表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

永遠の幸福~ココロノヤミヲトカスヒト番外編・高原バージョン~

作者: 竹野千代

 俺みたいに大切に大事に扱いたいと思うやつと、あいつみたいに傷付けて楽しみたいやつと。同じ人を見て、こんなにも反応は違うのだ。

 俺は、かいりの怯えた顔なんて見たくない。怖がらせたくなんかない。安心して笑って、信頼に身を近付けていてくれて、気を抜いて俺の傍で眠ってくれるのが、これ以上はない最高の幸せだと思う。今みたいに。

 かいりの全てが大好きだ。いつもどこか恥ずかしそうに俺を見上げる目も、俺の前ではしっかり張る声の、透き通る柔らかな響きも、選ぶ言葉の可愛らしさも、慣れていないから不器用な割に時々妙に大胆になる甘え方も。

 どこに触れても、気持ちがいい。柔らかで滑らかな頬も、しっとりと吸い付く様な唇も、さらさらの短い髪も、眉根に寄る深い皺も可愛い額も、骨ばった鎖骨も肩も、筋肉や脂肪の余りにない頼りない腕も、絡めた時の感触が極上にしっくりくる指も、肉の薄い胸も、……それ以上は、勿体ないから言えないけど。言いたいけど、自慢したいけど、でもやっぱり勿体ないから言わない。

 かいりの困った顔も大好きだ。わざとそんな顔をさせてしまう事は多い、ちょっとした事にも恥ずかしがるから、それは簡単だ。極端な話、キスしていいかと尋ねるだけで赤くなり逃げたそうにする、慣れないうぶなさまなんてもう……。

 ーー俺は幸せ者だ、と思う。こんなにも愛しいと思える人、恐らく俺にとって運命の相手に、人生のこんな早い時期に出逢えるなんて。そんな大好きな相手からも、好きになってもらえるなんて。今からどれだけの長い時間、心を体を重ねて過ごす事が出来るんだろう。

 うっとりと、腕の中のかいりを見つめる。誰かを愛しいと思う、優しい気持ちを俺にくれたひと。今迄知らずにいた、満たされる幸せを俺に教えてくれたひと。誰かを大事に守りたいという使命・生きがいを俺に抱かせてくれたひと。俺の心を落ち着かせると同時に、狂おしく騒めかせてしまうひと。全て、愛おしい。

 離れる事なんて考えられない。死んでも離さない、死んだら尚離さない。かいりがどんな姿になろうと、もし焼け焦げてしまっていても、バラバラに切断されたり肉片や骨だけになってしまっていても、掻き集めてそれを腕に抱いて、俺も後を追うのだ。この世からかいりを失った後で、生きる意味は俺にはない。

 ストーカーじみてる、と自分でも自覚はしている。自分が相手に入れ込み過ぎている事位。でも、それが俺の愛情の表し方だから。それ位、かいりは俺には大切な相手だから。

 もしもかいりの心が俺から離れたらーー一番に怖いのは、だからそれだ。もうどんな事をしてもかいりを繋ぎ止められない、って事態になってしまったなら……

 ……殺してしまう、かも知れない。俺の手で、かいりを。離れて行かれる前に。命を止めて、その体を大事に剥製にでもしてずっと傍に置いて、俺は生きていくんじゃないだろうか。多分、そうする気がする。

 俺から離れて、かいりが他の誰かのものになるなんて状況を、俺は正気で受け止める事なんて絶対に出来ない。気が狂ってしまう。絶対に、殺すだろうな。

 柔らかな髪を撫でる。怖がらせてしまうから、それは口にはしないけど。死ぬ迄守る、俺の秘密だ。

 かいりは、どうなんだろう。俺が心変わりする事やかいりの他に気を向ける事なんてまず有り得ないけど、絶対にないと言い切れるけど、もし、もしもちょっとした俺の浮気なんかに遭遇したとして、かいりはどんな反応を示すんだろう。

 ーー泣いて俺の元から黙って立ち去る。必死で見なかった振りを装って、耐えながら何事もなかったかの様に日常を続ける。言えないだろうかいりは、そのどちらかを選ぶんだろうか。

 ねえかいり、俺は構わないよ。もしも俺の心が一瞬でも君から離れる事があったなら、俺を殺したらいい。俺は構わない、君に殺されたとしても。俺を殺したくなる程の愛情を、君から感じ取れるのなら。例えそれが最期の瞬間だとしても。

 俺は、君を愛してる。君にも、俺を愛していて欲しい。俺位に深く、俺以上に強く。

 愛しいひとに届く様に、眠る頬に口付ける。微睡みの中身じろぎして、無意識にその顔が俺の方に向けられる。無防備な唇に、導かれた様に俺は自分の唇を落とす。

 やっぱり殺されるのも殺すのも嫌だな、と俺は思う。体温を伴っての幸せだ、返される反応があっての喜びだ。冷たい剥製なんてくそ喰らえだ。

 そんな修羅場な事態にならない様に、努力すればいいのだ。かいりに心変わりされない様に、かいりに愛想尽かされない様に。

 ……優しくなぞる様に一方的に味わっていた唇から、気付けば応える様な動きが返されている。俺は目を開けた。

 気配を感じたのか、かいりも目を開いた。唇への愛撫で覚醒を促された恥ずかしさを、全面に押し出して。

 こんな風に、かいりは分かり易い。愛しくて、俺は今度は噛み付く様に唇を重ねた。性急なやり方に、んっ、とかいりの甘い声が洩れる。

 ーーしあわせだ。俺に身を委ねてくれる、暖かな体。抱き返してくる腕の強さから伝わってくる気持ち。愛されている。

「かい、り……」

 囁いた。荒々しくなってしまうキスの合い間、うん、とかいりは律儀にも返事をこぼしてくれる。

「かいり、愛してる」

 とろりと、色っぽくかいりの目が開かれた。重ね合わさる唇に翻弄されながらも、かいりは俺を見返して、はっきりと返してくれた。

「俺も。……俺も、なおを愛してるよ」

 未だに強制しないとなかなか口にしてくれない、せいぜい俺の15回に対して一回の、貴重な『愛してる』を今この瞬間にくれるなんて。テレパシーで繋がっているとしか、思えないのだ……

 溺れていく。優しい幸福に。ーーきっと一生続く幸せに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ