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■高校1年 4月 入学式(3)

壇上の太田が再びマイクを取った。


「さて君達が入学の契約をした際に、ここのトチガミ(土地神)とも契約をした。

おかげで化物と戦えるように『身体能力向上』や『魔法回路開放』と言った加護が君たちに付いている。つまり今の映像のように驚異的な身体能力と魔法が使えるようになった訳だ。身体能力が具体的にどうなったかは、明日の体育の時間にでも確かめて見るがいい。

もちろんそれだけでいきなり『地下迷宮』放り込んだりはしない。3ヶ月かけて魔法・戦闘術・迷宮の知識と最低限のことをみっちり教え訓練する。」


要するに『ボクと契約して『校内活動(化物退治)』やってよ!」って異能の力を授かったという所か。

しかも衣食住が保障されてるだけでなく、訓練もさせてもらえるのは悪くない。




近くの少女が手を上げる。


「質問か? マイクをまわしてやってくれ。」


少女は前からリレーで回されたマイクを手に取った。


「マイクありがと。B組、『羽生(はにゅう) みなみ』です。

もし迷宮(ダンジョン) 内で戦闘に負けた場合どうなりますか?」


「当然の心配だな。

迷宮(ダンジョン) 内で力尽きた者は、トチガミ(土地神)の加護で迷宮0階の訓練エリアに転送される。

しかし例え首を()ねられても、心臓を(えぐ)り取られても、魔法で焼かれて灰にされても()()()()()()()()()。ただし再生復活して動けるようになるのに8時間かかる。

それとは別に腕や脚を無くすような重傷でも、地上まで逃げ帰れば回復魔法で再生できる。一部の生徒は既に面接で体験しているはずだ。いずれ生徒の中にも欠損再生できる強力な回復魔法を使える者も出てくるだろう。

死んだその場での蘇生はできないが、安全面に問題ない。」


なるほど死んでも再生復活できるなら、確かに『生命の心配はない』。

魔法少女の青い子と違って死ぬほど痛いんだろうけど……。


「再生復活にかかる8時間以外のペナルティはありますか?」


「特にペナルティは無い。

しかし所持していた装備や道具は、ごく一部の例外を除いて戦闘不能地点に置き去りになる。置き去りのアイテムは故意に捨てた場合も含めて、一定以上離れてから10分ほどで迷宮に消化されて消滅する。回収してくれる随伴者がいなければ、ロストすると思って良い。

もうひとつ。迷宮内で『自殺』した場合、加護が発動せず復活しなかったケースがある。どんな事が起きても絶望して自刃するのだけはお奨めしない。」


「その『身体能力向上』や『魔法回路開放』の加護というのに、副作用はありませんか?」


「俺はトチガミ(土地神)の加護を貰ってもう10年になるが、何もないな。ゾンビになった訳でもなければ、生殖機能も残っている。これが遺伝することも無いそうだ。

それからこいつはあくまで青龍町(ここ)で化物と戦う為の加護だ。携帯電話が圏外で使えないように、『 迷宮(ダンジョン)』から離れすぎれば効果を失う。」


トチガミ(土地神)と言う名前のとおりで土着神だから、その縄張り限定って言うのは理解できる。

でも神と言っても(ばち)も当てれば、邪神って可能性もあるよな。


「回答ありがとうございます。」


「他に質問はあるか?」




「A組、杉戸(すぎと) 喜久彦(きくひこ)や。

ゲームで言うプレイヤーキラー、迷宮(ダンジョン) で生徒同士が争うた場合はどないなるんや?」


手を揚げてマイクなしで声を上げたのは、バスの眼帯男だ。彼も治療してもらったのか眼帯を付けていない。


「基本的に訓練エリアでの模擬戦以外は生徒同士の戦闘は禁止だ。どうしても殴り合いの喧嘩したい奴も訓練場でやってくれ。あそこなら全力を出しても魔法を打ちまくっても被害が出ない。

迷宮(ダンジョン) で他のパーティを襲う行為は、別のパーティが攻撃した時点で自動記録される。裁判で処分を決める。」


「もしフレンドリファイア、同士討ちで()っちまったら?」


「同じパーティでパーティメンバー同士の攻撃が当ってしまった場合は例外だ。

対象が戦闘不能になるまでは記録されない。万一(とど)めを刺してしまった場合は落ちたアイテムをすべて回収して返した上で、飯でもおごってやれ。それで許してもらえるかは当人同士の問題だ。

ただし回収を怠った場合、もしくは返さなかった場合は故意と見なして厳罰にする。」


処分、厳罰、あと面接の時に独房もあるって言ってたな……やっぱり迷宮(ダンジョン)内の治安は良くないようだ。

『本当に殺さない』とは言え、いずれは生徒同士で争う事態に陥るのだろうか? ……こればかりは、面倒くさいから避けたい。


「ゲームと違って味方にも攻撃は当たるんやな。」


「無論だ。だから弓と銃火器の持込は無しだ。攻撃魔法も射程制限が付いている。武器を振り回すときも周りに注意してくれ。」


「おおきに。」




引っかかる事があって、俺は手を挙げた。


「A組、館林(たてばやし) 剛志(たけし)です。マイクもらえますか?」


程なくして回ってくる。


「マイクありがとうございます。 迷宮(ダンジョン) の広さを教えてください。」


「今のところ 迷宮(ダンジョン) 入口と訓練場のある0層と1層から8階層までが4km四方、9階層以降は5km四方だ。

10m立方のパーツの組み合わせで構成されていて、通路の幅は不確定。ボス部屋入口は幅3m、階段の幅は5m程しかない。おかげで戦車や装甲車での突入はできない。」


結構広い上に最低でも400×400マスか、複雑な配置だったら物凄く面倒だ。


「『今のところ』とはどういうことでしょうか?」


「年に二回、春分と秋分に 迷宮(ダンジョン) は再構成されフロアの形が変わる。次はどうなるかわからん。マッピングもやり直しだ。化物の生態系まで変わらないのが不幸中の幸いだ。」


これもまた面倒な。情報共有とかオートマッピングが無いと死ねそう。


「何階層あるかは分かりますか?」


「30年前に中国にあった 迷宮(ダンジョン) は70層だったらしい。

ここの迷宮(ダンジョン)が何層あるかは不明だが、迷宮(ダンジョン)最下層には必ずそれと解る標識があると言う。知らずに踏破してしまうことはないだろう。」


「俺達に踏破できると思いますか?」


「君達の目的はあくまで『 迷宮(ダンジョン) から化物が溢れないように間引くこと』だ。『 迷宮(ダンジョン) の最下層攻略』ではない。

無理の無い階層で戦い、余裕があれば化物から採れる『素材』を持ち帰ってくれ。ポイント制の討伐ノルマを超えた分や持ち帰った『素材』には報酬も出る。

そうだな……討伐ノルマ達成の週25000円の生活費とは別に、1年生でも時給2000円は硬い。」


生徒から歓声が上がった。

実力に応じて狩場が選べるならば安全性も高い。もっとも金が稼げるのは難易度の高い深層だろうから、金目的で無茶する奴も出てくるのは避けられないけれど。

支給される生活費は一週間で25000円。一日3000円↑と考えると食うには十分だが、娯楽、消耗品まで含めるなら微妙なところだ。さらに装備代や、戦闘不能で装備消失(ロスト)も考えると足りないかもしれない。




「それから『最下層まで攻略』してしまうとマズい事になる。」


「攻略してしまうと、どうなるのでしょうか?」


「踏破された 迷宮(ダンジョン) は消滅してしまう。しばらくすると世界のどこかに代わりの迷宮(ダンジョン)ができるのだが、次は何時何処(いつどこ)の地表にできるかはランダムで予想もできない。」


「次にできるのが、秘境や他所の国だったら目も当てられませんね。」


「折角作った地上の支援施設が無駄になるだけで済めばまだ良い。中国は踏破した結果、国内から 迷宮(ダンジョン) がなくなり迷宮(ダンジョン)から採れる『素材』や『貴金属』などによる収益が得られなくなった。

迷宮(ダンジョン)から化物が溢れるのは脅威だが、迷宮(ダンジョン)にはそれ以上のメリットがある。」


なるほど金賭けて俺達を(きた)えて食わせて、追加報酬まで払ってもお釣りが出る。

さらにこんなリルガミン(Wizardry)の街のような支援施設まで用意しても収益が出せるって訳か……。


「回答ありがとうございます。」


「うむ。まだ聞きたいことがあるだろうが、あとは『迷宮学』の授業で講師に聞いてくれ。」




引き続き職員紹介が始まるが、太田の思惑ははずれ誰も聞いちゃいなかった。


ただ一人の例外は迷宮(ダンジョン)内映像に出てきた少女『伊勢崎(いせさき) (ゆう)』。

『魔法学』教員と『保険医』の兼任らしい。

「ワイヤーアクションとCG合成」と馬鹿にした生徒が居たようで、映像同様に派手な魔法の発射しようとしたところを大男と爺さんな先生に取り押さえられて退場させられた。


あとは形式だけの職員紹介が続けられて閉式。教室に戻ることになった。



◇◇◇◇◇



教室に戻ると担任の指示で HR(ホームルーム) が始まった。

出席番号順にお約束の自己紹介。

二次試験のバスで相席した眼帯こと杉戸(すぎと) 喜久彦(きくひこ)がいたのに改めて驚いた。

あとはちょっと良いなと思った女子がいたくらいで、それ以外は特に関心を引く人は無い。

高校デビュー狙いのネタに走った何人かもスルーされ爆死して事務的に終わる。

連絡通達も終わり、ひとます出席番号順に座っていたのをくじで席替え。ざっくりと視力や座高による入れ替えを行い解散になった。


殆どの生徒が一直線に教室出口に向かう。

残ってるのは話してる2人組が2つと、俺同様に出口の混雑を嫌ったのか一人で席についてるのが10人ほど。

俺は事故から色々あって普通とは言い難いし人間関係再構築する気分になれないから例外として、普通はもうちょっと席が隣の奴と話したりするのでは?


「よう、久しぶりやな。」


……杉戸が近づいてきて、3組目の話してる人になった。



◇◇◇◇◇



とは言え、話すことが無いのでさっきの疑問をぶつけてみた。


「……確かに言われて見てはおかしいで、わいのアレが滑るとかありえへんし。」


「俺にはわからなかったぞ、関西ローカルネタだったのでは?」


「いやいや、みんなバスで出会ったときの剛志より硬くてとっつき難いわ。何か空気がおかしいのは確かやな。」


「もう名前呼びで呼び捨てかよ。」


「まぁまぁ、わいの事は喜久彦かキクでも好きに呼んでもええ。ところで指は魔法で治して(もろ)たんやな?」


「ああ、入学式の説明聞く限りではそうみたいだ。杉……喜久彦の右目もそうか?」


「せや、黄緑の光でえらい眩しかったわー。でもバッチリ見えるのはありがたいわ。

……おっ。ええ感じに廊下も腹も()いてきたし、飯でも食いながら話そか。」


「ああ。」


寮に戻っても特にやることはない、飯くらいは付き合ってやるか。

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