■高校1年 6月第3~4週 夜営訓練(4)
「俺の荷物から飯だけ抜かれてる!」
「なによこれ! 落ちないっ!!」
「あれ? 私の朝ごはんどこー?」
「「「「なんじゃこりゃぁぁぁ!」」」」
「はい、しゅうごー!。パーティ毎に縦隊!!」
その叫びを待ってたかのように、優ちゃん先生の声がハンドマイクから流れる。
全員走ってパーティー単位で整列するが……6パーティほど明らかに襲撃を受けたのが解る。
女性はイ○トを思わせる極太眉毛が一番酷く、それ以外は星とか猫の足跡とかの可愛い感じの落書き。一方男性は額に肉や骨の文字も加えて、ヒゲなどの情け無用な落書きが施されていた。
その内の1パーティの列は特に酷かった。フ○ーザ様、オ○Q、鬼瓦○造、バ○殿が鎮座している。
「皆さん、おはよーございますっ。朝食の前に夜営の総括と合否判定をします。」
一拍溜めたのに合わせて、皆息を呑んだ。
「まず顔に落書きを受けた人がいる6パーティ。見張りに就いていた全員が完全に眠ってました。全滅判定で補習確定です。
おつかれさま、判定の発表が全部終わったらテント片付けて帰っていいですよ。
特に8番パーティは見張りなしで全員テントで爆睡してたので、私直々に念入りにやらせて貰いました。
ちなみにこの落書きは新開発の呪術的な特殊インクで描かれているので洗っても『浄化』かけても落ちません。
でも火曜日の夜に自動で消えるので、安心してね。」
落書き組から不満の声が上がる。
なんか艶々してるのは『私直々に念入り』が原因だろう。
しかも全員ここに定住って契約してるから、一生笑われる事案……特に鬼○権造、○カ殿の女子が不憫すぎる。
「次に食料が無くなっている5パーティ。見張りが起きてはいたものの、周囲警戒がザルでした。
見張りは常に二人以上立てて死角を無くし、適宜交代したげてください。
見張りをすり抜けてテントが襲われ被害が出た判定になります。
二食分だけ食料を残していますので、これを分け合って今日の移動訓練を臨むか、今日は帰って補習に行くか選んでください。」
さらに不満の声が大きくなる。
「それ以外の何もされてないパーティは、無事に夜を明かした判定になります。
ぐっじょぶ!!」
優ちゃん先生がウインクとサムズアップを決めると、俺達を含めた4パーティは歓声を上げた。
「さて、迷宮内で夜営の見張りが機能しなければ物凄く危険なのは『迷宮学』でやったはずです。
さらに昨日の夕方に各パーティを回って『見張りをするよう』念押ししました。
あと一回は夜営訓練をするので、迷宮に入って死ぬほど痛い思いをする前に慣れてください。」
『死ぬほど痛い思い』と言うのを想像して全員が黙った。
眠っている所に頭、それも目や口を狙われたら?本当に死ぬ心配は無いが、やられれば相応の苦痛は伴う。VRMMOと違って現実世界では『ペイン・アブソーバー』は未実装だ。
「それじゃあ、一時間後に移動訓練を始めるので、参加者はそれまでに朝ご飯食べちゃってください。
解散っ!」
「無事だったのはウチら入れて4パーティーやな。」
「昨日は新月なので普通の迷宮より暗かったはずです。今回は運が悪かったとしか言いようがないですね。」
「確かにそうね。」
「反省は後でもできる。今は飯食って準備を急ごう。」
朝飯の用意して食べて、テントを片付けて撤収の荷造り。1時間ではギリギリだろう。
この後の移動訓練二日目は1日目の半分の7パーティで行われた。
しかし食料を盗られ続行を選んだ3パーティのうちで倒れるものが相次いで、訓練はそこで打ち切り終了となった。
熱射病か貧血かは判らないが倒れた者を出したパーティは『異常に気づかず、倒れる前にリタイアさせなかった』事に、今までのどのパーティよりも酷く叱られた上で補習送りになった。
◇◇◇◇◇
翌週は迷宮0階での同様の夜営訓練が行われた。
俺達は天井を使った上からの不意打ちに驚きつつ、何とか突破した。普段0階訓練場を使うときより光量を落としているが、それても半月程度の明るさがあり、おまけに外の暑さとは隔離されている。
1回目の夜営訓練と比べたら移動訓練も含めてイージーモードだった。
補習なしで再来週に一足早く迷宮デビューできるのはB班では3パーティ、A班は4パーティとなった。




