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第七話 リン×ハル×看守

 看守は俺達をここから出してやれるかもしれないと言った。それも脱獄ではなく正式にだ。だが、それにはどうやら条件があるようだ。


「出してやる代わりに戦争に参加しろってこと? つまり、私達に傭兵になれと」


 看守はその見事な髭をいじりながら頷いた。


「そうだ。まあ、傭兵として雇ってもらうためにもいろいろしてもらうことはあるが、とりあえずはこれから我々が行う戦争に参加し勝利に貢献してくれれば配当金を利用して出ることが可能だろう」


「まず大前提として、私達悪いこと何もしてないのになんで金払って出なきゃいけないのよ」


 鉄格子ごしに唇を前に突き出し、不平を述べる。だが、看守は大層に考えこむように天井を仰いでそれから仰々しくリンの方を見た。


「そうだな、お前らの罪は勝手に人の私有地に入ったこと。そして、それが見つかった運の悪さだ。運が悪いってのはそれだけで人生が生き辛いからな」


「じゃあ、いまここであなたを殺してもそれはあなたの運が悪かったということね。運が悪いとそれだけで人生がゲームオーバーだからね」


「出来るかい、嬢ちゃん? 俺はこう見えてもこの城じゃ古株だ。十の頃からここで見習いやってたからな、今じゃこの城で一番強いぜ? それに、今嬢ちゃん丸腰じゃねえか。魔法でも使うかい? その手錠は魔法無効化の魔法が掛けられているから無理だろうけどな」


 看守は自分の鼻に親指を向け、自信気にそう説明する。おそらくは本当にかなりの実力者なのだろう。体付きを見ていても、それはよく分かる。だが、それでもリンが負ける姿というのが俺には全くといっていいほどに想像が出来なかったのだ。この薄汚い鉄格子越しにでもノックダウンくらいは簡単に出来るんじゃないかと思えてくるくらいだ。しかしそれもリンが万全の状態ならという前提条件付きだ。


 よく考えてみたら今は指摘の通りに持ち物剥がされて丸腰のはず……リンはどうして脱獄楽勝と言ったり、殺すなんて言ったのだろうか? 出来るのか? 俺は無理。一般人だから。ゴリラの事情は分かりかねるが。


「あー別に構わないわ。どちらにせよ、私達魔法使えないし」


 リンは笑いながら看守の顔を手のひらで扇いだ。だが、その言葉を聞いた看守は口をあんぐりと開けた。まさに信じられない言葉を聞いたといった手合いだ。それも仕方あるまい。この世界は魔法が一般的なのだから。


「待て待て、お前は何を言っているんだ? 魔法もなしに何が出来るってんだ? 魔法があっても何が出来るとは限らんが、魔法が無きゃ何もできないだろう」


「あんまり大きい声で言いたくはないから、ちょっと耳寄せて」


「お? なんだよ?」


 看守が鉄格子に耳を近づける。


 俺はその様子を見てなんか理由も分からずむっとした。だが、すぐに首を振りもう一度二人を見た。おそらく、錬金術の説明をしているんだろう。


「私と隣にいる嫉妬の炎に渦巻いているハルはね、錬金術ってのが使えるのよ」


 はっきり言おう、嫉妬の炎なんて種火すらも燃えていない。理由が分かっていないだけなんだ。


「レンキンジュツだと? なんだそれは?」


「まあ、魔法と本質的には変わらないといえば変わらないんだけど、魔法とは別の手法で魔法みたいなことをするのよ」


「ほお?」


 看守が興味深そうに先を促す。


「まあ、よく分からないでしょうけど説明も難しいのよ、とにかく信じなさい。戦争に参加すればそれなりに活躍できると思うわ」


「ヘタレだったら俺の顔に恥を塗ることになるんだから頑張ってくれよ?」


 そこまで話して俺は漸く口を開く。というより、半分はさっきの仕返し目的だが。


「看守さん安心してくれよ。そこにいるリンは頭二つ分以上デカい相手六人を素手で全員同時に瞬殺出来るゴリラだから。さすがに俺でもあれは引いたわ」


「ほう、見かけによらず随分と腕は立つようだな。これは期待しておくか……はっはっはっ」


 看守は小さく十分なほど笑うとそこからまた神妙な面持ちとなって再び鉄格子に顔を近づける。今度は指で俺のことも手招きしている。近くに寄れってことか。俺は仕方なく出来る限りは近づいた。


「それでだ、戦争の概要と参加するための手順を説明しよう。と思ってたがここじゃなんだな。面会室で話そう。手続してくるから少し待っててくれ」


 そう言って牢屋から離れて城へと続く階段を昇って行った。はて……ここに連れてこられる過程では面会室のようなものは見当たらなかったが……。どこか見えてなかった場所にでもあるのだろうか? とりあえず、リンに聞いてみよう。


「なあリン、面会室なんて途中にあったか?」


 そう聞くと牢屋の向こう側から素っ頓狂な声が返ってきた。


「はあ? あんた何言ってんの? 馬鹿? 脳天馬鹿?」


「ああ!?」


 こいつはなんでこんな煽ってんだ? ちょっと、年上で美人で胸が大きいからって調子に乗ってるのか? それならば、その勘違いは正してやれねばならない。だが、まずは理由を追及する方が先だ。


「馬鹿ってなんだよ、煽りか? 煽りなのか?」


「途中にあったわよ」


「え!? どこに?」


 俺はつい素っ頓狂な声を出す。自分自身、見逃しているとは思わなかった。そして、見逃していないリンを改めて尊敬してしまう。


「あっちの方に扉が見える」


 リンが指を差した。――俺達がやってきた方向と反対方向を。つまり、階段とは反対側だ。俺はこめかみに指を押し当てて、俺は再度リンに問い掛ける。


「なあ、途中にあったんじゃないのかよ?」


「ええ、合ったわよ。通り道の延長線上の途中に」


「この女、いつか殺す」


 俺は握り拳を作ってぎゅっと力を入れた。久々にキレちまったよ。牢屋の中じゃなかったら屋上に誘うところだがそうもいかないので我慢する。


 俺はこの女に対する復讐法をあれやこれや考えていたら階段から再び先程の看守が降りてきた。


 看守は俺達の顔を見るなり、笑顔で手を上げた。


「おう、お前ら許可が下りたぞ。手錠付けて面会室へ移動だ。この奥にあるぞ」


「場所なら知ってるよ」


 俺は唇を尖がらして背中を向けてそう答える。背後から看守の感心したような声が届いた。


「おお、観察力があってよろしいこった。大事な素養だ」


「代償に殺意を手に入れましたけどね」


「ん? どういうこった?」


 看守が疑問の声を上げてよく分からないといった手合いだが俺がわざわざ教えてやる義理なんて全くない。代わりにリンが答えたようだ。いつものように事実を湾曲させて。


「看守さん、私が教えてあげたんですよ。親切に。なのに教えてもらったことが不服なのか機嫌悪いんですよ」


「はっはっはっ、こんな美人さんに教えられるなんて光栄じゃないか。ほら、手錠しろ。移動するぞ」


 もはや、俺自身に突っ込む気力など消え去っていた。なので黙って手錠をすることにした。

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