■高校1年 8月第1週 迷宮5層 再び(2)
6層側出口の開く音で改めて5層ボスが息絶えたのを確認すると、俺も生きてることを確認して膝からへなへなと崩れ落ちた。
「さっすがタケちゃん! 無傷でボス瞬殺とはやるやないか!」
「阿呆かーっ!? 普通に死ぬところだったわっ!」
「安心して、剛志が漏らした事は誰にも言わないわ。」
「いや! 漏らしてねーからっ!!」
……この濡れた感触は返り血と血溜まりに腰を降ろした奴だからなっ!
「お疲れ様ですっ! ささっ、剥ぎ取りと解体は私達でやるので休んでてくださいな。」
静華さんが顔を赤らめて目を合わさずに促す。ううっ、絶対疑われてるよ……。
立ち上がって『浄化』をかけて血を落とし、別の部屋の隅――荷物の傍で座り込んだ。
山鯨の名前に相応しい巨体を、静華さんが中心になって捌いてゆく。それも刃渡り20cmの剣鉈だけで。
……と思ったら魔法を使い始めた。『石柱』で下から押して横倒しにして、内臓は持ち帰れないので『土竜』で掘った穴に捨てて、開いた部分は最大出力の『造水』で洗い流す。
木槍はと言うと、体内で刃先が欠けて駄目になっているらしい。死ななかった対価と考えれば安いのだけど、練習と一回使っただけで2万か……。
呆けているといつの間にか観客が増えて、解体参加者も増えていた。
「勝手に人増やしたけど、ええよな?」
「いいさ、どの道全部は持ち帰れない。皮と牙、それから肉を持てるだけ貰って、あとは全部配っちまおう。」
立ち上がって協力のお礼と分配を話すと歓声が上がる。
さすがに休んでるわけにも行かなくなって、俺も解体作業に加わった。
人海戦術で倒してから小一時間ほどで解体が終わる。
大きすぎて一枚皮とは行かなかったが、皮も上級生の手できれいに剥がしてもらえた。
肉もロースとヒレに相当する部位を中心に一人15kgほど貰う。これはラップに包んで凍らせた上で、保冷袋に入れてある。
さらに残りは解体参加者によるじゃんけんで争奪戦が行われた。
今残っているのは脊柱と割れた頭蓋骨とその中身くらいで、頬肉から脛肉や陰茎・睾丸までめぼしい部分は全部剥ぎ取り済だ。
最後にもう一回お礼を言って解散、のつもりだったがそうも行かないらしい。
「お前らこれからどうするんだ?」
佐野先生と殴りあえそうな、熊を思わせる上級生に引きとめられた。
「おとといも救援に来てくれた韮川先輩ですよ。」
見かねて静華さんが耳元でささやいて教えてくれた。
そう言えば他にもおととい見た顔が何人かいる。
「あああ、おとといもありがとうございました。
すいません俺、さっきも死に掛けて気が動転していて……。」
笑い声が上がるが事実なんだからしょうがない。
「ワイらまだ6層見た事無いんや。せやから6層まで行って様子だけ見てとんぼ返りの予定や。」
代わりに喜久彦が答えてくれた。
「そうか、ちょっと待ってな……。」
背を向けて小声で相談を始める。3分とかからず結論が出たようだ。
「決まりだ……。
あー、俺達はこれからここで焼肉パーティな昼飯だ。
時間は……そうだな1時間くらい、長くても1時間半だ。それが終わったら、さっきのお裾分けで十分稼がせてもらったから引き上げる。……帰りは護衛してやっから、それまでに戻って来い。」
あれを担いで6層7層突破はいくら上級生でも無理だよな。22時まで残り11時間切ってるし。
「おおきに。ほなちょいと行ってくるで。」
「行ってきます。帰り、お願いしますね。」
「ありがと。またあとで。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
「荷物の面倒までは見ないからねっ! 置いてったら全部食べちゃうよっ!」
「そうだそうだ! だから荷物置いてけー、がはははは。」
俺達は野次と笑い声の洗礼を受けてボス部屋から送り出された。




