■高校1年 7月第2週 初ダンジョン(6)
二層に向かう階段も結構長かった。
学校の校舎やデパートの階段の踊り場は大抵1つだ。
天井が10mと高いにしても3つの踊り場――普通の3階分の階段があるというのは異様である。
「ここも階段長いな。」
「転移魔法陣手前のボスから、3層分の撤退は絶対やりたくないですね。」
「同感や。」
「3時間経ってボスが復活してたら、ボス部屋の出口が閉まって戻れないわよ。」
「「「あっ!」」」
フィールド階層の昼夜は外界と連動。時刻は24時を回り2層の森林フィールドは暗く静まり返っている。
中央には鬱蒼とした森の丘とその周囲にも木が点在。マップファイルによると中央以外にもフィールド外周を隠すように深い森が広がっていて、出口の階段は丘の向こう側、丘を入口から見て左に迂回するのが安全な最短ルートとして赤線が引いてある。
●2層
武装緑小鬼:緑の小鬼、ただし角は退化して瘤になっている。
身長100cm前後。
素手ではなく粗悪な武器(剣・棍棒・槍・斧・弓・杖)を装備しているノーマルなゴブリン。
武器に応じた攻撃をしてくる。
特に杖緑小鬼は下級の攻撃魔法も使ってくる。
素材:瘤、牙
大兎:大きい兎。足は遅い。
素材:毛皮、肉
2層:ボス
酋長緑小鬼:緑の小鬼、ただし角は退化してコブになっている。
身長3m前後。
帽子の頭飾りが豪華。皮鎧も付けている。
素材:コブ・牙・帽子
※武器は剣・大剣・短剣・棍棒・槍・斧・大斧からランダム
+
護衛は杖・弓以外の武装緑小鬼、皮鎧も身に着けた強化型、3層にも同じ敵が出る
何匹出るかはランダム
敵は入学式の映像で見たフィールドボスと護衛が厄介そうだ。あとは1層ボスの量産型。
「25時まで移動するとして、問題はルートやな。」
「森を突っ切るのは無しにしたいですね。ただでさえ索敵し辛い上に、夜の山で足元が見えないのは危険すぎます。」
「少し遠回りだが、最短ルートと逆に行こうか。」
「心理的な読みあいになるけれど、遠回りの方が分がいいと思うわ。」
移動を始める前にマップとコンパスを確認。その上で入口上方に『灯火』を打ち上げた。
「俺達の頭上の『灯火』は消してくれ。いくら暗くても動いてる光があれば一発でバレる。」
「そうね、戦闘もなるべく光らない魔法だけにするわ。」
「私達に付いてる『灯火』を消すのは解りますが、なぜ入口に『灯火』を貼り付けたのでしょう?」
「離れたら入口は見えなくなるよな、確認用や。」
「今はとにかく入口から離れるのが優先。三角測定で現在位置がわかればいいのだけど、こう視界が悪いと無理だわ。」
「次はオペラグラスか軍用双眼鏡でも用意しよか?」
「暗視装置が動かなくても、フィールド階層ではあった方が有利そうね。」
「軍用は高いからバードウォッチレベルの安いやつでいいさ。」
「今回は無理だけど、夏休み中にレイドボスに挑戦したいですね。」
そんな事を話しながら入口を離れた。
大兎と呼ばれる50cmもある兎に何度も遭遇したが、こちらの気配を察すると眠るのを止めてのそのそと逃げて行った。
「こういう状況で無かったら、追いかけて朝飯にでもするんだがな。」
大きい分だけ足が遅い。同じ事考える奴が10人も居れば乱獲確定だ。
肉を持ち帰ったら学食で調理してもらえるのだろうか? 某絵本で有名なミートパイとか食べてみたい。
「それにしても黒・白・パンダに茶色に灰色……一体何種類いるのでしょう?」
「一種類よ。色や模様が違うのは、個体差扱い。」
「北○鮮にドイツから送った奴よりはちっこいんやな。」
北朝○のお偉いさんが食料技術支援で受け取りながら、発案者が現地に行って技術提供する前に全部食っちまったという笑い話がある。そのニュースで見た食用兎はもう一回りくらい大きかった気がした。
「もっと下層には1m超えの特大兎や、レイドボスで軽自動車サイズの超大兎もいるから安心していいわ。」
「はいっ! 抱きついてモフモフしたいです!!」
「抱きつきが攻撃とみなされて、人参のように頭からポリポリ食われる未来しかあらへんで……。」
「それはさすがに心ぴょんぴょんできない。」
そのまま一時間ほど歩き、迫出した森を挟んで入口に置いて来た『灯火』が見えない平地を選んで夜営をすることにした。
夜食は○ロリー○イトと出かけに喜久彦が買ってきたおにぎりの残り。
水で喉を潤し、念のために火の使用は避けた。
◇◇◇◇◇
食事と夜営準備を終えて、いつものグーパーで組み分け。
喜久彦と姫宮さんが先発、俺と茂子さんが後発になった。
「それじゃ先発頼んだ。」
「任されましたっ!」
「わいらの方が長くてええのんか?」
先発は今の深夜2時少し前から5時の約三時間の見張り、後発は5時から9時の約四時間の予定だ。
「暗い方が寝やすくて、見張りも大変よ。逆に日が昇れば寝辛いし眠りも浅くなるわ。」
「夜営訓練の時よりかなり短いが、日曜22時まであと二日ある。明日は早めに夜営して3層ボス戦に備えてゆっくり寝るさ。」
「それじゃ5時に。」
「おやすみ。」
「「おやすみなさい。」」
テントの中で毛布に包まる。とにかく今日は精神的にキツかった。
自分も含めてテンションがおかしかったのもある。あの魔法がいつまで効いていたのかを考えているうちに眠りに落ちた。




