■高校1年 8月第1週 迷宮5層(2)
「1年館林パーティー。出発どうぞっ!」
やっと順番か。優ちゃん先生の呼び出しで入口に向かう。
「はいはーい。
今回は5層からの初挑戦です。常に慎重に行動して、初見殺しに引っからから無いようにね。気をつけて行ってらっしゃい。」
「「「「行ってきます。」」」」
優ちゃん先生に見送られ、いつも通りに迷宮0層から階段で降りる。
しかし今回からは『転送魔法陣』を使って4層に飛んでからのスタートだ。
「全員乗ったな?」
「OK。」
「はいっ!」
「いいわよ。」
全員が『転送魔法陣』確認して、唯一光っている『4』のボタンを魔力をこめて押す。
閃光と軽い浮遊感の後に、見覚えのある4層安全地帯に飛ばされた。
「どうも転送の感覚は慣れないわ。」
「俺もだよ。」
超高速移動などで『瞬間移動したように見える』と言うのはあるのものの、壁や扉をすり抜けて飛ぶテレポートな魔法は見つかっていない。この『転送魔法陣』にしても飛べるってだけで原理なんか解っちゃいない。
転送は『転送魔法陣』同士だから『* いしのなかにいる *』はないにしにても『ハエ男の恐怖』的な事は大丈夫なんだろうか?
「次が来るまで時間ありますが、魔法陣から出ておこう。」
「はよ、行こか。俺たちの冒険はこれからやで。」
「その台詞は打ち切りになるから止めた方がいいわ。」
見えていた5層側出口からさらに階段を下る。嗅ぎ慣れた臭いに気が付いたのは俺だけでないようだ。
「何でこんな所で『血の臭い』がするんだ?」
「確かに臭いますね。」
「慎重に、音を立てないように進むわよ。」
「嫌な予感がビリビリするわ。」
物陰から様子を探りながらなるべく音を立てずに進む。
5層に入る最後の踊り場の影からそっと下を覗く。
壁に寄りかかっているのが二人。床にあお向け倒れているのが二人。
犬の遠吠えがかすかに聞こえてきた。
「俺が接触する。茂子さんは魔法発射体制、俺が攻撃されたらすぐ撃て。静華さんは大丈夫だったら合図するから来てくれ。喜久彦は万一のときは頼むな。」
「状況だけ見るとPKもありそうやな。任されたで。」
「気をつけてくださいね。」
「ちゃんと避けるのよ。」
「行って来る。『灯火!』」
照明魔法を打ち上げて階段の下を照らす。反応したのは壁に寄りかかっている一人だけだ。
盾を構えながらゆっくりと進む。
「おい、何があった?」
「僕は悪くない、僕は悪くないんだ……。」
「いいからこれ飲んで落ち着け。」
目の前で蓋を緩めて体力回復薬を渡す。そいつは一気に飲み干そうとして咽た。
「誰も取りやしないし、代金請求もしないからゆっくり飲め。」
背中を擦ってやると、残りを一口ずつゆっくり飲んだ。
「さて、何があったか話してくれるよな?」
「僕はB組の細谷。今日の1番に出発したパーティの一人だ。」
「それから?」
「5層を進んで広場に出て、そこに居た『茶犬面人』5匹と交戦した。最後の1匹になった所で、そいつが逃げ出したので追いかけた。でもそれが奴の手だったんだ……悲鳴のような遠吠えを繰り返しながら逃げてそいつは仲間を呼んでいた。気が付いたら増援の『犬面人』の集団に囲まれていた。」
「それで逃げ帰ってきたのか。」
「ううっ、仕方なかったんだよ。後続のパーティーが援護してくれて(グスッ)ここまで辿り着いた。でも『犬面人』が多すぎて……自分のパーティだけでなく(エグッ)他のパーティにも犠牲者を出してしまった。あんなに多い化物は、逃げる以外どうしようも無いだろう?」
某議員を思わせるほど涙と鼻水でグチャグチャで喚いて言葉が聞き取りにくい。しかし現実でモンスタートレインした挙句MPKかよ。
他のメンバーにハンドサインでOKを出して、こっちに来るように手招きをした。
血だまりに倒れてる女子3人の五体は揃っている。よく見ると首を負傷したり、手袋を失ってそこをやられたりしていた。同じクラスの女子も2人混じってる……ここまで逃げて力尽きたのだろう。『灯火』に反応が無くて呼吸も止まっているようだ。流石に触って確かめるのは気が引けた。どの道生き返れるというのと、両親のもっと酷い遺体を見ていたせいか自分でも不思議なくらい冷静でいられた。
簡単に説明すると、静香さんと茂子さんが念のために意識の無い3人を確認して首を横に振った。
「静華さん。気が乗らないと思うが、細谷に『ヒール』を頼む。」
「でも、この人がっ!」
「気持ちはわかるが、それでも頼む。手が足りないし、時間が無い。」
俺だってこのまま見捨てたい。
でもあの時と違って選択肢はある。俺も動ける。まだ急げばきっと間に合う。
「……『ヒール!』」
黄緑色の魔法反応が光り、細谷の傷を癒す。元々目立った出血もなかったし、これならもう動けるだろう。
「いいか俺達は残ってる連中を助けに行く。細谷は急いで0層に戻って状況を伊勢崎先生に伝えろ!」
細谷の胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせて、上り階段に突き飛ばした。
「走れ! 急がなもっと死人が出る! 全部細谷のせいやからなっ!!」
細谷がよろよろと階段を登るのを見て、喜久彦が吼えた。
「増援を待つと言う選択肢はないのね?」
「同じクラスの奴が2人以上残ってるのを知ってしまった。
本当に死なないとは言え、顔合わせる度に『見捨てた』と気まずくなるのは避けたい。」
「『義を見てせざるは優無きなり』ってな。
残り全員生きてるとしてワイ等いれて12人も居れば、増援到着までの時間稼ぎくらいはなんとかなるやろ?」
「助けられるのに放置するってのは、やっぱり……。」
「仕方ないわね……剛志と喜久彦で一本ずつ持ってって。」
茂子さんが荷物からガラス瓶を2本出して手渡した。
「これは!?」
ラベルには……医療用『アンモニア水』?
「やっぱ、茂子ちゃんは頭ええな。こいつは犬にはよく効くで。」
「着いたら交戦地点の少し先、投げて壁面に当てて割るのよ。そしたら効果は解るわ。」
「急ごう。」
話してるうちに遺体も地溜まりも消えた。
荷物を5層入口に降ろし、戦闘体制て点在する照明魔法『灯火』の方向に走り始めた。




