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月明かり、君に捧ぐ

作者: 待 蓮

暗い暗い時計塔広場。

君を思って歌ったのはいつ以来だったろう?

離れてしまうのが僕らの宿命と知っていたにも関わらず、僕はまだ君を求めて彷徨いつづける。


月だけが僕らの運命を知っている。

なのにそれを非情と知りつつ止めないのはそれが抗えないことだから。

君に捧ぐ、想い歌。

届かないと知っているからこそ、君だけに歌っていよう。


……さあ、たった一人の舞台へようこそ。


***

~待ち人~

今夜の月はいつもとくらべ、深い影を背負っていた。

彼女を待って早くも1時間経つ。

いつもの通り彼女に渡した楽譜にあれは挟んであったはずだ。

本を読む栞のように……。

彼女へ言わずとも伝わる言葉のように。


あの日は彼女も笑っていたはずだ。

小さな黒い丸を一緒に追いかけて、

薄暗い広場の階段に腰かけて。

それは約束の歌だった。

一緒に歌おうと約束したものだった。

彼女が歌えるようになったのはそれから数日後。

だから今日……。一緒に歌おうと誓って渡したのだ。


約束の日。約束の場所。約束の歌。

守ってここに待つ僕は、一体いつまで君を待とうか。

いつだって構わない。

彼女はいつも瞳を輝かせて僕の音楽を聴いてくれた。

僕は彼女のその顔が見たかった。

彼女はいつも歌を歌いたいと願ってた。

まるで魔法だと喜んでくれた。


ああそうか。

僕はただ、君に聴いてほしかったんだ……。


***


~見上げる人~

行ってはダメと父さんは言った。

彼はすごいひとなのだと。

黒と白の板から黒い丸を追いかけるだけで

すばらしいものを生み出すのだと言う。

だから、そんなひとに私は近づいちゃダメなんだ。


それなのに私は、父さんとの約束を破った。

彼はよく、おおきな時計のまえで歌ってたから。

それを(うた)と呼ぶことさえ知らなかった私にとって、

彼はまほうつかいだった。

私はそのまほうに飲み込まれた。


ううん。私は……彼がつくるまほうが大好きになったんだ。

彼と約束した。

一緒にそのまほうを歌うんだと。

それは私の奇跡で、大好きな彼とのつながりだった。


けれど、父さんにみつかった。

ある日歌ってしまったそれを父さんは知ってしまった。

お前は彼に会ったのだろう、と怒られた。

父さんの目はつり上がっていた。

反省しろ、と私の部屋にいれられた。

ドアは壁になったように動かない。


約束の日。私はただ雫をこぼして月をみた。


***


外にみえる月は大きい。

黒いかげと淡い光は彼がおしえてくれたあのまほうににてる。

私にはわからなかったけれど。

おしえてくれたまほう、歌ならあるから。


あなたとつながっていられるの。



ふとね。

外から彼のまほうが、聞こえている気がするの。

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