■高校1年 8月第1週 迷宮5層 再び(4)
「うわぁーっ! いいところですねぇー!!」
6層に着いた静華さんの第一声だ。
「2層とあんま変わらへんけどなぁ。」
「この空気の違いが解らないとは、喜久彦は駄目ね。」
「確かに外と違って涼しくて居心地はいいな。」
遠吠えとか聞こえなければだけど。
「ほら。これであっちを見てみるといいわ。」
茂子さんから差し出された双眼鏡を受け取って覗く。
「なにが見えるんや?」
「……これはひどい。」
茶・白・芝、色の違う『犬面人』同士が戦っている。
高原的な空気でなく『殺気』とか『サツバツ!』とかそっちの空気かよ!?
白と茶色の大群に共同で攻められている『柴犬面人』が劣勢。もう数えるほどしか残ってないが、『柴酋長犬面人』が薙刀を振るって奮戦している。
「ほれ。見てみ。」
「これは……加勢に行かないんか?」
「うーん、化物同士の戦いに手を出していいのでしょうか?」
「潰しあってくれる分には化物が減るからいいのだろうけど、個人的には『柴犬面人』に応援したいな。」
判官贔屓と非交戦的、それとあの見た目だよな……やっぱり。
「時間は十分あるわ。交戦的を減らして、ついでに依頼報酬も戴くと言うのも悪くないわよ。」
「そういうことなら、良いんじゃないでしょうか?」
「ほな、行こか。」
1kmほど先の交戦地点に向けて走り出した。
◇◇◇◇◇
「……『爆炎弾!』」
「……『光の矢!』」
「「「「「ギャワンッ!!」」」」」
横合いから最長射程最大火力の不意打ち先制攻撃! 爆炎と光の矢が破壊と死をばら撒き蹂躙する。
怯んだ所に、俺と喜久彦が乱入して『柴犬面人』と交戦中の『茶犬面人』を横から蹴り倒す。
「助太刀やっ! と言っても通じるんかいな?」
「ボス変異種だったら確実に意思疎通できたかもな。」
最初の不意打ちで白と茶の犬面人弓兵を薙ぎ倒し、残り20匹程に減らしていた。
「……『炎の矢 5連!』」
「……『光の矢 5連!』」
「「「「「ウォォォンッ!!」」」」」
続いての2正射目の魔法が急所を射抜いて犬面人の残りをさらに減らす。
残りは近接で混戦状態の奴だけだ。
「こちらに『柴犬面人』は攻撃してきません。ひょっとしたら聞こえてはいるかも知れませんね?」
「元々非交戦的なのよ……まぁいいわ。蹴散らすわよ。」
白茶犬面人連合は『柴酋長犬面人』だけでも討ち取ろうと必死だが、それを俺達が横殴りする形で確実に倒してゆく。当初は一昨日より敵の数は多く戦力比も不利だったが、真正面から正々堂々と戦わないならこんなものだろう。おまけに誤射や巻き込みの心配がないとなれば最大火力で攻撃できる。
生き残りは普通の『柴犬面人』3匹と『柴酋長犬面人』1匹。普通の『柴犬面人』に近づくと、武器を置いて平伏してしっぱを降ろしてプルプル震えてる。どいつも矢が刺さっていて他にも大なり小なり負傷している。
「結構な被害出てるけど、化物に人間用の『回復魔法』や回復薬って効くのかな?」
「そういう話は無かったわ。」
「じゃあ、試して見ましょう! 「「待っ」」……『ヒール!』」
止める間もなく、静華さんが『ヒール』を発動させると普通に『柴犬面人』の傷を癒せた。
「……姫宮ちゃん『ヒール』が敵には攻撃になるゲームもあるんやで。」
良くあるのは不死系への『ヒール』だけど、ツリーオブなんちゃらーとか普通の敵にも『ヒール』が攻撃になるんだよなー。
「ドラ○エ仕様で助かったわ。回復薬も大丈夫そうね。」
茂子さんが土下座平伏状態の『柴犬面人』に体力回復薬をドボドボかける。
回復薬が効くかのテストとは言え、側から見ると誤解受けそうな鬼畜な所業だ。傷治ってるからいいけど。
「『応急手当!』 もう大丈夫だな。」
俺は一番軽傷な柴犬面人の治療をして、頭を撫でる。
「柴酋長ちゃんも回復しますよ。……『ヒール!』」
腰を降ろしている『柴酋長犬面人』に触れて治療を始めると、静華さんが首をかしげてそれから頷いた。
「剛志君、みんなもちょっとこっちに来てもらえますか?」
よく解らないまま近づくと静華さんに手を握られる。
「茂子ちゃんは私の肩に手を置いて。杉戸君は剛志君の肩に。」
「‥…手間 カケル。」
「「「!?」」」
頭に響いた声に思わず手を引いてしまう。
「離したら駄目ですよ。」
静華さんに握られて再び手を繋ぐ。近いっ近いって。
「某 人言葉 理解。サレド 某 意思 人間 伝達 必要 接触。」
「他の子も話せるんですか?」
「推定 某 同類 可能。人言葉 曰ク 『中立』『ボス』 限定。」
人の言葉を理解する知能はあるけれど発声が出来ない。だから念波みたいな奴で、お肌のふれあい会話なのか?
「人間 何故 某 加勢? 某 不能 理解。」
「犬面人にも人間を襲う奴とそうでない奴がいる。人間も同じなだけだ。」
「せやな、食料としては襲って来ぃへん奴も狩るんやけどな?」
「???……。 某 謝罪 後者 人言葉 不能 理解。」
「なんやて!」
「人間も猪を食べる為に狩ると言ってるのよ。」
「某 感謝 翻訳。其処 可能 理解。人間 加勢 治療 最大 感謝。」
「その傷で家まで帰れますか?」
「十分 治療 問題 皆無。某 渇望 何時カ 再会。」
「送ってやれなくてごめんな。」
「また来るわ。」
「またなー。」
『柴酋長犬面人』が立ち上がり、低く唸ってから「ウォン」と小さく吼えた。
平伏してた『柴犬面人』も立ち上がり整列して全員が一礼すると、南東の方に行進を始めた。
「化物との対話か……考えても見なかったな。」
「んー、でも条件が厳しいですよね。」
「迷宮層ボスは、門番だから交戦的固定。フィールドボスで非交戦的なんてそうそういないわ。」
「かと言って、ボス変異種は狙って出せるものでもなきゃ、交戦的のは会話どころがあらへんからなぁ。」
「ところで……この剥ぎ取りどうするの?」
戦場跡で『犬面人』が屍累々なのを思い出した。『化物との意思疎通』と言う感動の瞬間なのに、こんなムードも無い場所で立ち話してたんだよな。
静華さんと手を繋いだままなのにも気が付いて、軽く握り返してから手を離した。
手を離して温もりが消える感触で、伝わっていた彼女の体温を意識してしまう。
「……荷物にならないネックレスとピアスだけ戴いておこうか?」
「それでいいわよ。いくら私でも今『柴犬面人』から剥ぎ取る気は起きないわ。」
「了解や。消えへんうちにサクサクいこか。」
「時間もないですからね。」
「残り30分、ギリギリか。」
「ん? 先輩方は1時間半待ってくれる言うたやんけ。」
「私達もお昼食べなきゃならないわ。早く戻れば、焼肉ご相伴できるかもよ。」
「肉♪ 肉♪ バラ肉♪ ロースにモモ肉♪ 残してくれてるといいですねー♪」
ロースな部分はほとんど俺達が持ってるから出てこないぞ、多分。
「そいつは急がなあかん!」
俺達は急いで剥ぎ取りを始めた。
それにしても討伐数と納品数が合わなくなるのは良いのだろうか? アイテム泥棒に関する規定ってなんかあったか……帰ったら調べよう。先輩方に事情説明して聞くのが早いか?
『会話』の事はとりあえず秘密で、優ちゃん先生に相談してからにしよう。
『柴犬面人』の対人間用の言葉は、『中国語』ではなく『単語の羅列による片言』と思ってもらえれば幸いです。




