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■高校1年 5月 特別授業とお悩み相談(2)

日曜午後の音楽室は回復魔法の『特別授業』の会場である。

数少ない防音室で指を折ったり自分の手を刺して悲鳴を上げるのに都合が良いからだ。




俺は最前列の椅子に座らされて、優ちゃん先生は立ってて丁度目線が合ってる状態だ。


「館林君、まだ時間早いけど一本いっとく?」


もちろん一本とはタバコでもドリンク剤でもなく、回復魔法の練習のために指を一本折るという意味である。


「いえ、折角なので少し相談……話を聞いてもらいたいです。」


「なになに、さっきの言い訳? それとも若き性の悩みって奴かな?

こう見えて保険医でもあるから、そっちのカウンセリングもしちゃいますよ。」


少し腰を曲げて、いつもの悪戯を思いついたような黒い笑顔が見上げてくる。




「いや、そうじゃなくてですね。」


「で、本命は姫宮ちゃんと寺前ちゃんのどっち? それとも杉戸君?」


「……何で女子ってホモネタ好きなんでしょうね?」


「ホモが嫌いな女子なんていないわ。逆に男子だって可愛い女の子同士で百合百合しくキャハハウフフしてるの見たら萌えるでしょ?」


「まぁ、そうなんですけどね。本題入っていいですか?」


「どうぞん。」




「俺の回復魔法が『応急手当(ファストエイド)』から先に進まない件について。」


「そうね……基本的に回復魔法は光属性の分野よ。授業でやった通り『生活魔法』だけは例外で、極端な話コツさえ掴めれば全属性『適正不可』の人でも覚えられるの。だから魔法回路があれば誰でも……佐野先生ですら使えるのよ。」


佐野先生の扱いって一体……。




「でも俺、光属性『4』ですよ?」


「適性が『5』、測定不能の『6』の子でもなかなかコツが掴めず『応急手当』ができない子はいるわ。

適正『4』なのに半月ほどで『応急手当』を覚えたのは、館林君の意欲と努力の結晶だね。」


「だったら何故?」


「キミの場合はもっと単純かつ厄介なの。

魔法適正が『光4』で『闇4』、相反する属性を拮抗して持ってるからよ。『光闇拮抗』って奴ね。


他の組み合わせなら、酷くても威力3割減くらいで済むんだけどねー。光と闇の場合は、心属性に連なるから精神バランスの影響を強く受けるの。精神バランスが大きく傾いてる時は片方しか使えなくなるわ。」


真顔に戻って伊勢崎先生は1ヶ月前――魔法適正検査からの疑問にようやく答えてくれた。


「じゃあ、このまま訓練しても無駄ですか?」


「『妬むな焦るな苛立つな』っていつも言ってるでしょ? 負の感情を抑えることができれば、すぐに『()()()()()()()使えるようになるわ。

ついでに2年生の授業内容になるけれど、魔法で起こす現象について詳しくなること。『ヒール』場合は理科の生物。主に人体の構造を知った上で負傷前のイメージを明確すると、回復力を強化して最適化できて発動しやすくもなるわ。」


首を振って『無駄ではない』と否定した。




「でも実戦中に使えないかも知れないかも。キミは自分や仲間が傷ついたときに、負の感情を持たずにいられる?」


「今はまだ無理ですね。」


「闇属性適性を持ってなくても負の感情は回復魔法の足枷になるの。指を折るのはそういう訓練でもあるのよ。」


「……。」


精神修行ってのは一夕一朝ではできないはずだ。

方法も滝行とか座禅くらいしか思いつかない。




「もう一つの方法は精神改革ね。心魔法でせん……暗示をかけるのが手っ取り早いのだけど、副作用が大きすぎるんだよね。」


「今『洗脳』って言いかけませんでした?」


「冗談はさておき。」


嘘だっ!いつもの黒い笑顔じゃなかった。


「感情の起伏で天秤が揺らぐのだから、感情を正側に傾けてしまえばいいのは本当よ。それがたとえ空元気や演技で心の底から思って無くてもそれなりに効果はあるの。

でもこれは光側に傾けた反動で、闇側に振れてしまう可能性もあるからお勧めはしないわ。」


「なぜそんなお勧めしない情報を? 黙ってれば済んだのでは?」


「黙ってれば『何故あの時教えてくれなかった』って『確実に』闇側に傾くからよ。

それにその『反動』ってのは生きていれば誰でも通る道だからね。君だって心にもない事を言ったり、遠足とかで羽目を外し過ぎて後悔した事があるでしょう?」


「確かにそうですね。」


「それに先生としては生徒の希望に沿うようにしたいの。一番いいのは両方使える方法を自分で編み出す事ね。光と闇が備わって最強になれるわ。」


「……。」


この人はどこまでが本気なんだ?

でも伊勢崎先生は『魔法学』の授業で闇魔法も光魔法も使ってるんだよな……。




コンコン。

暫しの沈黙は、扉のノックで打ち破られた。


「はいはーい。ごめんね『特別講習』の時間になっちゃった。相談や再検査が必要ならいつでも言ってよ。」


とてとてとドアに向かって進んで、おもむろにくるっと振り返る。


「でも、土日にしてくれると嬉しいかな。あまり他人に話せる話でもないでしょ?」


ウインクして唇に人差し指を当てて『ないしょ』のゼスチャー、おまけに黒さ0%の笑顔だ。

その後優ちゃん先生は照れを隠すように背を向けてドアに向かい開錠。

扉を開け生徒を迎え入れた。


ひとまず来週の相談は「どっちが本性か?」に決まった。

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