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豚に跨る

作者: 一兎

 外見至上主義者から見れば救いようのない容姿の店員に対し友人が「豚」と言った。その日私は豚に跨る夢を見た。

 私は僻遠の牧草地に住んでいて、フランダースの犬みたいにミルクのドラム缶を積んだ豚に跨っていた。右手には木の棒、左手には手綱を握っている。私は両親の言いつけで市場に向かう。

 海に程近いこともあり、農道の雑草は疎らで、白い砂がむき出しになっていた。

 豚が唐突に口をきく。

「社会学の隆盛が文学分野においても影響を与えている。あそこは自由だ」

 私は無視した。

 私は口笛を吹いた。何かを意識して吹いたわけではないが、リコーダーの練習で「ド」の音が吹けず自棄になって無茶苦茶に吹き鳴らしたときのことを思い出した。私はリコーダーのテストの当日、笛を意図的に家に忘れた。

「誰かから借りなさい」

 怒声を発する先生。クラスメイトのほうを向くと皆一様にへらへらしている。

「豚」

 誰かの呟きを私は聞き漏らさなかった。これは私に対しての言葉だったのか?

「先生、口笛でもいいですか?」

「もちろん」

 私は口を尖らせた。


 市場に着いた頃には夜になっていてネオンがやかましいぐらいに自己主張をしていた。市場のブルーシートでは自由な売買が行われている。

 私は豚からミルクを降ろす。「Take Free」の看板の下に豚をガムテープで繋いで、唾を吐きつけた。豚は言う。

「不明は簡単なことだと思うか?」

 私は豚に言った。

「コロンブスの卵。抽象画を見て、自分にもこれぐらいできると発言するぐらい浅はかだよ」

 豚は笑った。

「リコーダーは吹けなくても、抽象画は描けるか」


 ネオンの下、ミルクは売れなかった。豚は居なくなった。

 途方にくれた私はミルクを飲んだ。生ぬるくて不快な味がした。白い唾液。

 その日、偶然出くわした友人と居酒屋に行った。友人は態度の悪い店員に対し「豚」と言った。私は何かが分かった気がした。

「豚だって。太らないようにしなきゃ」

 と、私は胸を抑えた。

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