第六話 城郭都市アルマ・クリート
俺とリンはやっつけた指名手配犯とその他を手近の縄で縛りあげてから警護隊に通報した。
通信網が発達しているわけではないので通報したといっても町まで戻って直接知らせに行くことになったのだが…………俺が。
俺が警護隊を引き連れて戻ってきた頃にはもうリーファの姿はなくなっていた。さっさと金目の物を持ってとんずらしたらしい。そのせいで、アジトに金目の物が一切ないことを警護隊に怪しまれ、一時はちょろまかしたのではないかと疑われたが荷物などを覗かせ、盗んでないことを証明したら渋々ではあるが引き下がってくれた。最後までイマイチ納得のいかない表情をしていたが、まあ証拠がないんじゃ仕方がない。
俺達は報酬を受け取った後に次の町まで向かって旅を再開した。その道中で俺はリンに話しかけた。
「今向かってるのってどこだっけ?」
「今はさっきの町から西に大きな林を抜けてところにある港町よ。名前はビット・タウン、交易都市と呼ばれているところね。リーファがここに行くと良いって言っていたわよ。ハルが警護隊連れてくる間に」
リンは西方向を指差しながら説明した。林の中を歩いてるため先は全く見えないのだが……。
「そうか、交易都市ってことは商売が盛んなのか?」
林の中を練り歩く俺は隣で長い白髪を小刻みに揺らしながら歩いているリンに聞いてみた。
「大陸の港町であるビット・タウンと盛んに貿易をしている島国があるそうよ。その島国では漁業や林業等々が盛んでそれがビット・タウンとの盛んな貿易に発展していて結構お互いに潤ってるらしいよ。ビット・タウン側は何で儲けてるのかはよく分からないそうだけど」
「大抵そういうのはろくでもないことしてる気がするんだが」
「まあ、言えないようなことしてる可能性もあるわね。でも、まあ私達には関係ないけど……ほら見えてきたわよ!」
リンが少しだけ小走りになった。見れば、林も終わりに差し掛かり、光が差し込んでくる。
丁度、林から体を出し、港町ビット・タウンが見えてきた。海ッ端にずらっと並ぶ停船所には貿易船が次々と出入りを繰り返しており頻りに輸入品と思われる荷物が次々と降ろされ運ばれて行き、停船所とは反対方向には民宿や商店、酒場などがずらりと立ち並んでいる。俺達が前回訪れていた街とは違い城などはなく、市民が治めている町だということが分かる。ここなら何かと過ごすには不自由しないだろう。
が――。
「ハル、リン・キリサメ両名、アルマ・クリート城管轄の林への不法侵入によりお前達を只今より拘束する!」
突如、林の外で待ち受けていた衛士によって幾つかの尋問の後に早々に収監される羽目になったのだった。
俺達は港町ビット・タウンから今度は北東に二時間程進んだところにある、城郭都市アルマ・クリートへと連行された。アルマ・クリートは町全体を巨大な四角い塀で取り囲み、他の侵入を防ぐように作られた。
アルマ・クリート内部は塀の傍から民家が多く立ち並び、中央に向けて宿屋、商店の順に増えていき中央には巨大な城が鎮座していた。城は深い溝と高い塀で独立して守られており、簡単には侵入できないようになっていた。
俺とリンを連れている馬車は城側への釣り上げ式の木製の吊り橋を渡り、城内部へと進み入っていった。
そして、何の手続きをしているんだが分からないような事務処理を簡単に終え、あっさりと牢屋へと叩きこまれた。一人ずつ隣同士の牢屋へ。
牢屋は一人でいるには十分な程の大きさがあり、ボロボロのベットとやけに薄汚い水周りさえ気にしなければ…………。
「なあ、リン。いきなり人生ハードモードなんだがこれはどうすればいいんだ?」
俺は壁越しにリンへと話しかけた。リンはすぐに返事を寄こした。
「うーんどうしたものかしらね。脱獄して逃げだすくらい楽だと思うけど面倒事は極力起こしたくはないからね。ねえ? そこの看守さん? なんで私達捕らえられたのかしら?」
リンは鉄格子の牢屋の前で椅子に座ってこちらを監視している看守――髭を綺麗に生やし筋肉もそこそこのいい歳のオヤジだ――へと質問をする。看守は椅子から立ち上がらず腰を少しずらし座る姿勢を整えた。
「お前達は先にも述べたように我らが管轄している林へと不法に侵入した罪だ」
「でも、罰金もなしに裁判もなしにいきなり牢屋って酷いくないですかー? ねえー?」
リンが鉄格子ぎりぎりまで進んできて、看守にできる限り詰め寄っていた。看守は溜息を付きながらリンに返事をする。
「まあ、たまたま俺らが巡回しているときにあの森に入ったのが運の尽きだったな。運が悪かったと諦めるんだな」
「酷い人達よねこの城の人達は私達から金を全部没収した上に牢屋に叩き込むなんて、しかも牢屋の環境は劣悪。本当に最悪、乙女の住む場所じゃないわね」
「は? 乙女? 冗談は寄せ……いやなんでもない」
俺はついツッコミを入れてしまっていた。そのせいでリンが鋭くこっちを睨んできた。しかし、リンが乙女はさすがに冗談が過ぎるというかさすがにババア無理すんなと言うべきなのではないだろうか。まあ、美人なのは認める。胸大きいし。
「ごめんなさいね看守さん、話が逸れたわね。それで? 私達はいつになったら出ることが出来るのかしらね? 前科が付いたりするのかしら? まあ私達に前科はあんまり意味がないけど」
「俺はそこら辺に口を挟める立場ではないから詳しいことは言えない。……しかし、お前リン・キリサメと言ったか? さっき、ここから脱獄するのは楽と言ったな? こんな鉄格子で閉じられた牢屋から脱出することはおろか逃げ出せると? 誇張してるんじゃないだろうな?」
「えー? 実際するかどうかは別問題にしてもまあ楽勝だと思うわね」
リンが自信たっぷりにそう答えると看守は初めて立ち上がり、リンの牢屋の鉄格子まで近づいてきた。そして、リンに顔を近づけた。俺はつい声を出してしまった。
「おい! リンに何近づいてんだよ!」
「あ? 別に何もしねえよ。悪いな、恋人だったか?」
「あ、いや別にそう言うわけじゃないけど……。とにかく変なことするなよ!」
俺は恥ずかしくなってリンから見えない位置の壁際に引っ込む。だが、二人の話はしっかり聞こえるようになるべく近づいた。
「なあ、もしお前の言うことが本当ならここから出れるかもしれないぞ? もちろん、脱獄しろと言っているわけではない。正式に出ることが出来る可能性がある」
「あら? どうやるの?」
リンの声音が少しだけ吊り上がった。リンの奴、興味を引いたな。
「お前らに戦争に参加してもらう」
どうやら、とんでもないことに巻き込まれそうになっていた。