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置き去り  作者: 大和香織子
第一章 京崎奈々
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京崎奈々3

朝倉君は今でこそ、プレイボーイですが当時は、女の子と話なんかできる様なタイプではありませんでした。

 彼は運動神経がよく、運動は何をやっても一番でした。

 確か、陸上部だったと思います。陸上部の彼の事を一目見ようと、放課後になると、グランドの水飲み場―――陸上部の活動が一番見える場所―――に女子が沢山集まって来ていましたし、ファンクラブまで出来ていました。

 そんな彼の事を秋保も好きでした。


 秋保と彼は、家が隣同士でしたので、朝倉君は秋保とだけは仲良しっていう程では無かったと思いますが話していました。

 それを見て羨ましがっていた人が多かったこと、それから秋保自身もそれを自分の中でよく知っていました。


 だからこそ、秋保の陰険な虐めは、輪をかけて更に陰湿なものとなったのでしょう。

 ノートを見てしまったあの日、あの後、忘れ物を秋保が取りに来たのです。

 ドアが開いた時にはドキッとしました。すぐに3人でそのノートを見えないように隠しました。

 バレたらどうしようかと、3人の気持ちは同じようにハラハラしていたでしょう。


 しかし、幸い秋保は私たちがそのノートを見てしまっている事には全く気が付きませんでした。

 それどころか、秋保は紀子を呼んで自慢を始めたのです。紀子もまた、朝倉君の事が好きな一人でした。

「これ、見てーさっき、トウヤに自画像書いた紙もらっちゃった」そう言って、窓の前で見せびらかしたのです。


 紀子は、朝倉君が書く絵を見たかったんだと思います。羨ましそうにして秋保の自慢する絵を見に行きました。

 しかし、その日は風が強い日でした。「すごくない?欲しいって言ったらトーヤがあげるよって言ってくれたんだよね~」そう言ってその紙を鞄の中に入れようとして机の上に置いた途端に、窓際の秋保の机の上から、すごい風と共にその紙は宙を舞いました。

 そして拾い上げた所で、秋保はゴミ箱に躓いてよろめいたのです。倒れそうだった所でしたが窓のサンに捕まった事で助かりましたが、その瞬間に秋保は手に持っていた紙を離してしまったのです。


 その紙は、窓のすぐ下の狭いスペースに落ちて行きました。慌てて秋保はホウキなどで取ろうとしましたが全く取れる気配はありませんでした。

 秋保は仕方なく窓のサンに手を掛けてよじ登りました。

「危ないからやめた方がいい」そう言ったと思います。


 ちょうど、その時「コラー誰かいるのか」と担任の声がしたのです。当時の私の担任はとても怖くて、もし残っていることが分かったら、今日の宿題は倍やれとかなんとか言うに決まっている。

 そう思って、私たちは反射的にカバンを持って教室を出ました。


 そして、その翌日、秋保は4階から落ちて亡くなっているのが発見されたのです。

 驚きました。そして、怖くて、怖くて堪らなくなりました。

 あの時、秋保を置いて帰らなければ、こんな事にはならなかったのに。そう思ったのです。


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