■高校1年 7月第2週 初ダンジョン(1)
7月の1回目の週末は、普通科高校生として試験勉強に追われた。
ちなみに迷宮系の授業には今のところ筆記試験は行われない。
「迷宮で掃除屋を続けていれば、君たちは恐らく一生喰うに困らないだろう。
しかし迷宮の古文書の解読には国語・古文・英語。物理戦闘技術には生物・物理。魔法にも物理・化学・生物の知識が絡んでくる。物理や化学を理解するためには数学が必須だ。歴史や地理は謎解き用の知識として知らないと困る事になるかも知れない。高校卒業後に農業や商業や迷宮素材加工に転向するにしても同様だ。
一見無駄に見えるが、すべては繋がっている。これからも蔑ろにはしないように。」
……という国語教師の言葉で期末試験の返却と答え合わせは〆られた。
◇◇◇◇◇
そして待ちに待った、7月2回目の週末の金曜日。
『野営訓練』後にパーティ変更や組みなおす事もできたが、俺達はそのまま行く事にした。
終業式を午前中で終えて、早々に迷宮入場手続き――入場時間、目的、予定、パーティメンバーを書いた書類の提出――も完了させた。
工作室で新しい迷宮用の武器を受け取り。荷物チェックは今週入って毎晩繰り返し、さっきもやったのでもう良いだろう。もう一回しないために0階のロッカーに預けた。
あとは迷宮開場の20時を待つだけであるが、まだ4時間以上もある。手持ち無沙汰になって食堂に向かうと、他のメンバーも集まっていた。
「やっと来たか。今、呼びに行こか話してたとこや。」
「剛志もやることなくなった?」
「ハンカチは持った? ティッシュは? 忘れ物は本当に無いですか?」
「どこの母さんだよ。それにしても俺だけ置いてくなんて酷くないか? 特に喜久彦。」
「男には一人でヤらなければあかん事があるからな。気を使ったつもりやったんだが……正直すまんかった。」
一発ヌいとけってか? そりゃこれから3日間女子と寝食を共にする前に必要なことは思うが……。
「……。」
「わ、私は気にしないわよ。ついでにスケッチさせてくれたら嬉しいのだけど。」
「え、えっちなのはいけないと思いますっ!」
女性陣も察したのか顔が赤い。
「労いに様子を見に来てみれば、これか。お前らいちゃついてないで、もうちょっと迷宮初入場の緊張っての持ったらどうだ?」
すぐ後ろに青筋立てた佐野先生が聳え立っていた。
「やだなー、そんなんじゃ無いっすよ。」
「まだ告白も……ですし。」
「真面目に下準備してるのが馬鹿らしくなるなホンっトに。ほれ館林、忘れモンだ。」
A5版サイズのファイルが机に投げ置かれる。
「これは?」
「1層~4層までのマップと化物情報だ。」
開けてみるとルーズリーフの方眼紙に地図と最短ルート、出現する敵まで描いてある。
他の3人にも見えるように回す。
「大抵は依頼と言う形でやる事になる。次の再構成の後――秋分の後には1年が1~8層を回ってマッピングすることになる。」
「超音波とか電波とかで測定できないんか?」
「喜久彦、迷宮内で電子機器は使えないからGPSも他の位置測定も使えないわ。『迷宮学』の授業聞いてなかったの?」
「迷宮の壁も上下からの音波や電波を通さないらしくて、直接行くしかないみたいだ。」
「そう言うことだ。協力者には褒賞金も出るからぜひやってくれ。」
「フィールド階層だけでも、無人機飛ばせたら楽なんでしょうねー。」
「迷宮階層はブロック数えるとして、フィールド階層はどうやってますか?」
「方位磁石で向きを確認して、魔導具な工事用の転がす奴を50m間隔で隅から隅まで転がして記録させる。
迷宮階層も同じ魔導具を使うが、こっちは手動でのマッピングも平行で行う。でないと帰って来れなくなるからな。」
「えーと、つまりその魔導具は記録するだけで迷宮内のその場では見られないという事ですか?」
「そういう事だ。そこまでの機能を付けると量産できなくなって、コストも2桁上がってしまう。ちなみに一台50万な。」
これ絶対面倒くさい奴だ、フィールド階層にしてもレイドボス居るしやりたくないぞ。
しかも全滅して魔導具消失した日には借金生活突入もありえる。
「館林、顔に出てるぞ。
気持ちは解るが、面倒でリスクがある分マッピングは報酬が高い。
お前らも一年で五指に入るパーティなんだから面倒がらず積極的にやれ。」
「ところで佐野先生、今回行けるのは4層までなんですね。」
「うむ、夏休み中1年生は5層以下に降りる許可は出せない。理由はわかるな。」
「迷宮に慣れる為かしら?」
「ああ、はっきり言って4層までなら『迷宮クラス』で学んでない外部の高校生でも何度かやれば突破できる。支給された体操服と手袋と靴があれば、トチガミの加護なしでも頭と顔面以外セーフの無敵モードだからな。」
「それでも着替え中や寝込みを襲われれば、無敵にはならないんですね。」
「顔面と頭がアウトって事は、目や口に当ったらもっとアウトってことやな。」
「だからこそ『夜営訓練』を念入りにやった。
あと問題は『同士討ち』だ。確か杉戸が入学式で質問したよな?」
全員がうなずく。
「戦闘術の授業で集団戦は軽くやった。壁と味方と敵の位置、獲物を振り回す範囲、魔法の射線と効果範囲……復習だと思って考えて動いてくれ。正直慣れないうちはこっちの方が化物より危ない。
前に『戦闘術』で話したが、木製武器を持たせる一番の理由は『振ったときに自分で自分を切ってしまう事の防止』だが、同士討ちの危険も理由の一つだ。」
「気をつけるわ。」
「いっそ素手で戦った方がいいのでしょうか?」
「これも練習だからいつもの装備でやろう。万一酷い負傷しても0階までは近いからすぐ戻れるさ。」
「あー、最後に国家権力とか捻じ曲げた超法規的措置を使って、校則では不純異性交遊は禁止してない。だが場所だけは選んでくれ、見てるこっちが恥ずか死ぬ。
それとデきた場合は女は『迷宮活動停止』、男は女の分の討伐ノルマを背負う。その上で両親ともに留年確定なので避妊と貯金はしっかりな。」
右手で拳を作り人差し指と中指の間から親指を出した。
「「サイテー(やな)」」
「こっちは一人モンだってのに。爆発しろっ!!」
食堂内に捨て台詞の怒号が響き、背を向けて歩き出す。
佐野先生、多分それが原因ですよ。と言いかけたが、静寂に包まれた食堂に
「コロス、ツギノじゅぎょうデぜったいコロス……。」
という小さく低い呻くような声が聞こえたので、俺も喜久彦も顔を見合わせてツッコムのを止めた。
過疎地で『産めよ増やせよ』という風潮ですが、それでも妊娠により普通科として体育などの授業が不能になるのは歓迎されずに留年になります。男は連座です。
『校内活動』の方も身重の女性を出撃させるわけに行かないので、男がノルマ背負って二人分の生活費を稼ぐことになります。出産費用は学校側で出しますが、保育費用は基本的に両親持ちです。
また優ちゃん先生をはじめ他の迷宮教員が目を光らせているので、妊娠隠蔽はできません。いくら佐野『脳筋』賢治先生でも、気の反応が二人分あるのには気づきます。




