■高校1年 7月第2週 初ダンジョン(4)
今思えば、これが良かったのかもしれない。1年生パーティで今日迷宮に入るのは俺達の他に2パーティ。
それも開場直後20時と20時10分に出発した。20分先行してる相手にはよほどの事が無い限り追いつくことが無いだろう。そして後続もいないのでゆっくり進んでもせっつかれる事も無い。
◇◇◇◇◇
長い階段を下りて0階との間にある転移魔法陣を横目に通り過ぎて、ようやく迷宮1層に辿り着いた。
「この一歩は人類にとって小さな1歩だが、どーたらこーたら。」
「思ったより明るいわね。」
灰色の石造りなのと夜道程度の明るさは変わらないが、壁に松明が点在。迷路の形も明らかに変わってる。
「入学式で見た映像とちょっと違うな。」
「春分で迷宮再構成が行われたのが原因みたいですね。」
「ほな、マップファイルで敵のおさらいしよか。」
●1層
ウルフパピー:どう見ても子犬、しかしこれで成体の狼。
体長30cm未満
弱いが動きはそこそこ早い。
噛まれて出血すれば狂犬病発症の危険もあるので注意すること。
素材:なし
素手緑小鬼:緑の小鬼、ただし角は退化して瘤になっている。
身長80cm前後。
腰布だけの裸で武器を持たない。爪と噛み付きに注意。
素材:瘤、牙
1層:ボス
緑小鬼:緑の小鬼、ただし角は退化してコブになっている。
身長1m前後。
腰布だけの裸、素手ではなく粗悪な武器を装備しているノーマルなゴブリン。
ボス部屋に入った人数&武器に応じて編成が変わる。
素材:瘤、牙
「識別もかねて『灯火』使っておこう。『灯火 カラー:ブルー!』」
通常の『灯火』は白色だが、パラメータ指定で少し青みがかった光が頭上2mに灯る。
「じゃあわいは、赤にしよか。『灯火 カラー:レッド!』」
「『灯火 カラー:グリーン!』」
「『灯火 カラー:マゼンダ!』」
姫宮さんが緑、茂子さんが紫を選んだ。
「まるで戦隊ヒーローみたいだわ。」
「最短ルートで23時までに一層ボス手前、この袋小路に辿り着いて夜営って事でいいか?」
マップを見ながら説明する。
「1方面警戒で済むなら見張りも楽やろ。それで行こ。」
「自分も含めて、本当に調子が戻ったみたいね。よかった。」
最初に曲がり道を曲がったときに、実物の化物と初遭遇した。
犬のような四足歩行動物と人影が多数見える。
「多いな。」
「でも距離がある。魔法攻撃頼むで?」
「任せて。」
「行きます。」
俺と喜久彦は左右に分かれて壁際に移動、射線を空けた。
あちらも気が付いて、犬が先行してまっしぐらに駆けてくる。
「先手貰うわ、『炎矢 5連!』」
杖から生じた炎の矢の5点バーストが、床を這うような超低空で飛んでゆく。うち二発が黒い影に吸い込まれた。
「「キャウンッ!」」
「打ち漏らしお願いします。『水弾 拡散!』」
喜久彦を同時攻撃しようと併走していた二匹をショットガンのように拡散する水の弾幕が被い尽くす。口内に飛び込んだ水弾が原因でゴボゴボと悲鳴にならない音を立てて倒れた。
そして残りの一匹は俺に向けて大きく口を開けて飛びかかる。
「オラァッ!」
カウンター気味に開けた口に棍棒を突き入れた。
ウルフパピーは狼の一種だが、鳴き声も外見も完全に子犬だ。虐待してるようで気分が良くない。
「ほれ飼い主の緑小鬼のお出ましや。」
1mにははるかに足りない、腰下くらいの身長の緑色の人型化物。
8ミリカメラの映像で見たようにボロの腰布だけで武器は持っていない。
それがガ行と拗音撥音だけ並べた雄叫びを上げながら走ってくる。
「小鬼だ、小鬼がおる。」
「ポ○爺さんっ!!」
後方からの声だ。
姫宮さんがこう言うネタに付き合うのは珍しい。魔法の効果だろうか?
棍棒はウルフパピーが生カバーになっていて使えない。仕方なしに剣鉈に持ち替えて突撃した。
緑小鬼の注意は完全に剣鉈に向いている。その不意を付いて蹴りごろの高さの緑小鬼の顔をランニングボレーで蹴った。
「ナイッシュー!」
喜久彦が木剣で緑小鬼を打ち倒しながら褒めた。
蹴られた緑小鬼は後続の二匹を巻き込み10mほど飛び、巻き込みを含めて全員息絶えた。やっぱり自分も含めてテンションがおかしい。
「顔はやめてっ! ボディー! ボディーを狙って!」
「緑小鬼の素材は、瘤と牙で頭に集中しています。なるべく壊さないようにした方がいいですよ。」
最後の緑小鬼は前衛の男二人を無視して、姫川さんに向かっていた。姫宮さんは杖を逆手に構えて攻撃に備える。
しかしそれはフェイント。緑小鬼は姫川さんの脇をすり抜け、そのまま逃走に入った。
「逃がさないわ。『炎矢!』」
15mほど逃げたところで炎の矢が背中を射抜き、決着がついた。
◇◇◇◇◇
瘤の横から気持ち頭蓋骨側に刃を向けて突き刺す。すると瘤の軟骨と頭蓋骨の隙間に刃が入るから、隙間に沿って切れ目を1周させると瘤が取れる。あとはビニール袋に纏めて入れて、さらに保冷袋に入れる。
「『モンスターを打ち殺す、簡単なお仕事』か……。」
解体解説動画を思い出しながら剥ぎ取りをしていると実感が沸いて、しみじみ呟いてしまった。
「なんやそれは?」
「受験の前に待遇が異常過ぎるんで、電話で問い合わせをしたんだ。そしたら『【校内活動】は軽作業ではないけれど、簡単なアルバイト』って言われたよ。
あの時は指無かったし、化物と戦うとか全然考えてなかった。」
「アルバイトにしては破格の時給ですよね。」
「一応体張ってるし技術職でもあるからなー。ワイは面接で赤目で白い謎生物か、悪魔と契約した気分やったわ。」
「伊勢崎先生はノリノリで『私はキミのメフィストテレスよ』とか言ってたわね。」
瘤は退化した角で塗り薬や化粧品などの材料。牙は犬歯で加工して対化物用銃弾の弾頭になるらしい。銀の銃弾の5分の1ほどのコストで、対化物であれば銀の銃弾よりやや劣る程度の威力があるという。買取は一匹分の剥ぎ取り品を全部合わせてもやっと1000円だが、今のペースを時給にすれば4人で割っても3000円以上は出るだろう。
剥ぎ取りをして、その後は死体を通路の隅に寄せておく。今回は後続がいないので放置でも良かったのだが、最初だからとマナー通りやった。最後に『浄化』で汚れを落として終了。
正直、戦闘より剥ぎ取りの方が地味で時間もかかる。ファンタジー小説では討伐証拠として片耳とか体の一部を持ち帰ったりするのだが、自動記録でそれが無いのが救いか。
その後は、前衛後衛入れ替えや隊列その物を変えたりしながら迷宮を進んだ。
真っ直ぐな通路では先に動く影が無いか警戒。十字路、丁字路でも分岐の先の様子も確認。上層で罠がないにも関わらず、先頭は結構やる事が多くて疲れる。
5戦ほどしたところで目的地に着いた。
「いょう、思ったより遅かったな。」
夜営予定地の袋小路は、1年生の先発のパーティに占有されていた。




