■高校1年 8月第3週 迷宮5層 3回目(7)
「遅いぞ! 別れの挨拶でもしていたか?」
何でコイツは偉そうなんだ? 親が交換留学生に選ばれるほど優秀なんだろうけどお偉いさんなのか?
もしそうだったとしても知らなかったで通そう。
「悪ぃ悪ぃ。どっちが勝つか賭けようとしたんだが、みんなお前の勝ちに賭けたくないってさ。今は何分でお前が負けるか賭けてるはずだ。それはそうと、お前はあの2人の容態が気にはならないのか?」
「フン! 俺の言う事を聞かないのが悪いんだ。そもそも百子に庇われなくても俺は避けられた。余計な事しやがって。」
予定変更、修正が入るくらい惨たらしくボコる。
「俺は決闘の作法とか詳しくないんだが、これからどうするんだ?」
「け、剣鉈だ。2人とも剣鉈を上に投げる。両方が地面に落ちたら始めよう。」
「それでいいよ。投げる合図はお前のタイミングでいい。」
「3、2、1、0」
木崎は持っていた剣鉈を上に放る、あわせて俺も左手で上に投げた。
俺が剣鉈を目で追う視界の片隅に、木崎が構えているのが見えた。うん計画通り。わざと棒立ちで隙を作って待つ。棍棒も腰に下げたままだ。
カランカチンカラン
二つの剣鉈が床に転がると同時に木崎は突進してくる。が、迷宮大猪より迫力もなく、喜久彦より遅い。
どうせだからもうちょっと挑発するか。あわてて棍棒を外そうとして一瞬止めて外れないふり、さらに棍棒を取り落として見せると、木崎は醜悪な笑みを浮かべていた。
「ついてないな! まずは左腕だ!」
攻撃予告キタコレ。『力の盾』を出す準備だけして足が竦んで動けないふり。
頭や首に変えるなら防がないと。
「その腕貰った! 『火炎剣 !』」
木崎の木剣が炎に包まれ左肩に振り下ろされる。狙うのは当たって、一瞬腕が止まったところ…‥ここだ!
ザッガッ
木崎の木剣が当たった瞬間に、木崎の剣を持つ右手首を俺の右手がガッチリ捕らえた。あとはギリギリと締め上げるように握る。
「な、何が? くっ離せっ! 痛い痛い、お折れる、折れて……。」
「あーくそ、痛ぇな。ジャージ切れてるし。出血は殆どないが折れてるかもな。 『力強化!』」
煙と一緒に、ジャージと肉の焼ける嫌な臭いが漂う。斬る瞬間に数秒だけ発動する魔法剣の炎はすでに消えていた。追い討ちに『身体能力強化』で上がっている握力をさらに魔法で強化する。
「あ゛っあ゛っあ゛っ、あ゛あ゛あ゛っ!!」
ゴキッ カランカラン
右手首の骨を握りつぶす、その痛さに耐えかねて木崎は木剣を取り落とした。
「そういえば決闘の決着って相手が死ぬまででいいんだよな? お前はそのつもりで左腕切断狙ったのだから殺されても文句は言えないな。『応急手当』。」
木崎を突き離してから、自分で左肩を治す。証拠になるので血止めだけ、幸い骨はひびかそれ以下で済んでるようだ。軽く回してみても動かす分には問題ない。
「こ、降参する。言う事も聞く! だからい、命は助けゴブッ。」
足に縋り付こうとする木崎を蹴り飛ばして、話をすすめる。
「花咲さん?」
「ひ、ひゃいっ!」
俺にいきなり名前を呼ばれて悲鳴に近い声を上げた。
「木崎の奴は『迷宮大猪』と戦うときに、さっきの魔法剣使ったか?」
「い、いえ、戦うのは殆ど女子に任せきりで、たまに攻撃しても魔法撃つくらいでした。」
「教えてくれてありがとな。多分帰ったら、もう一回証言する事になるから頼むよ。
それで木崎はなぜ『迷宮大猪』に魔法剣使わなかった? 出し惜しみか? 迷宮大猪にビビッてたか?」
「こいつは……俺の取って置きの必殺技だからだ。」
「その割には俺に使ってきたよな?」
「決闘は神聖なものだ、全力を出すのは当たり前だろう?」
仲間が3人死んで重傷2人出しても本気出さないとか、だめだコイツ。
最初から魔法剣使ってれば、誰も死なずに『迷宮大猪』討伐できたろうに。
「さて、木崎君がだいぶ元気になってきたところで提案だ。一回戦は降参したお前の負けだ。それを取り返すチャンスをやろう。もう一回だ、武器拾ってかかって来い。
それで勝てたら、連れ帰ってやろう。右手の治療もつけてやる。」
「タダではないのだろう? 俺は何を賭けるんだ?」
「裁判での証言だ、『迷宮大猪』戦で魔法剣出し渋った事も今の決闘のことも洗いざらい正直に話してもらう。断っても、お前だけ証言が違ったら正直に吐くまで拷問だろうけど。『俺達に襲われた』などと言われたらこっちも面倒になるからな。
あっ、そうそう、始めるタイミングは木崎が『始め』と言ったらでいいぞ。」
優ちゃん先生にやられたように、笑みを浮かべる。こんな感じだったか? あとで鏡見ながら練習しよう。
「チクショウ、どこまでも舐めやがって……。」
木崎は自分の剣鉈を拾い腰ベルトに納めた。さらに木剣を拾い。左手で構える。元々二刀流志望なのか割りと様になっていた。俺は剣鉈も棍棒も放置したままで、欠伸をしてさらに挑発する。
次はどう来る? 魔法かな? 剣鉈を投げるのもありだな。
「あのー? 決闘の再開の前に木崎さんの右腕治さなくていいのですか?」
静華さんだ、喜久彦と茂子さんが何か吹き込んだようだ。
「俺は別に構わんが、木崎はどうする? 『迷宮大猪』に苦戦するような奴だから、右腕治そうが俺の勝ちは変わらないけど?」
「なん……だと!?」
「あれ? 知らないのか? そうかそうか……こないだ学食で『大猪フェア』やってたろ? あれの大猪倒して肉を大量納品したの俺達なんだ。持ちきれない分は居合わせた先輩方にお裾分けで配って、ここで焼肉パーティしたんだけどさ。いやぁーあれは実に旨かった。」
見下す感じで身振りも交えてさらに勿体つけてゆっくり語る。イメージ的には東○喰種の○戸さんだ。
茂子さんが少し意外そうな顔をしているが、クラスメイトでも気付かないくらいの微妙な反応。
「やっぱり治療しましょう。剛志君は一人で『迷宮大猪』倒してますからねー。」
マグレなんだけど嘘はついていない。煽っているのではなく静華さんの素の発言だろう。
喜久彦と茂子さんはこれを狙ったか?
「ほへ?」
木崎の目が点になった。
「そ、それじゃあ、ひょっとして先週10人助けたってのは!?」
「花咲さん、ごめんね。それ、私達なんです……。
「悪いね。騙すつもりはなかったんだが、木崎の態度が余りに悪いから黙ってた。
さて木崎君、まだ始めないのかい? 不戦敗にするならそう宣言してくれないか?」
木崎は完全に戦意喪失してる。しかも漏らしてるし。さっきの間抜け顔といい、木崎ハーレムで起きてる人がいないのが残念すぎる。こういう事はそうそう無いけど、次は使い捨てのフィルムカメラでも持ち込むかな。




