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第6話*ありがとうね
「このワークなんだけど。意外と厚いっしょ?」
「本当ですね…。」
先生と一緒に人数分を数える。
時折触れる先生の指先と、さらさらの髪。
「重いと思うけど、ごめんな。」
そう言って見せる笑顔。
「い、いえ、そんなことないですよ。」
美穂は慌ててそう言った。
それから、教室まで並んで歩く。
半分ずつに分けたワークを持って。
「さっき体育だったの?」
「はい、そうです。」
「何やってたん?」
「バレーです。本当はシャトルランの予定だったんですけど、先生が出張でいなかったので。」
「そっかー。じゃあ良かったじゃん、シャトルランは大変でしょ。」
「はい、私走るの嫌いなんで…バレーも好きじゃないですが。」
そんな会話をしながら歩いていた。
先生は、すぐに会話を繋いでくれて、楽しかった。
教室の手前で、先生は美穂に言った。
「えっと、中村。名前何だっけ。」
「み、美穂です。」
美穂は少し声が裏返りそうになった。
先生は笑顔を見せ、言った。
「そうか──美穂。ありがとうね。」
言ってほしくてたまらなかった言葉。
美穂は嬉しくて、真っ赤になった。
「───はい。」