■高校1年 4月 迷宮(ダンジョン)クラス 迷宮学(1)
館林 剛志の朝は早い。
朝飯前に軽く走る。元々は部活のための習慣だったが、事故後退院してからはリハビリに変わった。
大浴場のシャワーで汗を流し、その日の授業の用意を持って朝飯のために学食に向かう。
寮にはコンビニはあるが食堂はない。安くて暖かい食事となると、どうしても食堂に軍配が上がる。
ここでの授業は週5日で一日8時限。
6時限までは普通科高校としての通常の授業。残りの2時限は『 迷宮 クラス』としての>『学内活動』用の授業になっている。
金曜夜から日曜夜までは『学内活動』こと『 迷宮 探索』を行うことができて、ポイント制による討伐ノルマが義務付けられている。討伐ノルマは月単位で、達成していれば週25000円の生活費が支給される。
討伐ノルマを超えたポイントや化物から獲れる『素材』と呼ばれる貴重品を学校に売ることで生活費に追加して、小遣いと呼ぶには多すぎる収入が得られる。
今の俺達には迷宮への侵入許可が下りない為、討伐ノルマなしで生活費だけが支給されている。
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「――で、あるからして未踏エリアがあっても、上層で数を間引くことでカバーできると言うのが通説である。」
教壇に立ち、抑揚の少ない声で『迷宮学』を解説する老人講師は福居 木八。
いつもは授業開始直後は質問を受けての解説。それが終わると講義が始まる。
『迷宮学』初日の授業は入学質の翌日だった。
迷宮内を8ミリカメラで撮影した映像、3層までの迷宮内の様子と化物の姿の上映会から始まった。
入学式のとは別の放○大学のような淡々とした映像解説だ。
入学式後には化物退治に激しく反対する者もいた。
しかし体育の授業で世界記録を超える『身体能力強化』の効果を味わった上に、映像での化物のあまりの弱さを再確認すると沈静化した。
それから数日は「○ー」や「M○R」も真っ青でトンでもな 迷宮歴史と世界崩壊説を聞かされた。
あの戦争や虐殺の原因が 迷宮の奪い合いや化物溢れの情報操作の結果だったとか、もう驚愕して「なんだってー」を連発するしかない。
ただ『何故こんな迷宮が存在するのか?』は判明しておらず、『トチガミ』については構内に社がある事と加護の効果以外は機密事項ということで語られることはなかった。
緊張も物珍しさも消えて、退屈な迷宮の探索ルールや仕様解説の知識詰め込み授業に変わると、内職や惰眠を貪る者が増えてくる。
「十聞いて三覚えれば上等。どの道、実地で痛い目に遭わないと覚えられん。授業妨害をしない限り好きにしていいから黙って椅子に座ってろ。」――と授業初日にお墨付きまで出ているので、解説に頭を上げてメモを取ってるのは2割程度しかいない。