■高校1年 4月 入学式(2)
入学式の迷宮内映像の上映会はまだ続いている。
画面が切り替わった。
テロップには『迷宮2層』の文字。
しかし青空があって草原が広がり、森が見えて、山もある。石作りの壁と降りてきた階段さえ見えてなければ、どう見ても普通の屋外だ。
「迷宮の中には『フィールド階層』と呼ばれる、こう言うフロアもあります。
昼夜は屋外と連動して、夜はさっきの『迷宮階層』より暗くなります。」
牧歌的な風景の中、大きい兎がのそのそと動いていた。
「今キャンプを張りたいと思った人。例え弱い化物でも、寝込みを襲われれば怪我や死亡の危険があるので十分注意してくださいね。
それから迷宮の中には、この子のように襲ってこない生き物もいます。」
少女は大兎のうち一匹を背後から抱きかかえてカメラに見せる。
でろーんと胴と足が伸びきって1m近い長さの大兎に女子から黄色い声が上がった。
そしてコマ撮りの風景早送り映像に変わって、一気に夕方、夜と変わって朝を迎えた。
また画面が切り替わる。今度は森の中だ。
さっき映っていた山だろうか? 獣道を登っているのが解る。山頂に到着したところで森が開けた。
広場には一層で見た緑小鬼より大きい奴が集団で待ち構えていた。
しかも皮鎧と武器を身に着けている。
その中の一体は飛びぬけて大きい。帽子と頭飾りを除いても明らかに少女より大きく、3m近い大きさだ。
「はい。『フィールド階層』には、このような『フィールドボス』がうろついています。『迷宮階層』のボスより強めで、護衛も多めです。なので、どうしても倒したい場合は複数のパーティで挑むことをお勧めしますよ。」
そこで映像が止まった。
「さて新入生諸君。ボスを入れて『緑小鬼』は13匹いる。彼女は無事に勝てると思うか? 勝つと思う者は手を挙げてくれ。」
そこに無事に座って居るから、負けたって事はないだろう。
手を挙げたのは、自分も含めて3分の1くらいだ。
「こんなものか。降ろして宜しい。
それでは再生するぞ。刮目して見るがいい。」
一時停止が解除され映像が再開された。
「いっくよー……『炎の矢!』」
ピンポン玉サイズの炎の玉がいくつも浮かび、小型の誘導ミサイルのように弧を描いて飛んでゆく。
一方的に『緑小鬼』を頭と胴の二箇所ずつ射抜き、確実にバタバタと倒す。出来の悪いシューティングゲームのようだ。
誰にとっての幸運か焼き切ってるので出血はない。深夜アニメの残虐シーンを自粛で黒塗りにした感じに断面が焦げている。ただ良く見ると黒焦げの内臓とか見えてるし、時々映る黒い笑顔はTVで放送できないタイプの魔法少女だ。
あっと言う間に護衛を殲滅して、残るはボス本体のみ。
「さ・て・と。『魔法』は見せたから今度は『身体強化』を見せましょうか?」
カメラの方に手を伸ばすと、カメラマンから1層で使ったハリセンを渡される。
そして右肩に担ぐと、左手で挑発するように手招きをした。
「グギャゲャ!!」
大きい緑小鬼が叫び、大斧を両手で振るい少女に振り下ろす。
鋭い金属音がして、巻き上がる土埃で何も見えなくなった。
程なくして土埃が晴れる。
……少女は足を少し地面にめり込ませながらも、大斧を左腕一本で受けて平然としている。
「反撃、いくよっ!」
少女が左腕を払って大斧を除けると、助走もなしにジャンプ。特撮ヒーローを思わせる高さを飛ぶ。
さらに前方宙返りして、大きい緑小鬼の脳天に踵落とし!
潰された頭飾りと帽子でうまく隠れているが、明らかに頭は割られている。
そのまま向こう側に飛んで体操のようなY字着地をキメると、それを覆い隠すように倒れる『緑小鬼』がアップで映された。
走り高跳びの世界記録って背面飛びで250cmくらいだったような?
というか、ハリセン使わないのかよ。
ナレーションとスタッフクレジットが流れ始めたところで、映像は停止され講堂が明るくなった。