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■高校1年 8月第3週 迷宮5層 3回目(2)

しばらく水曜と土曜0時の更新になります。

まず可能なら化物に見つかる前に見つける。相手は化物で、犬並みに嗅覚が鋭く、猫のように暗闇を見通し、コウモリのように位置を察知する。加護で『身体能力強化』されていても索敵では人間の方が不利だ。

次に長射程の魔法で先制攻撃。魔法は弓に比べると攻撃速度が遅いが、その分威力と最長射程が有利だ。

撃った後に前衛が突撃する。肉薄する前に化物の弓持ちが矢を放って来るので、各自防ぐ。

肉薄してしまえば、あとはこっちの物だ。ヒット&アウェイでも接近した勢いを生かしての力押しでも蹂躙するだけ。

後衛は前衛のフォローとして一緒に突撃するか、支援に回るか、バックアタックされないように後方警戒するかは各自の判断でいい。設置型や弾道が直線でない攻撃魔法を撃つ時には味方に当てないように十分注意しろよ。


曲がり角などで鉢合わせの場合は最初から近距離で戦う事になる。

その場合は後衛も格闘戦闘する事になるから、杖で身を守るくらいはできるようになっとけ。




……と言うのが、『戦闘術』授業で数少ない佐野先生の講釈だった。


フィールド階層は双眼鏡で先に見つける事ができるが、迷宮階層では一層最弱の『ウルフパピー』相手でも「化物に見つかる前に見つける」と言うのは難しい。薄暗いにもかかわらず100m以上離れた場所からこちらを見つけて駆けてくる。その駆ける足音でこちらが気づいて、魔法で先制するのが常だ。


鉢合わせは前衛2人でなるべくタゲを取って、後衛2人に3匹以上付かないようにする。静華さんは今の所二匹までなら安心して任せられるが、茂子さんは1対1(サシ)でないと心配だったりする。


今のところは初迷宮(ダンジョン)で俺や喜久彦が単独行動したとき以外は、セオリー通りにやれている。



◇◇◇◇◇



日曜日9時の迷宮5層。朝6時に迷宮探索を始めた俺達は最短ルートで進行中だ。

学園側から出ていた『コボルト討伐依頼(クエスト)』は既に取下げられており、大量発生も沈静化している。


「今日も順調ですねー。」


「『好事魔多し』って()うからな、気ぃ抜かん事や。それがルーチンワークでも、ミスすれば6時間分の経験値飛んだり、所持金が半分になったりするんやで。」


「ゲームでも集中を切らさないように適度に休むのは常識よ。」


「そろそろ休……お客さんだ、丁字の左から数不明。」


動く影は見えたが数までは確認できない。


「待って、右からも来てるみたいです。『灯火(ライト)!』」


静華さんが有無を言わさず、照明魔法を打つ。50m先の空中で漂う光の玉がさらに先にいる『茶犬面人(ブラウンコボルト)』の集団を照らした。


「ほなら、事前に決めたとおりやな。」


「茂子さんは左、静華さんは右を頼む。」


「了解よ。」


「はいっ。」


その場で荷物を降ろして、俺と茂子さんと喜久彦・静華さんペアに分けれて迎撃に当たる。


「……『光の矢(ライトアロー) 3発同時 2連!』」


「……『炎の矢(フレアアロー) 4発同時 2連!』」


茂子さんの発した『炎の矢』が『犬面人(コボルト)』を射抜く。

8発撃って5匹に当てて『犬面人(コボルト)』を肉塊に変えている。後ろで静華さんも数を減らしているだろう。


「全弾命中とはいかないものね。引くわよ。」


「了解。」


弓を警戒して茂子さんをガードしながら丁字路の手前20mまで後退する。同様に先制攻撃して戻った喜久彦達とも合流した。


「もう一発頼むで。」


「いくわよ。」


「任せてください。」


女子2人は再び魔力を集中して魔弾を紡ぎ上げる。俺と喜久彦はその傍らで、いつでもガードや突撃に飛び出せるように待機だ。程なくして追いついた『犬面人(コボルト)』が角の陰から飛び出して来た。


「……『爆炎弾(フレアボム)!』」


「……『力の弾(フォースバレット)!』」


2人の魔弾が炸裂してさらに『犬面人(コボルト)』を減らす。左側残り2匹、右側は3匹だ。


「あとは任せろ!」


「行くで!」


俺と喜久彦は左右に分かれて武器を構えて突撃する。この近距離ならば、『犬面人(コボルト)』が矢を(つが)えて撃つより俺達のほうが早い。


「ウラァ!」


突撃の勢いを生かして左に構えた樹脂製の盾で『犬面人(コボルト)』に体当たりする。もう1匹はすれ違いざまに棍棒の一振りで薙ぎ払った。化物の骨を砕く卵を潰すような感触はにも慣れた。つい全力で殴って破裂させてべっとり返り血を貰う事も無くなった。


喜久彦は!? 良かった、無事か。見たところ喜久彦が2匹、静華さんが1匹倒したようだ。


「状況終了やな。」


「おつかれさま。MPはまだまだ大丈夫よ。」


「おつかれ。静華さんは平気?」


「はいっ。まだ余裕ですっ!」


杖のヘッド部分が血塗れてる所を見ると、静香さんは殴って倒したのか。

一番有能なのって、近接も攻撃魔法も回復魔法もできる静華さんな気がする。

俺も『ヒール』使えればなぁ……。


「剛志君? 私のどこかに返り血でも付いてます?」


「あ、いや、何でもない。」


考えすぎてフリーズしてたらしい。


「なんや? 見惚れてたんかいな?」


「それもあるんだが。『俺達は強くなれてるのか?』って考えてた。」


「剛志君が、わ、私の事、みほみほみほれ……。」


静華さんにフリーズが感染(うつ)った。


「ゲームと違って、レベルも経験値もステータスも見えないから無理も無いわ。でもさっきの挟撃への対応は確実に、動きが良くなってると思うわよ。」


「強敵に挑むか、先の階層に進むか、技や魔法を習得するか。あとは優ちゃん先生に頼んで、身体測定でもするしか確かめる方法はあらへんな。」


「うーん。次、誰か負傷したら軽傷でも『ヒール』を試しててはどうでしょうか?」


静華さんがフリーズより復帰したが、まだ顔が赤い。さっきのは無意識だったし俺は悪くない。優ちゃん先生が『俺の反応が面白い』と言う感覚は多分こういう事なのだろう。


「そういや、夏休み前からやってないな。殆どMP使ってないから1回くらいやってみようか。」


「ほな、次負傷したら罰ゲームって事やな。」


「人体実験ね。」


「失敗しても私が治しますから。」


酷い言われようだけど、この軽さが逆に安心できる。

通り道のだけ犬面人(コボルト)のピアスを回収して、先を急ぐ。

尻尾も素材だが、今回は肉優先で破棄する事になるので放置することにした。

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