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プロフェッショナル勇者  作者: 秋月みのる
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 「では、本日より勇者最強計画を始めたいと思います。まずは本日の訓練メニューを発表します」


 荒野で俺は櫛枝さんに言った。丁寧口調は何となくトレーナーっぽいからだ。


 「……こ、抗議します!」


 「却下します。まず、櫛枝さんは基礎的な筋肉が足りません。とりあえず腹筋、背筋、スクワット千回やりましょう。それが終わったらこれを引いて貰います。あそこの大岩をぐるっと回って戻ってきて下さい」


 何かに使えると思って空間収納に入れていた鉄の馬車を出しながら言った。


 「……抗議します。あの大岩まで十キロはあるよ。死んじゃう」

 

 と、言われてしまったので、俺は自ら馬車を引いて二分ぐらいで指定したルートを走って戻ってきた。


 「……このように出来るので却下です。そこまででひとまず準備体操は終わりにしましょう。終わったら剣術の訓練です。武器はこちらで用意します。訓練内容は俺とひたすら打ち合って貰うこと。これを大体五時間くらいやります。そしてそれが終わったら依頼に行きます。最後に暗くなってから魔術についての勉強をしましょう」


 「……こ、抗議します」


 「却下します。やって出来なかったら受け入れます。開始は三十分後。色々準備してくるからちょっと待っててね」


 俺は土魔術の一種である鉱床探知を発動。

 鉄や金、宝石等の鉱物を探知したあと、一気にその地面を隆起させる。

 隆起させた後は土魔術で鉱物だけを取り出す。

 一トン近い鉄鉱石が取れたので、それを錬成魔術でインゴッドに変換。

 扱いやすい鉄インゴッドを作ったらクロムなどを混ぜて合金にする。

 最後に錬成で剣の形に整えたら、はいおしまいだ。

 これを同様の手順で二本作る。訓練用に使う武器だ。わざわざ刃を付けていない。

 ここまでの所要時間が約十分。

 スポーツウォッチをちらちら確認しながらの作業である。


 終わったら待つと荒野の中心にあった森へと移動。

 魔力探知で魔物の居場所を探って、魔物を討伐。

 大体十体ほど仕留めたところで、それらを全て異空間収納魔術で荒野へ持ち帰る。

 森に来たついでなので木も一本伐採して持ち帰っておく。


 手早くやってしまおう。土魔術で岩のテーブルを作成。

 そしてテーブルの真ん中を窪ませる。

 さっき剣を作るときに余った鉄インゴッドがあったので金網を作る。

 伐ってきた木を風魔術ですぱすぱ刻んで薪にして、テーブルの窪みに配置。

 最後に金網を被せて即席のバーベキューコンロの完成である。


 時間はまだある。ならば仕込みをやってしまおう。

 俺は異空間収納から先程狩った魔物と短剣一本を取りだし、慣れた手つきで素早く血抜きし解体していく。あらかた魔物肉をブロックに切り分けたところで時間になったので、俺は櫛枝さんに声をかけることにした。


 「じゃ、そろそろ始めるぞ。まずは腹筋からだ」


 「……嫌だなぁ。凄く嫌だなぁ」


 土魔術で岩を作って両足を拘束。これで押さえ役は必要ないはずだ。

 俺は魔物肉を刻んで網に乗せてはひたすら焼いていく。


 「う~、お腹痛い。もう限界」


 肉を焼きながら見守っていると十五回ほどで櫛枝さんがギブアップを宣言した。

 予想はしていたし、ここで俺の出番である。

 焼きたての肉を持参することを忘れない。

 魔物肉は慣れるまで臭みがキツイので、食べやすいように焼き肉のたれをかけておいた。

 何故持っているか?

 俺はいつ召喚されても良いように調味料の類は常に異空間収納にストックしているのだ。


 「とりあえずこれを食え。筋肉の修復にはタンパク質が必要だ」

 「これ、何の肉?」

 「猪だな。まぁ嫌だって言っても食わせるけどな」

 「もがっ」

 そしてもう一つ、回復魔術の出番だ。

 これによって筋肉を修復。更に肉体疲労まで回復させる。

 「あれ、痛くない」


 「よし、再開!」


 ボディビルダーからしたら回復魔術はきっとチートだろう。

 筋肉を休ませる必要なく連続でガンガン筋肉を付けられる。

 俺は肉を焼いて、時折焼いた肉を自分でも食いながら櫛枝さんを見守る。

 15回が、18回に、18回から24回に、24回から32回。

 段々音をあげるまでの間隔が長くなっている。

 ゆっくり着実に筋肉がついてきている証拠だ。

 そして百回まで到達したところで今日は上々だと思い、他の筋トレをやらせることにした。

 それをしながら俺は腕の強化が貧弱だなと思った。

 思いついたが吉日とばかりに、鉄インゴッドで鉄アレイを作っておいた。

 その鉄アレイを使って筋トレさせる。


 で、それが終わったら鉄馬車を引かせる。今日は空馬車だが、明日以降重りをガンガン乗せていこうと計画しているのは内緒だ。


 「……も、もう限界。伊瀬君。今日は終わりにしよ? ね? ね?」

 

 「いや、体調は万全なはずだ」


 「そうじゃなくて精神的な疲労が……ああもう、やれば良いんでしょ。やれば。……こんなの思い描いていた異世界召喚じゃない」 


 思い描いていた異世界召喚って言うのはもう日本に戻れない異世界召喚じゃないだろうか?

 それならそこまで生き急ぐ必要は確かに無いが、俺達には夏休みという時間制限がある。

 十年かけて最強を目指すところを一ヶ月に短縮しようとしてるんだから、それなりに厳しいことは覚悟して貰わなければいけない。


 「俺が魔王倒しても良いなら、別に無理しなくても良いぞ」


 俺が何気なく言ったら、櫛枝産がぴくっと反応した。  

 そして櫛枝さんは黙ってゆっくり馬車を引き始めた。 

  

 俺はそれを見守るように併走する。

 涼しい顔をしているのが気にくわなかったようだ。

 

 後ろに下がって後ろから見守る。

 目的は全身を使うことで満遍なく体全体の筋肉を付けさせることである。

 筋肉に疲労性物質が溜まっているようなら取り除いてやる。

 これで体を動かすだるさは感じにくくなるはずだ。

 問題は心肺機能の方だ。

 非常に息が上がって苦しそうだが、これを今ついでに補ってしまう事にしよう。


 「ゆっくり押しているところ悪いが、全力で走れ。そうだな、二十秒で良い。負荷をかけて心肺機能を一気に鍛える」 


 「……え~! 無理だって!」


 「そうか、口で言っても分からないならこうだ」

 

 俺は異空間収納から刀を抜く。そして軽い殺気を放つ。


 「斬られたくないなら全力で逃げろ。馬車を放棄しても斬るからそのつもりで」


 櫛枝さんはあらん限りの力を振り絞って駆けていく。

 限界だなと思ったところで俺がこっそり回復魔術を行使。

 すると、また走れるようになった櫛枝さんが猛ダッシュで俺から逃げる。

 本人は無我夢中で気づいてなかったようだが、大分心肺能力は上がったはずだ。

 息切れしないで走り続けられる距離が少しづつだが伸びた。 

 そして、俺と櫛枝さんはスタート地点に戻ってくるのだった。

 

 「……はぁ、はぁ。もうやだ。もう帰りたい」


 息を切らす櫛枝さんに回復魔術をかける。


 「休む暇はないぞ。今までのはいわば準備運動だ」


 俺はそう言って刃のついていない剣を渡した。

 そして言う。


 「ここからが本番だぞ」

 

 

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