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■高校1年 8月第3週 迷宮5層 3回目(3)

「着いちゃいましたね。」


「ああ。」


あれから小一時間で2回、犬面人(コボルト)の集団と戦闘したが全くの無傷。

5層ボス部屋の水色の扉まで辿り着いてしまった。


「『剛志ヒール効果』恐るべし。」


「このまま無傷で『迷宮大猪』倒せたらホンマもんやで。」


「そうだな……だったら正攻法の安全策で行こうか?」


「全員で逃げ撃ちですね。了解です。」


「ほな……!?」


喜久彦がボス部屋の扉に触れるが動かない。


「交戦中かしら? 中の様子は伺えないわね。」


茂子さんが扉に触れたり耳を当てたりしているが駄目なようだ。


「杉戸君は『あかん! 開かんわ!!』って言わないんですね。」


「ワイは『開かへん』が多いな。」


「倒されてたら、3時間待ちかー。」


「お裾分けでお肉もらえたら、それで帰れますね。」


「あんま期待しないほうがええで。」


「カツサンドに作るならロースやヒレだわ。残るとはちょっと考えにくいわね。」


そうなるよな。まだ10時回ったところ。3時間待っても解体込みで15時には出発できるだろう。肉で荷物が増えても22時には十分間に合うよな。


「今日の学食ラストオーダには間に合わないかもな。」



◇◇◇◇◇



10分後、いつもの石を擦り合わせるような音とともにボス部屋の扉が開き始めた。


「やっと開いたな。」


「あかんなこれは……。血の海や。」


扉の中央に居た喜久彦には、隙間から中の様子が見えているらしい。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


「「『応急手当(ファストエイド)!』『応急手当(ファストエイド)!』」」


扉が開いた事で遮音が切れて、悲鳴と回復魔法を連発する声が聞こえ始めた。

俺達は完全に開くのを待ちきれずに次々にボス部屋に入室した。


ボス部屋は迷宮大猪と人間のどちらか解らない血たまりで覆われていた。荷物もいくつか突進に轢かれたらしく中身があちこちに散らばっている。

壁際に突進で潰されたと思われる2人、ジャージの中で足が千切れてるらしい1人が倒れている。損壊が酷く髪の毛から判断するに全員女のようだ。

それから『迷宮大猪』の傍らで『応急手当(ファストエイド)』を連発する男女。その対象の右腕の位置がおかしい少女が悲鳴を上げている。




「静華さん頼む!」


「はいっ!」


「いきなり何ですかっ!」


「止血の邪魔するなっ!」


阿吽の呼吸で駆け寄って治療を始めようとする俺達に非難の声が浴びせられる。


「いいから押さえたれや。暴れられたら『応急手当(ファストエイド)』も当たらんし、『ヒール』で腕くっつけられへん。」


意図を理解した別パーティの2人と喜久彦の3人がかりで押さえつける。

茂子さんが千切れた右腕の位置を元に戻して手を離し、押さえつけに加わった。


「いいわよ。」


「……『ヒール!』」


静華さんの右手が黄緑色に光る。少女の右腕に光を当てると、千切れていた側が勝手に30度ほど回って整合。少女の悲鳴も次第に治まった。無意識に暴れていたのも収まったが目を覚ます様子は無い。


「右腕の接合しましたが、目が覚めても大量失血でほとんど動けないと思います。」


「そんなっ……。」


「何だよ、出しゃばってきてこれかよ。使えねー。」


「私のパーティに中級回復魔法使いは居ないわ。体力回復薬をかけて目を覚ますのを待つか、引きずってでも地上に連れ帰るしかないわよ。それとも見殺しにした方が良かったかしら?」




その間に俺は倒れてる3人の脈と呼吸を確かめていた。

血みどろで苦悶の表情を浮かべていて、きれいな顔には程遠い。リョナ趣味はないので、どぎまぎする事も無い。ジャージのおかげで内臓(モツ)とか断面とか見えてないのが救い。もしかしたらと思ったが、やはり駄目のようだ。遺体は大剣1太刀1杖1、全員女。起きているのは小剣のロン毛男と刀使いのショートボブ女子。腕を接いで気絶中のツインテ女子な杖持ち。男一人に女5人とか、何処のハーレムラノベだよ。


「こっちはやっぱり駄目だった。そっちは?」


「接合はしましたが、出血があの時の剛志君より酷くて……動けるようになるまで何日もかかるかと。

そちらのあなたも大丈夫ですか?」


「ありがとう。右足首と膝をお願いします。」


「……『ヒール!』」


静華さんがショートボブ少女に『ヒール』をかける。顔色が良くないのは仲間を失ったのが原因だけではないようだ。右の靴は血塗れていて小さいが血だまりもできていた。




「助かっただけめっけもんと言いたいところやが……あんたら帰りはどないするんや?」


「え? 助けてくれないのですか?」


「連れ帰ってくれるんじゃないかよ?」


2人ともこう言われるのは想定してなかったらしい。


「『ヒール』かけて失血死からは助けてるだろ……俺達がこれから迷宮大猪や帰りの戦闘で不利になる事を承知でだ。

それに俺達のパーティは見ての通り4人しかいない。戦えない奴を3人も守りながら戻るのは無理だ。」


「俺はまだ戦える! それでも駄目というのか?」


ロン毛がいきり立つが、正直連携が取れない奴が入るのは邪魔でしかないんだよな。

ロン毛がツインテ子を負ぶったまま戦うとしたら、足を止めて戦ったら弓のいい的だ。激しく動けば背負われたツインテ子が急変して死にかねない。初迷宮の俺より酷いなら動かす事自体が危ないだろう。腕ごと動脈千切れてるし、失血はツインテ子>>>ボブ子=初迷宮の俺くらいか? 失血量は同じ位でもMP枯渇を起こさず意識がある分だけボブ子の方が症状はいくらかマシだろう。


「馬鹿ね。彼女は人一人背負わなくても、歩ける状況ではないわ。」


「半日位休めば(もも)ちゃんを背負って歩けると思います。でも今のあたしでは……。」


「チッ。先週は4人で10人助けたパーティが居たのによう。お前らは10人より少ない3人も救助できねーのかよ。」


ツインテ子はモモちゃんか。ロン毛君が聞こえるように舌打してブツクサ言っている。


「聞こえてんで。ウチのリーダーは『あんさんら連れてったら足引っ張られて二重遭難で全滅すっから、ワイ()の安全を優先する』()うてんのや。」


喜久彦はあえて当人であることを伏せて答えた。表情や声からキレかかってるのは解る。態度が悪いだけで無くあちらも名乗ってなければ、ロン毛は礼すら言ってない。


「先週のは10人全員歩ける状態だったと聞いている。さらにその中には戦闘可能な人も何人もいたって話しだ。それにボス部屋(ここ)は入口付近ではない。先週の10倍は距離あるだろう。」


先週は階段入れて1kmくらい、ボス部屋から帰ると10km超える。条件もロン毛の好感度も悪すぎて付き合う理由もない。そもそもこの状況でロン毛がほぼ無傷とはどういう事だ?

思い……出した。ロン毛は『野営訓練』で優ちゃん先生に撃たれた奴だ! スタート直後のダッシュで仲間に構わず飛び出してそれで攻撃魔法で……あの時優ちゃん先生が呼んでた名前は何だったか? 柿崎? 神埼? 山崎? 『ザキ』が付いたのは確かだったような?




「茂子ちゃん。今ある材料で担架は作れないかな?」


「無理ね。材料提供して貰って作れてあの人1人で2人運んだたとしても、挟み撃ちや鉢合わせに対応できないわ。」


静華さんはできれば助けたいと考え、茂子さんは相変わらず冷静沈着に分析している。

俺もせめて茂子さん式車輪担架が作れれば……とは思っていたが、考えが甘かったようだ。




「俺達の今回の目的は『迷宮大猪』の肉だ。ボス復活までは扉の前にいる。もし護衛の人数が増えるなら考えてやってもいい。そっちはそっちで、これからどうするか考えろ。」


「2つ忠告や。『タダで助けて貰お』なんて考えは捨てることや。も一つはそろそろ放置されてる仲間の荷物や『迷宮大猪』が消えてまうで。」


化物の死体は戦闘が終わった後に放置していれば、10分消化ルールで消える。剥ぎ取りを含めて接触すれば10分にリセットされる。仲間の荷物も『遺体が蘇生のために0層に転送されてから』と言う誤差はあるものの変わりない。


「剛志も喜久彦は甘いわね。」


「その……気を落とさず、頑張ってくださいね。後続が来て人数が増えれば、私達も護衛しますから。」


「「……。」」




静華さんは後ろ髪引かれるような感じだったが、俺達はボス部屋前に戻った。

ここも一応袋小路だ。人通りが多いのでキャンプには向かないが起きて休憩する分には問題ない。

ひとまず扉の脇の壁の陰にシートを轢いて座った。お湯を沸かし、索敵用に『灯火(ライト)』を打ち上げるのも忘れない。

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