■高校1年 7月第2週 初ダンジョン(10)
担架の角度が変わっているのに違和感を覚えて目が覚めた。
「階段……2層抜けたのか。」
「悪りぃ、起こしちまったか。ここ抜けたら拘束緩めるからちょお我慢してくれんか?」
「今は18時過ぎです。喉が渇いてると思いますけれど、階段下りるまで待ってくださいね。」
「茂子さんは?」
下のほうから近づく足音が混じる。
「ここよ、目が覚めたのね。まだ荷物が残っているから先に行くわ。」
少しだけ併走して顔を見せてから、階段を上っていった。
「荷物だけ持って先行してくれてます。」
しばらくすると荷物2つ背負った茂子さんが降りてきた。
「大丈夫か? そんなに持って。」
「荷物2個でも、ダッシュがない分だけ地上で移動訓練やった時より楽よ。」
「わいもそんな感じや。3層まであと20段くらいやな。次の踊り場で少し休むか?」
「ありがと。でもこのまま行っちゃいましょう。館林君もそれでいい?」
「ああ。大丈夫だ。問題ない。」
「それ死亡フラグやで。茂子ちゃんは先に降りて休んでてもええよ。」
「解った。先に下りて車輪の用意しておくわ。」
◇◇◇◇◇
3層入口手前に着いてしばらく経った。
「はい、お水どうぞ。そのあと体力回復薬とMP回復薬飲んでください。」
「キャンプ張るまでもうちょっとかかるから、おなか空いてたら食べて。」
「ありがとう。」
俺は担架から降りて壁に寄りかかって座っている状態。
姫宮さんから水の入ったマグカップと回復薬、茂子さんからエナジーバーを貰う。
「美人看護婦さんに看病してもらえてええなー。」
「お前が寝込んだら、リンゴ剥いて桃缶あけてやんよ。」
「わ、私のときもお願いしますっ!」
「喜久彦、そろそろ移動準備できるから偵察お願い。」
「ほな、夜営予定地見てくるわ。すぐ戻るで。」
「気をつけてな。」
マップを見ると最寄の袋小路は200mと離れてない。
「「行ってらっしゃい。」」
水に口を付け、回復薬と交互に飲む。味は子供用シロップ薬より不味い。苦い薬をアメリカ菓子のようなケミカルなくどい味と甘さでカバーしてる感じだ。錠剤にしないのは、体にかけて使うためらしい。
「これはちょっとキツいな。」
残りの体力回復薬を飲み干して次のMP回復薬を開ける。
「ジュース代わりに飲むには高いから、あんまり美味しくても困るわ。」
担架に車輪をつける作業をしながら茂子が答えてくれた。
そう言えば、どっちも一本500円だったか? 今回は赤字確定だな。
MP回復薬も同じような残念な味だ。二年生からの『生産授業』で『調剤』を選べば開発とかできるのだろうか?
「大丈夫ですよ、もうちょっと稼げば7月8月分の討伐ノルマも達成なんですから。」
察してくれたのか、静華がフォローした。
「そんなに稼いだのか?」
「多分1層2層とボスを倒してきたのと、それ以外の交戦回数が多かったのが原因ね。」
「そうですね、普段は昨日の10倍の生徒が入ってる計算になりますから、遭遇率がここまで高くないはずです。」
「上級生は普段こんな上層に来ないわ。放置されて数が増えてたと見るべきね。それに他のみんなも酋長緑小鬼戦で回復薬使いまくったので同じような損失だわ。だから気にしないで。」
「ドロップの剣はどうなんだ?」
MP回復薬を飲み終え、口直しにエナジーバーを齧る。
「材料は普通の銅、魔力反応が少しあるみたいです。持ち帰って鑑定してみないことにはなんとも言えないですね。」
「2層ですぐ来れる場所だから、量産されてると見た方がいいわ。」
「それは残念だな。」
「喜久彦が『どうしても剛志に見せる』って聞かなかったのよ。戦闘ログなんて生徒手帳に記録されてるのに。」
「ログはここで見られないものですから、フィールドボス倒したって早く自慢したかったんじゃないですか?」
違う。喜久彦の事だ。俺が援軍が遅かった理由を聞いたときに、酋長緑小鬼と戦ってた事を信じなかった場合の保険だろう。
「そうだな、改めて喜久彦にも礼を言わないといけないな。」
それにしても遅いな、喜久彦。




