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プロフェッショナル勇者  作者: 秋月みのる
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 「……いやぁ、まさかこんな事になるなんてびっくりだねぇ。数学の先生が休み前に補講やるから伊瀬を引っ張ってこいって私に言ってさ。私もとりあえず追いかけなきゃって伊瀬君を追いかけたんだけど、そしたらこれだもんね。勇者召喚だよ。信じられる?」


 ……むしろ、勇者召喚されない生活の方が俺にとっては信じられないです。


 「言っておかなければならないことがあります。多分、今回の召喚は俺のせいです。どこの誰かはご存じありませんが、巻き込んでしまってすみません」


 「何で伊瀬君のせいなの?」


 ……そうか。そこからか。でも話さないと納得しないだろう。

 俺は小三の頃から異世界召喚されている旨をきちんと話した。


 「……ほぇ~、なるほど、それで学校に来なかったり授業中寝てたんだ。でも、凄いよ。伊瀬君。何千って世界を救ってきたんでしょ?」


 「強制的に呼ばれるから仕方なく、だけどね」


 「それでも凄いよ。私のうちには『困ったときはお互い様。困っている人は助けてあげましょう』って家訓があってね。伊瀬君がやって来たのってそれの凄い番だよね、人助け大事。買い物に来てた車いすのおばあちゃん手伝ってあげたら凄くうれしそうな顔してたもん。世界救ったらきっと皆そんな笑顔になるよね」

 

 ……そうか。

 そう考えたことはなかったな。

 俺がどう思おうと、俺が世界を救ったことでもし誰かが喜んでくれたなら、結果的に俺がやって来たことも無駄ではなかったということか。


 「ちょっとでも、私が助けになれれば良いな。いつも伊瀬君辛そうな顔してるから」


 酷い顔しているのは自覚している。

 慢性的に疲れてるからな。

 ただ、人に見られてそれをどう思われるかという配慮をする余裕もなかった。


 「って事で流石にそろそろ名前で呼んで欲しいな。まさかクラスメイトの名前と顔を覚えてないって事は……?」


 「申し訳ない。誰一人覚えてません」


 「……流石に冗談。余裕がなさそうだなとは端から見て思ってた。心配だったけど、伊瀬君って俺に関わるな的なオーラ全開にしてたでしょ。人と話す暇があったら寝たいって感じでさ。流石に話しかけるのは躊躇してたんだよね。でも、これも良い機会だと思おう。まずはちょっとずつ、名前からと顔から覚えていこ。私の名前は櫛枝あいりです」


 「お、おう?」


 「リピートアフタミー。マイネームイズ、アイリ、クシエダ」


 「マ、マイネームイズ、ア、アイリ、クシエダ?」


 「はい、よく出来ましたー。じゃ、名前を覚えたところで忘れないうちに顔を覚えましょう」


 そう言って櫛枝さんは自分の顔を俺の前に持ってきた。

 まつげが長い。鼻筋が通っていて目はぱっちりだ。

 あんまり女性の顔は見たことないので緊張する。

 

 若干目をそらすと、艶のある栗色の長い髪がサワサワと揺れているのが目に入った。


 「へっへっへ。これで伊瀬君に名前と顔覚えて貰っちゃったもんね、私が伊瀬君のクラスでのお友達第一号だね」


 「いや、友達なら一人だけ居るぞ。細田ってやつ」

 

 「なんですとっ! 先を越すとはやるな細田君」 


 こうして俺の新しい異世界での生活が始まった。

 思えば誰かと一緒に勇者召喚されたのは最初の世界っきりだ。


 異世界召喚を面倒だと思う一方で、今までとの些細な変化を楽しみにしている自分がいる。

 俺はどうしたいんだろうか?


 「そう言えば櫛枝さんって、この世界に呼び出されて嬉しそうにしてたよな」


 「私、クエスト部部長。お分かりかも知れないけど、ゲームのクエストから部名は取ってるよ。クエスト部は生徒のお悩みを描いた紙を箱に入れて貰ってそのお悩みを解決する部活。でも、毎日毎日箱は空っぽです。私何もしないで家に帰ります。家に帰ってゲームします。勇者、世界のために戦います。皆しあわせ。めでたしめでたし。端的に説明するとこうかな」 


 端的って言うよりカタコト?


 「なるほど、それで勇者に憧れていたと」


 「ズバリ、イエス!」


 「……さて、どうする? その気になれば俺一人でこの世界どうにか出来ちゃうと思うけど……」


 と、切り出しかけたところで、露骨に櫛枝さんが悲しそうな顔をした。

 その顔は露骨に自分が勇者やりたいと言っている。


 「人生一度くらいヒーローになってみたいじゃありませんか! ギブミーチャンス!」


 「……わかった。この世界ではどうやら俺は勇者の付き人だと思われてしまったようなので、しばらく付き人として行動することにするよ。と言うわけで頑張ってね、勇者櫛枝さん」


 「任されました! 自分この任務を必ず完遂させたい所存であります!」

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