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 積み込み作業は思った以上の重労働であり、アスレイは音を上げそうになりながらも必死に作業を続けた。

 故郷ではよく似たような仕事を手伝っていたからと、安直な考えで此処へ働きに来た訳だが、今は其れを少しばかり後悔していた。

 明日は筋肉痛確定だろう。そんな事を思いながら彼は木箱を馬車に積んでいく。

 額からは汗が滝のように流れ出ており、ため息を吐き出しながらアスレイは額の汗を拭った。




 一方ルーテルとリヤドの二人は、アスレイよりも小さく華奢な体つきであるにもかかわらず、彼以上にてきぱきと順調に作業をこなしていた。

 ルーテルが運び、リヤドが何処に積むかを指示する。大きな荷物のときには二人で運ぶ。

 それを大した掛け合いもないのにそつなくこなしているのだから、アスレイは舌を巻かずにはいられない。

 あれがいわゆる阿吽の呼吸と言うものなのだろうと考えてしまう。


「凄いな…」


 アスレイが感心して眺めていると、いつの間にか隣にやってきたカレンが笑みを浮かべながら話した。


「ルーテルはあの通り無愛想で何でも一人でやろうとしちゃう意地っ張りな子でね。その一方リヤドは力がない分、人をよく見て補助に回りたがる頭の低い子なのさ」


 正反対である二人の性格は、カレンの話によると孤児故に出来上がったものなのだという。

 互いに孤児出身であったからこそ正反対でありながらも通じるものを感じ、手を取り合うようになったのだろうとカレンは話してくれた。

「なるほど」と感嘆の声を洩らした後、ふとアスレイは彼女を見つめ、尋ねた。


「なんでその話を俺に…?」


 今日雇われたばかりの自分にこんな話をするのは、と疑問に思うのは当然のことだ。

 するとカレンは満面の笑みを浮かべる。

 そしてバシンと力強くアスレイの背中を叩いた。


「私はね、色んな奴に教えてやりたいのさ。このキャンスケットの町の子たちは孤児ばかりだけどね、こういった形で家族を得ている。幸せになれるんだってね」


 彼女の言葉を聞き、先ほどリヤドも似たような言葉を言っていたと思い返す。

 家族。

 孤児であろうと、独り者であろうとこの町ではこうして家族が作れる。幸せを掴むことが出来る。

 そう断言するカレンの顔もまた、リヤドと同じく家族を想う母親そのもので。

 自然とアスレイはまた、笑みを零した。


「確かに…カレンさんみたいな母親がいて、二人ともとても幸せそうだ」

「その通り! でもどっちかと言えばお姉さんが良かったけどねえ」


 そう言って彼女はもう一度アスレイの背中を張っ叩く。

 先ほど以上の力強さに、今度は大きく咽せてしまった。

 そんな彼の情けない姿を見やり、大声で笑うカレン。

 それから、アスレイを通り過ぎると彼女は未だ作業中である二人組へと声を掛けた。


「二人とも相変わらずせいが出るね!」


 丁度荷物を運び終えたところの二人は、カレンの労いの言葉にそれぞれ反応を見せる。


「当然ですよ、僕達最高のパートナーなんですから!」


 と、得意げに胸を張って見せるリヤド。

 片やルーテルはリヤドの台詞を聞くなり、即座に彼の脳天へチョップを繰り出した。


「誰がパートナーだ」


 不機嫌そうな顔を浮かべながらそう言うと、彼女は足早に去っていってしまう。

 だが、リヤドには見えなかったであろうが、アスレイから見えたルーテルの横顔は、どこか嬉しそうに見えていた。








 太陽はすっかりと山向こうへと隠れ、日が暮れようとしていた頃。

 先刻予想していた通り、全身の疲労感でアスレイは力尽きるようにその場に倒れるなり、まったく動けなくなっていた。

 肩を何度も大きく揺らし、回復を願うように深呼吸を繰り返す。




 と、そんな具合に疲労困ぱいしているアスレイの元へカレンがやってくる。

 彼女もなかなかの量の荷物を運んでいたのだが、驚くことに汗一つかいていない。


「お疲れさん。初仕事はどうだったかい?」


 その言葉に彼は単刀直入に「疲れました」と言って苦笑する。

 すると彼女は両手を自身の腰に当てながら大声で笑った。


「初めて働いた子はみんなそう言うんだよね」


 そう笑い飛ばして言ってはいるが、実際この仕事はかなりの重労働であった。

 積み荷から荷馬車までの往復を合計すれば、おそらく山を越えられるほどの歩数になると思われる。

 それでいて子供1、2人分はある荷物を担いでいるのだから、初心者のアスレイにとっては当然きつい仕事だった。

 しかし、一方でカレン、ルーテル、リヤドなどの働き慣れている者たちに疲労の色は伺えない。

 三人に至っては元気な様子で夕飯の話をしているくらいだ。

 そこが素人と玄人の差というものなのだろうとアスレイは人知れず実感していた。




 と、カレンは思い出したようにアスレイへ視線を戻すと、懐から小さな布袋を取り出した。


「そうそう、それじゃあ今日の給金を渡しとこうかね」


 彼女はそう言ってその布袋から銀貨数枚を取り出す。 

 次いでその銀貨を働いていた者たち一人一人に配り始めた。

 その姿はさながら、子供たちに小遣いを渡す母親といった様子。

 大の大人でさえ彼女の前では子供同然に見えてしまうのだから、全く持って不思議な光景に見えた。


「はい、これがアスレイの分だよ」


 カレンの言葉にアスレイは急いで起きあがろうとするが、カレンが「そのままで良い」と言ったので、せめてもと上体を起こした体勢で彼は給金を受け取ることにした。

 丁寧に、手のひらへ乗った一枚の銀貨。たった一枚。

 言葉にしてしまうとその程度の価値に思えてしまうが、これ一枚あれば、数日は優雅な食事にありつける位の十分な価値だ。

 それに、苦労をして働いたからこその偉大な勲章《給金》に、価値など関係はなかった。


「ありがとうございます!」


 しっかり握り締めた銀貨を大切に懐へしまうと、アスレイはカレンに向けてできる限りに頭を下げて見せた。

 そんな彼を微笑んで見つめるカレンは、体を軽く屈ませ、アスレイの肩を今回は軽く叩いた。


「良かったらまた明日も働きに来なよ」

「はい。しばらくは旅の資金を稼がないといけないし、お世話になります」


 そう言って笑顔を向け、もう一度頭を下げるアスレイ。

 と、そんな彼に釘を刺すかのように、ルーテルが一言呟く。


「ちゃんと明日、働けるかどうか…不安だけどね」


 淡々とした冷やかな一言であったものの、事実であるだけに言い返す言葉も出ない。

 仕方なくアスレイは苦笑いを浮かべると、すぐさまリヤドが頭を下げにやって来た。

 彼女の代わりに謝罪することが、彼の習慣となっているようだった。


「ルーテルさんがすみません」

「大丈夫だよ、明日は今日の倍頑張って証明すれば良いだけの話だからさ」


 力瘤を見せるようにして意気込んでみせるアスレイだったが、またしてもルーテルに一言鋭く突っ込まれてしまう。


「意気込みだけは既に一人前だね」


 その台詞には流石に眉を顰めるしかなかったが、反対にカレンたちは大きな声を上げて笑っていた。







   

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