第五話 三人協力体制
「えー!? じゃあ、あなた達もこの賞金首を狙ってたの!? 賞金首とはなんも関係がない!? 早く言ってよ!」
リーファが声を上げた。勝手に勘違いしていきなり戦闘態勢になったのはそちらだろう。このリーファとかいう少女、おそらく脳筋の部類だろう。ちなみに、身近にもゴリラがいるがこちらは馬鹿ではないのでただのゴリラだ。
リーファは更に言葉を紡ぐ。
「まあ、いいわ。一時的に協力しましょう。私も賞金首の持ってる金目の物ありったけ盗もうと思ってたから。えーと……」
リーファはそう言いながら指を俺の方に指し、グルグルと小さく円を描いた。名前を催促しているのだろう。俺は素直に答えた。
「ハルだ。ただのハルだ」
今度はリーファの指がリンに向く。
「リン・キリサメよ」
「ハルにリン……さんね」
リンにだけ敬称を付け加えた。おそらく、見た目から年上だと思ったのだろう。確かに見た目は完全に年上だ。だが、リンはこの手の事はあまり気にしないタイプだ。俺も早々に呼び捨てになったのだ。
「リンでいいわよ、あなたハルと同じくらいの歳でしょ。ハルも私のことは呼び捨てだからリーファも呼び捨てでいいわよ」
「え? まあそれなら……改めてリン。あなた達は、今からこの中にいるであろう賞金首を捕まえようとするのよね?」
「そういうことになるわね」
リンが頷き、ハルもコクリと頷く。
「そして、私はあなた達が賞金首をシバいてる間に金目の物を根こそぎ引っ手繰る。それでいいかしら?」
「それでいいわよ。でも、あなたの強盗に関してはこっちは一切関知しない、取り立てて通報したりもしないけど庇ったりもしない、いいわね?」
「いいわよ。どちらにせよ警護隊程度に私が捕まえられるわけないし、目の前からだって余裕で逃げ切れるわよ私の足なら」
三人でコクリと頷く。そして、大きく開かれた地面の扉に順番に飛び込んでいった。
飛び降りる最中、ハルが一言呟く。
「この世界にもシバくなんて言葉あるんだな……」
二メートルほど下に降りて、床に着地する。床は土ではないが何やら柔らかい素材でできて周りは円形の筒形の大人五人くらいが入れる小さい空間が出来ていてそこから一本道が続いている。僅かな坂道だ。軽やかに着地した後に奥へと続く通路をリンを先頭に一列に並び進む。
しばらく進んだところで、開けた空間に出てきた。中はいくつかの灯籠と三つほどのの丸テーブルとそれぞれに配置された椅子。さらには、それなりに屈強な大男が十人ほどたむろしていて、全員がこちらを一斉に見ている。俺はヒュウと口笛を吹く。上手く吹けないので音が抜けているが。
「凄い数ねー。予想よりは少し人数多いかな」
リンは自分のおでこに手のひらの脇を当てて遠くを見るような仕草で空間内を見渡す。
「なんだリン? ビビってるのか?」
俺はそう笑いながら冷やかす。だが、リンははっ! と笑い首を振った。
「たかだが素人十人程度でビビるわけないでしょ。リーファもそうよね?」
「ええ、そうね。この程度なら駆け抜けられる」
そう言って、リーファは手荷物の中から大きめの布袋を取り出した。おそらくそれに盗んだものをしまうのだろう。
そしてまたいつものように先頭のリンが後ろに下がった。俺の少し後ろまでだ。こいつはまた俺に全て押し付けるつもりか? これは食い扶持なんだからリンも手伝ってほしいのだが……。俺は溜息をついた。
「リン、さすがに一緒に捕まえるの手伝ってくれ。十人は一人で処理するのは面倒だ。これは生活費稼ぎでもあるんだ。修行とかは関係ない」
「年功序列で年上を敬い負担を減らしてもらいたいのでハルが二人仕留めたら私が一人仕留めることにするわ。ということで頑張ってねハル。ご褒美も後であげるから」
「リンの敬うところなんて胸しかないだ――」
ないだろ。そう言おうとしたのだ。だが、途切れてしまった。何故ならリーファが大声を上げていたのだ。
「ハル! 正面!」
声と共に一瞬耳元を風が走る。
「おっと!」
俺は反射的に体を横に仰け反らした。すると仰け反らした顔の正面を木の椅子が通り過ぎて行った。
椅子は壁に当たり、粉々に砕けた。そして、屈強な男達の中の一人が大声を上げる。
「おい! 人様の住処に勝手に入り込んで何、俺らのことを無視して痴話喧嘩してんだ!? ああ!? 殺されてえのか? おお!?」
「そんな痴話喧嘩なんてえ」
「そこ照れるところじゃねえよ。ったく……」
リンは両手を頬っぺたに当てて照れながら体をくねくねさせていた。そのたびに揺れる長い白髪と豊かな胸が美しい。相変わらずの美人だ、中身は残念だが。俺は溜息を付いて一歩前に出た。
「お前が賞金首の男だな? 手配書と顔が一緒だ」
屈強の男も一歩前に出る。正面に立った屈強の男は俺よりも頭三個分は背が高そうだし筋肉も盛り盛りだ。
「だったらどうした? 俺様を捕らえに来たのがガキと女二人とは舐められたもんだぜ」
「こんな木偶の坊に舐められたもんだぜ。リン、お前も舐められてるぞ?」
俺は後ろを振り向き、リンに問い掛ける。だが、リンは未だに体をくねくねさせている。俺は諦めて正面を向き直し、正面の屈強な男に言った。
「あれは一度痛い目を見るべきだ」
「知らねえよ馬鹿野郎が!」
屈強な男がそう言うと、後ろの方から今度はリンの明るい声が飛ぶ。この女は行動の移り変わりが早すぎなんだよ。一生くねくねしてろ。
「ハル? 錬金術の効果は?」
残っているか? そういう意図の質問だ。俺は首を横に振る。
「いいや、もう効果は抜けきってるみたいだ」
そう返すとリンは更に明るくにこやかな声が飛んできた――訂正、意地悪そうな性格の悪い声だ。
「じゃあ、丁度いいわね。錬金術使用禁止よ、分かった?」
「はあ!? ふざけんなよ? 体格差考えろよ。どう考えても俺に不利じゃねえか!」
俺は絶対的な不満と不平と苦情をぶつける。だが、リンはこともなげに答える。
「そんな素人くらい素手で倒しなさい。さっきから見てたけどどう見ても素人だわ。こんな男に賞金首が掛かってるのが不思議なくらい。まあ楽な仕事だし可愛い弟子の修行も出来るしで私としては万々歳なんだけどね」
「ちっ、あの陰険師匠め。終わったらきっちりしっかりご褒美請求してやるぞ……」
「あまり俺を……無視するんじゃねえ!」
男が前を向き直ると同時に屈強の男が拳を振り抜いてきた。俺は間一髪でその拳を避ける。そして、屈強の男の足を蹴り抜く。主に脛辺りを。しつこくしつこく。
「くっ! この野郎……! お前ら!」
男がそう言うと周りにいた残り九人の大男もぞろぞろと出てきた。
「お前らは後ろの女共を押さえろ。絶対に殺すなよ? 金になるんだからな」
男共は俺を無視してリンの方へと向かっていった。そして、リンとリーファを取り囲んだ――かのように見えたがいつの間にか、リーファの姿が消えていた。どこへ行ったのか? 疑問に思っていると俺が向かい合ってる男の背後の方から声がした。
「あんた達このお宝、放っておくなら私が全部盗むわよ? というかもう盗み始めてるけど」
リーファだ。相変わらずの足の速さだ。いつの間にあんな位置まで移動していたのだか。
「おい! お前ら! このガキの女を捕まえろ!」
「出来るかしらね?」
リンを取り囲んでいた男共のうち三人程がリーファの方へと走って向かっていった。しかし、リーファの足を物凄く早く男共の間を駆け抜け、瞬く間のそこらにある金銀お宝を布袋に仕舞い込んでいく。
そして、俺の方もしつこく脛を蹴り続けたおかげで大男が膝から崩れ落ちる。俺は安堵の溜め息と共に落胆の溜息を吐く。
「本当にただの素人の雑魚だったな。魔法とかいうのを使えるようでもないみたいだし、ただの筋肉馬鹿か。さて、リンの方は……って、おいおい」
見れば、リンの周りを囲んでいた残りの大男六人が全員腹から突っ伏して倒れ込んでいた。どうやら、全員気絶しているようだが、リンが全員やっつけたのか? 俺が一人倒している間に?
「リン、そっちは全員片付いたのか?」
「ええ、片付いたわよ。こいつら下っ端だけあってすぐに気絶しちゃったわね。ハルの方がよっぽど根性がある。大の男がだらしないわね。私が鍛え直してあげたいくらいだわ。それはいいとして、そっちも片付いたようね。ボス格をきっちり倒したようだし、約束通り後でご褒美を上げましょう。ねっとりと」
ねっとりするようなご褒美は要らない。ろくでもない。
「リン、相変わらずゴリラだな……。いやあ、さすがにこれは引く。いくら素人とはいえ大の男六人を同時に僅かな間に全員昏倒させるとか……」
「手加減はしたわよ」
「もっと手加減してあげろ、逆に敵が可哀想だ」
俺は溜息を付く。この女はゴリラどころかもはやサイボーグなんじゃないだろうか? そんな考えをしている俺をよそにリンはこちらに近づいてきた。そして、いきなり頬にキスをしてきた。
「なっ!?」
「とりあえず、今は時間がないからこれだけ。残りは後でね」
俺の顔から離れるとリンは蠱惑的な表情をしていてこちらと目線を合わせてきた。
「そ、そうだな。リーファの方をなんとかしないとな。三人か、どっち? あと、今回はあり?」
三人に対してどっちと聞くのもおかしな話だがリンに対してはこれで十分に通じる。
「私が二人、そして今回はあり」
「分かった」
リンの意見に俺は頷く。これで、リンが二人、俺が一人を片を付けることになった。そして、リーファから声が届いてきた。
「二人とも! 金目の物はあらかた手に入れたわ! 撤収しましょう!」
「了解!」
俺とリンは同時に頷く。そして、俺達の所に走ってくるリーファについてくるように襲ってきた三人をまとめて錬金術を使って吹っ飛ばした。壁に勢いよく叩きつけられて気絶してしまった。
これで、任務完了。飯の種の元は手に入れた。