくはこの町に滞在する予定だ」


 なるほど、とアスレイは答える。


「じゃあ四人揃ってしばらくは一緒になるってことか」


 『旅先の出会いは月と同じくまた廻る』とはアウストラでよく使われる諺であるが、まさにその通りだと思いアスレイは苦笑をせずにはいられない。

 そんな彼の内心を後目に、レンナがおもむろに尋ねた。


「ところでアンタは観光、どうだったの?」


 彼女からの質問に今度はアスレイの手が止まる。

 そう言えば彼女にはそう告げて別れていたんだ、とアスレイは数時間前の事を思い返し、頬を掻く。

 ネールとケビンも興味があるらしく求めるような視線を受けてしまい、アスレイは仕方なく自身の事情を話した。


「観光は止めて今は資金調達中だよ。もう何日かは稼ぐつもり」


 するとレンナは「ふーん」と素っ気ない返事をする。

 そんな反応をするのならば聞かなくても良かったんじゃないかと内心呆れつつ、アスレイはウエイターを呼び止め料理を注文する。

 と、今までただ静観していたネールが「なるほど」と、突如静かに吐息を漏らした。


「それで動きがぎこちないのか」


 直後、アスレイの肩が大きく揺れる。

 実は全身筋肉痛であることがバレないように、気を張って平常を装っていたのだ。

 それはただ単にカッコ悪い気がして、という小さな自尊心故の行動であったのだが。

 懸命な努力も空しくこうもあっさりとネールに見抜かれてしまい、アスレイは驚きを隠せなかった。

 すると、先ほどまで興味なさげでいたレンナが目の色を変えてアスレイを見遣る。


「え、もしかして仕事疲れで筋肉痛とか?」


 その表情は明らかにキラキラとしていて楽しげだ。

 アスレイはそれでも毅然とした態度で平気な様を見せつける。

 だが実際はほんの僅かに動くだけでも体が痛く重い。

 そんな心の内を悟られたのか、はたまたからかいたいだけなのか。

 レンナは悪戯な笑みを浮かべながら、面白半分といった様子でアスレイの肩をバシンと叩く。


「ちょっともー大丈夫なの?」

「うぐっ!」


 不意打ちとも言うべき彼女の行動に反応が遅れてしまい、痛みは全身に伝わっていきアスレイは思わず声を上げてしまう。

 明らかに苦痛の表情を見せてしまったアスレイだが、それでも耐えて平気だと笑みを作る。


「だ、大丈夫だって。よく言うだろ? こういうのは寝れば治る! ってさ」


 そう強がって見せたものの周囲の反応は薄く、ケビンは不安げな顔さえ見せていた。

 と、食事も終え腕を組んでいたネールが、またもやため息交じりにその口を開いた。


「…ならば、明日は仕事の足手まといにならないよう、早めにしっかりと休んだ方が良いだろう」


 的確な指摘にアスレイが顔を顰めると、その隣ではレンナがくすりと笑っている。


「なんだったらあたしが特製マッサージしてあげよっか。めちゃくちゃ痛いけど効果バツグンなんだから」


 例えその通りであったとしても、楽し気にそう話す彼女には絶対頼みたくはない。と、アスレイは即座にかぶりを振る。アスレイは顰めた顔のまま無言で目の前の水を一気飲みした。

 どうせならもう少しいたわりや労いの言葉があっても良いのではと思う半面、ルーテル含めた女性から受けているこの仕打ちに、もしや自分には女難の相でも出ているのだろうかとアスレイは一抹の不安を抱かずにはいられない。 

 だが、そもそもこの旅の発端を考えれば、既にそのときからアスレイの女難は始まっている。


(今更俺の女難を嘆いていても仕方がないのか…)


 アスレイはそう思い、人知れず諦めのため息を吐き出す。

 と、そのとき。ウエイターが彼の注文した料理を運んできた。


「お待たせしましたー、旬野菜の卵とじ定食でーす」







 ―――翌日。

 アスレイは節々に若干の痛みを感じつつも、早朝から宿を出ていた。

 向かう先は当然、仕事先である倉庫だ。

 深い霧に覆われた町並みを通り越した、小高い丘の上にある倉庫。

 痛みを堪えながらたどり着くと、其処には既に一つの人影があった。

 しかしそれは倉庫の管理者ではなく。華奢な体つきでありながら、威とも容易く重そうな荷物を担ぐ女性の姿。


「おはよう」


 不意打ちのようなアスレイの挨拶に驚いたらしく、彼女は大きく肩を揺らす。

 瞳を大きく見開かせながら振り返る女性は―――やはりルーテルであった。

 昨日とは打って変わって、彼女はすぐさま視線を逸らし、無言のまま俯いてしまう。

 あの威嚇のような眼差しや厳しい皮肉を言わないところからして、恐らくカレンやリヤドからお叱りを受けたのだろうとアスレイは推測する。


「あ、あの…」


 口ごもりながらも、何か言いたそうにしているルーテル。

 その言いかけている言葉が何かは粗方予想が付いている。

 ならば、それを彼女が言うまで待ってやることが、アスレイのするべき立場と態度なのだろう。

 が、しかし。彼女にだけ謝らせるのは間違いではと、アスレイは考える。

 迷った挙句、アスレイは自身の後頭部を掻きながら笑ってみせた。


「いやあ、昨日の重労働のせいで未だに全身凄い筋肉痛でさ。ホント過酷な仕事だよ、これ」

「あ…」


 言葉を遮られてしまい、困った様子でいるルーテルを後目に、アスレイは彼女の前で自分の拳を見せながら語る。


「でもカレンさんは優しいし、みんなも家族みたいな雰囲気でさ。そんな姿を見ていたら、疲れも何も吹っ飛んじゃうよね」


 そう言って微笑みを浮かべるアスレイ。

 彼の意図を読んだルーテルは顔を背け、急ぐようにアスレイから離れると作業を再開した。

 とりあえずこれでもう睨まれることはないだろうと一安心しつつ、アスレイも続けて仕事を始める。


「これを運べばいい?」


 ルーテルが運んでいた木箱と同じ焼き印の押された木箱をアスレイは持ち上げる。

 相変わらずの重さに思わず息が止まり、全身は悲鳴を上げているのだが。それでも荷物だけは落とさないよう、慎重に運んでいく。

 と、そんなアスレイの背を見つめるルーテルは、小さな声で呟いた。


「…あ、ありがとう」


 勿論その呟きが彼の耳に届くことはなく。

 間もなくして遠くからリヤドの高い声が聞こえてきたため、彼女は慌てて口を閉ざし、忙しく荷物を運んでいった。

 こうして労働に明け暮れるだろう、アスレイの一日がまた始まった。







  

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