第29話:不確定性存在の崩壊! 理論物理学のメフィストと「詰まない詰将棋」
魔王城の最終防衛ライン。そこは、物理法則がバグによって書き換えられた「特異点」だった。
中央に鎮座するのは、巨大なホワイトボードに宇宙の真理を数式で書き連ねる男――四天王最強の知性、『理論物理学のメフィスト』。
「ククク……勇者アキラ。ここに来るまでに多くの同僚を葬ってきたようだが、私の構築した**『絶対収束理論』**の前では、貴様の叫びもただの波長に過ぎない」
メフィストが指を鳴らすと、空間が幾何学模様に歪み、アキラの足元から「地面」という概念が消失した。
「……なんやこれ! 景色が全部『因数分解』されとるやないか!!
お前、その白衣!! よく見たら、
**『袖口に計算のカンペをびっしり書きすぎて、逆に何が正解か分からんくなって迷子になっとる』**やないか!!
四天王の英知を、そんな『試験直前のパニック状態の中学生』みたいな姿で体現するな!!
お前が一番計算せなあかんのは、重力や時空の歪みやなくて、
**『その浮世離れした理屈を、誰一人として理解してないっていう孤独の体積』**やろがい!!」
パキィィィン!!
アキラのツッコミが数式の壁を削る。だが、メフィストの瞳には冷徹な光が宿っていた。
「無駄だ。私の能力は**『観測者の否定』**。
貴様が『ツッコんだ』という事実を、私の理論で『なかったこと』に書き換える。
つまり、貴様の声は誰にも届かず、空振りのスベり芸として永遠に虚空を漂うのだ」
「……なんやて!? ツッコミの『無効化』やなくて、
『ツッコんだという歴史の削除』か!!
芸人にとって、スベることより『存在を無視されること』が一番の地獄やって知っててやっとんのか!!」
メフィストが放つ「事象の矢」がアキラの喉をかすめる。
かすった場所から、アキラの「記憶」や「言葉」がデジタルノイズのように消えていく。
かつてない絶望。喉は血を吐き、視界は数式の嵐に覆われる。
「アキラ様! 彼の理論には隙がありません。ですが、完璧すぎるものは、一箇所の『汚れ』で全てが崩壊する脆弱性を持っています」
ミリティが杖から、最高濃度の「論理汚染除去剤」を噴射し、メフィストの数式の一部を無理やり真っ黒に塗りつぶした。
(……アキラ様。……私の、……執念を、……計算式に入れて。……アキラ様への愛は、……無限大。……お前の数式じゃ、……処理落ちする。……逃がさない)
シズクがメフィストの影を「愛の重圧」で縛り上げ、その計算速度を物理的に低下させる。
アキラは、膝をつきながらも、声を上げて確信を突く
「……メフィスト。……お前の理論、……一つだけ致命的な『バグ』があるぞ。
お前の数式には、……**『スベった後の、あのなんとも言えない空気』**っていう、
観測不能な暗黒物質が考慮されてへんのじゃ……!!」
アキラは、喉の奥に溜まった「血と意地」をすべて声に乗せ、最大出力の咆哮を放った。




