■高校1年 7月第2週 初ダンジョン(15)
前衛に静華さんと喜久彦。喜久彦はなんとか『名前呼び』してもらおうと説得中。
俺と茂子さんは後衛でそれを視界に納めながら警戒中。
「静華があそこまではっきり拒絶するのを始めてみたわ。」
「そうなのか?」
「ええ、剛志を紹介してもらうまでは消極的で……色々あったのよ。」
茂子さんには珍しく、言葉を選んでる気がした。
「興味はあるけど、詮索はしないよ。当人が話したくなったら話すのを待つさ。」
「それも剛志の良い所だわ。」
「そうか? 自覚がまるでない。」
「喜久彦に紹介してもらった時も、詮索しなかったわ。」
あー、あれか。魔法治療受けたって話の時か。
初対面だったし、単純にそこまで他人に興味持てなかっただけなんだけどなー。
「買いかぶりだよ……あの時は初対面だったし、面白半分に聞くことでもないから。」
「でもそれで静華は、紹介して貰って良かったと確信したのよ。」
「人の心、特に女心はわからないな。」
そりゃ好意持ってる相手の……シークレットな部分を知りたいってのはあるけれど。普通は空気読んで自重する。エロも含めて。
喜久彦なら何所までセーフか探りながら、冗談で聞いたりとかもするんだろうな。エロも含めて。
「それでいいのよ。静華だって私だって、男心はわからない。だから興味が湧くのよ。」
「そんなもんかね……おっと、ボス部屋の扉が見えてきたな。」
「もうちょっと話して居たかったのだけど、残念だわ。」
前衛ふたりも気付いたようだ。
「これで、やっと帰れますね。帰ったら何食べましょうか……?」
「さっき大休止で食べたばかりやろー。」
「喜久彦は缶詰でない料理とか、アイスとか熱々のお好み焼きとか食いたくないか?」
「確かに。クーラーの効いた漫画喫茶でカキ氷とか食べたいわ。」
「…………ねぇ、ボスが倒されてる場合でも、ボス部屋の扉って閉じてるものなのかしら?」
「「「えっ?」」」
言われてみればそうだ。
あいつ等と逢ったのは18時過ぎくらい、今は20時少し前だ。
ボス部屋まで瞬間移動してボスを瞬殺したとしても、復活までの3時間のクールタイムには足りない。
「扉を開けよう。まずは四層側の出口が開いてるかどうか確認。入るのはその後だ。」
両開きの赤い扉に手を触れると石を擦る音を鳴らしてボス部屋の内側に開いた。
20mほど向こうにある4層側出口の扉は閉まっていた。
「あかん、閉まっとる。」
「確定だな。荷物や血溜りが無いって事は10分以上前にやられたのか……。」
荷物とか残ってるなら回収してやりたいところだが、迷宮に消化されて残って無いものは仕方ない。
「とは言え、もう行くしかないわね。」
夏休みなので月曜の授業の心配は無いが、この迷宮は逆走できるように作られていない。
ここから戻っても1層ボスの2層側出口で、捜索隊か来週の迷宮開放で入ってきた1年生が1層ボスを倒すまで立ち往生するだけだ。
「支援魔法かけて、MP回復薬も飲んで、それから突入でしょうか。」
「そうだな、入ってボスが出る120秒の間にやろう。
それからMP回復薬は印の付いてない奴から使ってくれ。あと出し惜しみは無しで突破しよう。」
「その前にマップファイルでボスのチェックしよか。」
呪術師緑小鬼:緑の小鬼、ただし角は退化してコブになっている。身長200cm前後。仮面の飾りが豪華。杖とローブも良いものを付けている。素材:コブ・牙・仮面・耳輪
護衛:杖緑小鬼、槍緑小鬼、弓緑小鬼
出現数はランダム。
「呪術師って事は魔法使いなボスですね。集中させる隙を作らず魔法を撃たせないのが定石ですけれど、護衛の数次第ではできないかも。」
「『酋長緑小鬼』の時の護衛は4匹だったわ。私たちより少ないって事はないと思うわ。」
「静華さん、茂子さん、支援魔法かけた直後に攻撃魔法準備ってできるか?」
「前の戦闘からかなり時間たってますし、魔法回路オーバーヒートなしでできるはずです。また実体化した瞬間に撃ちますか?」
「昼に言ってたズルい作戦やな。」
「相手は多勢に無勢で無限湧きな化物だ。卑怯とか体面とか気にしてる場合じゃない。」
「まずは護衛を狙えばいいのね。」
「ああ護衛がいなければ、俺と喜久彦でボスを囲んで魔法に集中させないようにできる。
どうせボスは体力も魔法耐性も高いだろうし、魔法で一発って訳には行かない。」
「それしかなさそうやな。」
「準備ができたら行きましょう。」
いつの間にか自動で閉まっていた赤い扉を開ける。荷物を壁際に降ろし、支援魔法の掛け合いを始める。
「『プロテクション!』『ブレッシング!』」
「『風加速!』『風防壁!』」
「『力強化!』『フォースシールド 位置:左手!』『水耐性!』」
「『炎耐性!』」
顔を見合わせてMP回復薬を一気に飲み干す。
床から黒い靄が立ち上りはじめる。数は重なっていてよく解らない。
それに合わせて、静華と茂子は魔力集中しながら攻撃魔法をイメージして発射準備態勢威に入り、いくつもの魔弾を浮かべた。
「じゃあ任せた。撃ち漏らしは俺とキクでやっつけよう。」
「任せてや。」
魔法発射体制の二人はうなずいた。
「ヨクキ……」
ボスは緑じゃない、赤! サイズも2m超えている。
「「しゃべったぁぁ!」」
「『爆炎弾!』」
「『光の矢!』」
二人が魔法を発動させて魔弾が飛ぶ。
護衛の緑小鬼は爆炎に包まれるか、光の矢に射抜かれてバタバタと倒れた。
「オ、オノレ口上ノ最中ニ攻撃トハ、人間メ卑怯ナッ!」
『呪術師緑小鬼【変異種?】』は前の戦闘のダメージが少し残っているのか最初から肩を負傷して血を流している。
「こんなに護衛連れといて、卑怯もなにもあるかっ!」
撃ち漏らしは弓緑小鬼と杖緑小鬼が一体ずつ、こっちは普通に緑だ。
死体を避けながら近い方の緑小鬼に駆け寄る。喜久彦も別の一匹に猛追中だ。
「ヤラセハセン! ヤラセハセヌゥゥン! 『ふれああろー!』」
水晶球の付いた杖を掲げ、呪文を発動させると十二条の炎が一人三本ずつに分れて飛んでくる。
今は無視だ。支援魔法も効いてるし動いてれば当らない。棍棒で防御に出された弓ごと緑小鬼の胴をへし折った。その間に魔法を一発貰ったが『炎耐性』が効いてくれてほぼノーダメージ。喜久彦の方は?……大剣に突き刺した緑小鬼を盾にして無事のようだ。
女子二人は普通に『炎耐性』で3発耐えて、悲鳴すら上げずにケロリとしてる。魔法系重視にすると人間側も魔法耐性上がるのか! 羨ましいぞ。
「あとはあんさん一人だけや。」
「ばかナッ!、12匹ノ緑小鬼ガ30秒モカカラズ全滅ダトゥ!?」
「おかえしよ……『石柱!』」
茂子さんが杖で床を突いて魔法を発動させるが、『呪術師緑小鬼』は足元が魔法反応で光った瞬間に超反応で大きく飛びのいてそそり立つ石柱をかわす。
俺と喜久彦が着地点に詰める。
「もろたでぇ。」
「いけぇ!」
「アマイワッ! ア『うぉーたーすぷらっしゅ!』」
喜久彦の攻撃を左手の杖で受け、さらに右手を俺に向けて広範囲水魔法を放った。
『水耐性』は失敗。『フォースシールド』で魔法を受けて押し戻されながら何とか耐える。
喜久彦の方は……鍔迫り合いから蹴られて吹っ飛んだ。
「よくも喜久彦を……『石礫 モード:WT』」
茂子さんの頭上の死角からの大タライ(WashTub)攻撃。
「ハッハッハ、所詮子供ダマシヨッ!!」
またしても大きく飛びのいて落下する大タライをかわす。
「それならっ!……『ウォーターガイザー!』」
今度は静華さんの水魔法が『呪術師緑小鬼』が飛びのいた着地予想地点で発動した。
床から勢いよく水が噴出する。
「オノレ人間! オノレとちがみっ!」
間欠泉の直撃で高々と打ち上げられた『呪術師緑小鬼』は呪詛の声を上げる。
「タケ、あれをやるで!」
この位置でやる事と言えば挟み込んでの同時攻撃だろう。
しかし、あっちは金属の大剣でこっちは硬いとは言え木の棍棒だ、気が進まないな。
力魔法の武器強化試してみるか。魔力で武器を包むイメージ……多分これでOK。
「「行くぞっ!」」
狙うは『呪術師緑小鬼』の落下地点。
挟み込む為の角度調整に少し大回りしたが『風加速』のおかげで十分間に合う。
駆け込んで俺は両手のフォアスイング、喜久彦は野球の一本足打法の体制に入る。
「「せぇーのっ!!」」
互いのフルスイングで、頭から落ちてきた呪術師緑小鬼の胸部を挟む込むように打った。
バキバキキ、グチャ
「グギャーッ!!」
肋骨も肩甲骨もバッキリ逝って、二人の武器がめり込んでいる。
恐らく即死だろう。『呪術師緑小鬼』が千切れなかったのが不思議なくらいだ。
「終わったわね。」
「お疲れ様でした。」
「もうちょい首側やったな。」
「ああ仮面が飛ばないのでは未完成だ。」
「何の話でしょう……?」
「私も知らないわ……。」
ズゴゴゴゴッ
4層側出口が開いた音で、現実に引き戻された。
「二人とも、魔力切れや魔法回路オーバーヒートは大丈夫か?」
「少し頭が痛むわ。」
「頭痛まではいかないけれど、鈍くてぼんやりした感じですね。」
「解った、剥ぎ取り終わるまで休んでてくれ。」
「わいも『炎の矢』と蹴りもろたんやけどなー。」
「ほれ、体力回復薬。」
「タケちゃんが冷たい……。」
投げて渡した回復薬の蓋を開けて一気飲みする。
「クゥゥゥッ!効くわー。」
「ねぇ、あれって……?」
「化物実体化直後の攻撃もそうだけど、結構酷いことするわね。」
「相手と場合は選んでるさ。」
投げ捨てられた蓋にはしっかりと印が描かれていた。




