■中学3年 入学試験(1)
中三の春、事故で両親を亡くした。
俺も巻き込まれて右手人差し指切断、内臓や右足も損傷して葬儀にも参加できずベッドで過ごした。
夏、退院してアパートに帰ると俺の個人名義の貯金以外、金目の物は貯金箱まで無くなっていた。
どういう方法なのかはさっぱり解らない。
確かなのは、葬儀や事後処理などを取り仕切っていた父方の親戚が消息不明になった事。
楽しいはずの夏休みも補習とリハビリで消えた。
秋、入院中と退院後の数々の行事不参加。
俺の家庭の事情と腫れ物に触るような気遣いの結果、生徒だけでなく先生との間にも分厚い壁ができていた。
冬、この先一人で生きる術を探していた。
就職か工科学校か、それとも別の道か?
ネットで探しているうちに奇妙な募集を見つけた。
◇◇◇◇◇
国立青龍大学付属高校普通科 募集要項
中学卒業、もしくは卒業見込みの者
かつ卒業後も青龍町に定住する者
一次試験:オンライン入試(英数国)
二次試験:当校にて体力測定・健康診断・面接
定員:男女各60名
備考:全寮制、入学金授業料寮費無料、生活費制服他支給、福利厚生施設あり
ただし週休1日(授業5日、校内活動1日)
◇◇◇◇◇
高校無償化が成ってもう何年にもなるが、生活費まで出るとはいくらなんでもおかしい。
さすがに問い合わせた。
「――――過疎地に若者を呼ぶためのモデルケースなのです。
憲法の『居住移転の自由』に反しますが、相応の対価を用意させて戴くことで国の認可を受けております。
『校内活動』は軽作業ではありませんが、簡単なアルバイトだと思ってください。」
「実は、その……事故で利き手の指を負傷して無くしているのですが、それでもできる『作業』でしょうか?」
「はい、介助なしで動けて生活できるのでしたら問題ありません。
医療施設も完備しておりますので、引き続き通院するのも無料になります。」
「はぁ、それにしても厚待遇すぎやしませんか?」
「そうでしょうか?
悪く言えば憲法を捻じ曲げてまであなたの『自由』を一部買い取らせて戴く訳です。
そう考えれば安いものとは思いませんか?」
「もし定住しない、できなかった場合は?」
「学費生活費を含めた費用返還と違約金。それと守秘義務が発生しますが、契約解消はできます。
防衛大の任官拒否みたいなものです。」
「最後に俺……孤児で、保護者いないのですが契約とか大丈夫でしょうか?」
「はい、保護者がいない場合でも当人の意思が尊重されます。憲法を捻じ曲げる事に比べれば何でもないことです。」
「……そうですか、回答ありがとうございます。参考になりました。」
「いえこちらこそお問い合わせありがとうございました。当校を受験されることをお待ちしております。」
結局、俺――館林 剛志は、『他』を見つけることができなかった。
『国立青龍大学付属高校』を受け一次試験を突破した。
[2016/09/14]追記
感想ありがとうございます。
現在の制度では持ち逃げは不可能では?……
言われてみれば、昨今はタブレット端末でサインさせて筆跡を残したり手続きも煩雑に変わってきています。
可能かどうかと言われると微妙なラインかも知れませんが、後見人制度や指定代理請求などを悪用して『大人が結託して何とかしてしまった』と思ってください。
なにかあればまたお願いします。
[2016/09/23]追記
感想ありがとうございます。
>すごく相続関係とかいろいろ甘く見てて
>そこが違和感がありまくって惜しい
すいません。指摘されてぐぐって調べたりもしたのですが、どうも不勉強なもので。
>今後の展開で親戚とかが出ないなら事故で親も資産も健康も失ったー程度でいいと思う。
登場の予定はないです。
ただ親戚も頼れない状況と人間不信に至る過程として大切な部分なので外せませんでした。
なにかあればまたお願いします。