■高校1年 8月第3週 迷宮5層 3回目(8)
「バラ肉とか内臓に近い部分は駄目ですが、ロースは何とか大丈夫そうですー。」
静華さんと茂子さんは迷宮大猪に跨って剣鉈を振るう。内臓を取らず、皮ごとロースの切り出しをして肉を確保していた。
「ああ、任せた。急いで切り出してくれ。
それでこれはそっちの取り分、と言うか売って木崎以外で分けてくれ。」
どうせ消えてしまうのなら、と言うことで花咲さんから『迷宮大猪』を譲り受けた。全部と言うのは気が引けて大猪の牙を花咲さんに渡す。
「いいんですか? 牙は結構いい値段しますよ?」
素材として高価なだけでなく、加工すれば剥ぎ取り用ナイフ・小剣・槍の穂先などに転用可能の品である。
「タケちゃんも言ったやんか『金には困ってない』って。もろとけもろとけ。」
「俺達の目的は肉だからそれ以外はどうでもいい。それに戦闘不能の子の装備買い直しとか、どうしても入用になるだろ?」
「何から何まで、ありがとうございます。」
「百合恵ちゃんこそ、おおきに。おかげで2時間ほど早う出発できる。」
「ところで……なんで私の名前知ってるんです?」
「た、たまたま知ってたんや。」
「C組に知り合いがいてな、たまに話すんで聞いていたんだ。男5人のパーティなんだが知らないか?」
「ああ、越谷君パーティの知り合いの人ですか。」
チーム薔薇族のリーダーは越谷らしい。なんとかごまかせた。
「言うとくけど、ワイ等はノーマルやからな。普通に女の子が好きやねん。だから安心してや。」
「それは返って不安にさせるぞ。ウチの女子が睨んでるし自重な。切り出し手伝ってくるから何かあれば呼んでくれ。」
「ほな、またなー。」
「はい、ありがとうございます。」
花咲さんは座ったまま深々と頭を下げた。木崎はと言うとあのまま座り込んで魂が抜けたまま放置されている。
「タケちゃん、ありがとな。助かったわ。」
「ちょっと迂闊だったな。それはそうと情報収集でチーム薔薇族(仮)には接触してないのか?」
「捕まると面倒くさいし焼餅妬かれるから情報収集にならへん。
それに一緒に話して噂とかされると恥ずかしいし……。」
「どこの恋愛SLGのヒロインだよ。あと俺には緑髪の親戚とか居ないからな。」
むしろ喜久彦が早○女好雄だと思う。
「二人とも! サボってないで手伝いなさい。取り分減らすわよ!」
「「へーい。」」
結局、内臓から遠い部分の肩ロース・ロース、それとヒレをちょっとだけ切り出した。
切り分けてラップで包み『凍結手』で冷凍して保冷袋に入れる。重量は一人20kgくらい。40kgくらいの予定だったが仕方ない。
それから意識の戻らない加須枝さんをシートごと6層側出口に運び、木崎も同じ場所に引きずって放り出した。
木崎パーティの無事な荷物も運び、その中からヤカンを出してもらい『造水』で水を溜めておく。
「余計なお世話だったかな?」
「いえ、私も木崎も『造水』持ってないので助かります。やっぱり……木崎とは視点や考え方が違うんですね。」
「そうか? ウチはリーダーと言っても名前ばかりでこんな調子で雑用ばかりだ。むしろ書類仕事とか今回みたいな厄介ごと係に近い。ウチの場合は各人得手不得手があるからカバーし合って何とか上手く回してる感じだな。」
「いいなぁ、百ちゃんも私もそんなパーティに入れていれば……。」
「楽ではないわよ。全員がリーダーで皆自分で考えて意見ぶつけ合ってるような物だから。カバーしてもらうだけでなくカバーする側にも回る、だから私達は対等で居られるのよ。」
「そうですね、剛志君は指示やお願いはするけれど、命令はほとんどしませんからねー。それにリーダーが負傷で動けなくてもウチのパーティは機能するんですよ。こっちは出発準備終わりましたよー。」
「ありがとう。喜久彦。そっちはどうだ?」
「おう、こっちもOKや。いつでも出れんぜ。」
「回復薬、水、飯、足りないものはないよな? 花咲さん、12時間、いや急いで10時間くらい頼むな。俺達は聴取で来れないかもだけど、必ず救援寄越すから待っててくれ。」
木崎はまだ魂が抜けたままだ。加須枝さんは毛布代わりにシートをかけられている。
「……お願いします。」
「任せたってや。」
「行って来るわ。」
「お大事に。待っててくださいね。」
「それじゃ出発! 小休止だけで一気に行くぞ!」
11時28分、俺達は5層ボス部屋から撤退を始めた。




