第1話*きっかけはこの日から
4月の上旬。
まだ肌寒い北海道の春。長い薄手のコートを翻し、足を止めた1人の女子高生。
「またこの時期か──。」
そう言った少女は、どことなく寂しげだった。
黒髪ロングをなびかせて、まだ少しも桜の咲く気配の見せない中を歩く。
「美穂ー!」
彼女の名は、美穂らしい。
「おはよう、奈津。」
美穂は振り返って呼び掛けてきた友達に手を振った。奈津、と呼ばれた少女は、にこりと笑顔を作る。
奈津は、美穂とは対照的に、少し茶色がかった色で、首もとまでの短い髪をしている。笑顔の似合う少女だ。
「今日から二年生だねー。」
奈津は言った。
「うん。」
2人は高校二年生になるらしい。
「二年生かー。なんか、実感わかない。」
そう言う美穂に、奈津は「うちなんか、高校入学した時も実感わかなかったけどね」と笑った。
「しいて言うなら、日本史の授業が始まるよね!」
奈津は言った。
「うん!」
その言葉に、美穂も笑顔になる。
2人の通う高校──四つ葉高校というのだが──は、一年生は日本史ではなく世界史を学ぶ。そして、二年生からは世界史・日本史・地理の三つから選ぶことが出来るのだ。
…というのも、この高校が普通の高校と同じではなく、“単位制”という制度を使っているからである。“進学重視型単位制高校”という、立派な進学校なのだ。
「楽しみだなぁ。」
美穂は呟いた。
この日本史が、“先生”と出会うきっかけだった。