■高校1年 6月第3~4週 夜営訓練(2)
B班となった俺達のパーティーはいつもの黒ジャージ姿で装備一式を担いで炎天下のグラウンドを歩いていた。
「汗をかいてなくても、適度に休んで水分はこまめに取ってね。でも水は魔法で出すんだぞっ♡」
まだ6月だと言うのに青空と強い日差し。ハンドマイクで指示を出す優ちゃん先生の黒い笑顔ですら眩しい。
彼女はビーチパラソルの下、白衣腕まくりのスパッツTシャツというマニアックな格好でバケツに足を突っ込んで涼んでいる。
「み、みずをくれへんか?」
「ちょっと待って、いま『土竜』で掘って探すから。」
「茂子さんは余裕だな。ほれキク。」
立ち止まって『造水』で人差し指から水を出す。
「突っ込む気も起きへん。おおきに。ふはー、生き返るー。」
「静華、私にもお願い。」
「はいっ。これも飲んでください。」
塩とかミネラルの入ったタブレットを全員に配る。
「しかし、黒ジャージに手袋のまま走らされるとはな。」
識別用のゼッケンを付けているが、体育用ではなく迷宮用のいつものジャージ。通気性はいいものの重くて熱吸収では最強の黒一色だ。
今はパーティの判断で小休止という事で足を止めている。しかしサイレンの合図があれば次のサイレンが鳴るまで走らなければならない。仲間を置き去りにしたり、あまりに遅い場合は優ちゃん先生の攻撃魔法が容赦なく飛んでくる。
「開始直後にサイレン鳴らされたのはキツかったわね。」
「あれはないわー。」
◇◇◇◇◇
B班60人15パーティがスタートラインに並ぶ。
俺達はくじ引きで、かなり後方に並ぶことになった。
優ちゃん先生はハンドマイクを使っての移動訓練の説明を終えて、トラックのスタートラインの外側にいる。
「質問はもうないかな? それじゃ始めるよー。
よーい! スタートぉ!!」
ウウウゥーーーーー!!!
ハンドマイクからサイレンが鳴る。
「ほらサイレンだよっ! 走った走った!!」
俺達は目配せをしてから、呆然としてる生徒を外側に大きく迂回して駆けたした。
「3番パーティ、木崎君アウトぉー!」
先頭集団の一人が光弾に射抜かれる。
着弾箇所を押さえて集団から外れてよろよろとスピードを落として、追いついた他のメンバーに抱きかかえられた。
「木崎君、キミはパーティメンバー置き去りにして一人で逃げるつもりなのかな?そんなんじゃ駄目よ。」
今度はまだスタートラインで呆然としている集団の再後方のさらに後ろに魔法を放つ。
ドンッ!
腹に響くような短い爆発音。
例えるなら花火大会の打ち上げ花火が至近で炸裂する音だ。
思わず足を止めて目をやると、クレーターにはなっていないが結構な広さの地面が煙を上げている。
「はいはーい。
まだスタートラインにいる君達は今の爆発トラップに巻き込まれて死にました。
次は当ててくよー。」
ルールの説明は受けていたが、残りの生徒も体で趣旨を理解してあわてて駆け出した。ここまでスタートから20秒。
そして25秒で二度目のサイレンが鳴りダッシュから開放された。
◇◇◇◇◇
普通に人間が歩くと時速5km前後らしい。今のペースは加護の身体強化と背負ってる荷物40kgがほぼ相殺になってて同じくらいの速度で行進中。ゴールは約10km先だ。
「このままのペースなら、あと二時間歩くのか。」
「それにしても二回目遅いよなー。」
最初のダッシュから、すでに1時間以上経過したが二回目が無い。
喜久彦は水出してもらったお礼に『風乾燥』で風を出して扇いでくれている。
俺も姫宮さんもそれぞれ『造水』で出した自分の水を飲んで休憩中だ。
「フラグ立てるなよ……。」
「フラグってなんでしょう?」
「悪い事を呼び込むような事言うたり、悪い予感を言葉にして言う事で、それがほんまに起きてしまう現象や。言霊見たいなもんやと思うてくれ。」
喜久彦は普通の人にわかるようにかなり言葉を選んでいる。
「次は、たぶんフェイントね。」
「「「フェイント?」」」
「連続して鳴らして惑わせるのよ。
私ならダッシュさせて終了の合図を鳴らして、終わったーと思わせた所でもう一回鳴らすわ。」
「やりそうやな。」
そしてそれは5分後に実行された。




