第3話:お前、その鎧の着方、前後逆やないか! ~丸出しオークの美学~
初心者の森を少し抜けた先、街道の入り口付近で、アキラは「それ」を目撃した。
凄まじい金属音。
そして、それ以上に凄まじい「視覚的暴力」だ。
「……ちょ、ちょっと待て。エルナ。俺の目が腐ったんか? それとも、この世界の視力検査は特殊なんか?」
アキラは、歩みを止めて顔を引き攣らせた。
目の前の広場で、一人の女騎士が、数体のオークと交戦中だった。
女騎士は、燃えるような赤髪をポニーテールにまとめ、凛々しい顔立ちをしている。
本来なら、物語のヒロインを飾るにふさわしい、正統派の美女だ。
だが、問題はその「装備」だった。
「…………前後、逆やろ」
アキラの声が、震える。
彼女が身に纏っている重厚なプレートアーマー。
背中を守るべき大きな装甲板が、なぜか体の前面に来ている。
逆に、胸当ての部分が背中に回っており、肩のパーツも左右が逆だ。
結果として、彼女は**「自分の腕が自分の鎧に当たって、まともに剣が振れない」**という地獄のようなセルフ・デバフ状態で戦っていた。
「くっ……! さすがはオークの精鋭! 私の『鉄壁の構え』を崩そうというのか! だが、この防御、容易には突破させんぞ!」
女騎士が叫ぶ。
だが、彼女の視界は、前後逆に着た兜のせいで「後頭部用のスリット」越しになっており、真後ろしか見えていない。
彼女は、**「敵に背を向けた状態で、見えない前方の敵に向かって、鎧に阻まれながら剣を振り回している」**のだ。
「……おい待てぇぇぇ!!! どこが鉄壁やねん! ガバガバやろが!!!」
アキラのツッコミが、空気を震わせる。
「お前、その鎧の着方、親に教わらんかったんか!? 前後逆や! 鏡見ろ! 自分の背中を守るはずの板で、自分の胸を圧迫してどうするねん! 肺活量制限プレイか! 縛りプレイが過ぎるわ!」
「な、何奴!? 私の『最新鋭の防衛理論』を批判するとは……! ぐはっ!」
女騎士は、鎧が首に食い込んで、勝手に自爆して転んでいる。
だが、事態はさらに深刻だった。
彼女と対峙している魔物――オークだ。
通常、オークといえば毛皮を巻いた豚顔の怪力モンスターを想像する。
だが、そこにいたオークたちは、違った。
彼らは、全員が**「シルクハット」を被り、「蝶ネクタイ」**を装着していた。
それ以外は……全裸である。
「…………は?」
アキラの思考が、一瞬停止した。
全裸。
筋肉隆々の緑色の体が、太陽の光を浴びてテラテラと輝いている。
局部は、絶妙なタイミングで通りかかる「謎の霧」や「光の反射」で守られているが、間違いなく全裸だ。
「フゴォ……。我々は、気高き『露出・オーク』。……この肉体美こそが、至高の芸術。服などという『文明の枷』は、魂を腐らせる……」
リーダー格のオークが、良い声で喋りながら、しなやかなポージングを決めた。
サイドチェストだ。
「……おい、エロいのか上品なのかはっきりしろよ!!!」
アキラの右手が、激しく明滅し始める。
ボルテージが上がっている。
「シルクハットと蝶ネクタイだけ付けて、あとは全裸!? それは『紳士』じゃなくて『ただの変質者』や! どっちかに振り切れ! 礼装のパーツを間違えすぎやろが!」
「フゴッ!? この人間……我々の『美学』を、言葉だけで削り取ってくるとは……!」
「美学でもなんでもないわ! 警察呼ぶぞ! あ、ここ警察おらんのか! 法律がボケに加担しとるんかこの世界は!」
オークたちは、アキラのツッコミに怯みながらも、一斉に襲いかかってきた。
「フゴォ! 肉体の輝きを見よ! 『シャイニング・マッスル・プレス』!!!」
オークたちが、空中で円陣を組み、全裸で回転しながら降ってくる。
その光景は、地獄の万華鏡のようだった。
「きゃあああ! アキラ様、助けて! 目が、目が汚れるわ!」
エルナが、タコを顔に押し当てて視界を遮る。
「お前もタコで目隠しすな! 隙間から見てるやろ、そのタコの吸盤の隙間から! ……よし、もう我慢の限界や」
アキラは、地面を力強く踏みしめた。
目の前の光景、すべての「ボケ」を標的に定める。
「お前ら、まとめてかかってこい! 芸歴5年の意地、見せたるわ!」
アキラの指が、オークの群れを指し示した。
「まず、真ん中のオーク! お前、さっきからポージングばっかりして、一歩も動いてへんやろ! 戦う気あるんか!? ジムに行け! コンテストに出ろ! 戦場をステージと勘違いするなぁぁぁ!!!」
ドガァァァァァァン!!!
ツッコミの衝撃波が、中心のオークを直撃。
「戦いにおける矛盾」を指摘されたオークは、存在意義を失い、筋肉の破片となって爆散した。
「次! 左のオーク! シルクハットが小さすぎるんじゃい! お前の頭のサイズ、計算できんのか!? 乗っかってるだけやろ! 接着剤で付けてるんか! 物理法則に喧嘩売るなぁぁぁ!!!」
ズガガガガァァァン!!!
二体目のオークが、帽子のサイズ矛盾を突かれ、帽子ごと消滅した。
「そして、その鎧の女ぁ!!!」
矛先は、女騎士にも向く。
「お前や! 最大のボケは! 『鉄壁の構え』とか言う前に、まず服の着方をYouTubeで調べてこい! 兜のスリットから自分のうなじを見て、どうやって敵と戦うねん! お前は未来予知ができるバックモニターか!!!」
「ぐっ……あ……! 核心を……突かれた……!」
女騎士の鎧が、アキラのツッコミの圧力に耐えきれず、パッカーンと弾け飛んだ。
彼女は、下着同然のアンダーウェア姿で、地面に転がる。
「最後や、オークの親玉ぁ!!! 『文明の枷』とか抜かしとったけどな……」
アキラは一歩踏み出し、全エネルギーを喉に込めた。
「蝶ネクタイだって、立派な『文明の枷』なんじゃい!!! 本当に全裸になりたいなら、その首の布も捨ててから出直してこい! 中途半端な露出狂が一番タチ悪いんじゃ!!!」
「…………なんでやねん!!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
これまでにない巨大な爆発。
街道一帯が、白い光に包まれた。
「文明を否定しながら文明の象徴を付ける」という致命的なパラドックスを指摘されたオーク・リーダーは、細胞の一つ一つが「俺はどっちなんだ!」とパニックを起こし、熱核融合のごとき勢いで自壊した。
爆風が収まった後。
街道には、静寂だけが残っていた。
オークたちは、影も形もない。
ただ、数個のシルクハットが、虚しく地面を転がっているだけだ。
「……ふぅ。……喉が、痛い」
アキラは、膝をついた。
さすがに、これだけの連発は堪える。
「……あ、あの」
消え入るような声がした。
見ると、先ほどの女騎士が、真っ赤な顔をしてアキラを見上げていた。
「……見事な、指導であった」
「指導ちゃうわ。ツッコミや」
「私は……重騎士のルビィ。今まで、自分の防御こそが完璧だと信じて疑わなかった。だが……貴殿に、その矛盾を完膚なきまでに破壊され、目が覚めた」
ルビィは、震える手でアキラの裾を掴んだ。
「……もっと、叩いてほしい。私の、この歪んだ装備、歪んだ戦術……その、鋭い舌で、粉々に粉砕してほしいのだ……っ!」
ルビィの瞳は、潤んでいた。
それは、誇り高い騎士の目というよりは、完全に「目覚めてしまった」者の目だった。
「……おい、エルナ。こいつ、なんかヤバいぞ。聖女として、こいつの精神を治療してやれ」
「無理よ、アキラ様。ルビィ様は、あなたの『ツッコミ』という名の光に、魂を焼かれちゃったのね」
エルナは、どこか楽しそうにタコを撫でている。
「私のポンコツも、彼女の不器用さも……。アキラ様のツッコミがあれば、すべてが輝く『ネタ』になる……。ねえ、ルビィ様? 私たちと一緒に、アキラ様の『ツッコミ漫才旅』に行きましょう?」
「ああ! ぜひお願いしたい! 私を、貴殿の『盾(ボケ担当)』にしてくれ!」
アキラは、二人を見回し、深くため息をついた。
だが、その口角は、無意識のうちに少しだけ上がっていた。
「……ふん。勝手にパーティー組むな、と言いたいところやけどな」
アキラは、腰に手を当てて、二人を指差した。
「お前らみたいな『天然記念物級のボケ』を野放しにしといたら、この世界の理がいくつあっても足りへんわ! 街一つ滅ぶ前に、俺が全部軌道修正したる!」
「……っ! それはつまり!」
「ああ、そうや! どいつもこいつもボケ倒しやがって……!
ええか、お前らのその腐ったボケの根性、俺が根こそぎ叩き直してやる!
ついてこい! この世界の不条理、全部まとめて『爆散』させてやるわ!!!」
アキラの力強い宣言に、二人のヒロインが歓喜の声を上げる。
――こうして。
「タコ聖女」に続き、「前後逆のドM騎士」という、濃すぎるボケキャラを従えたアキラ。
ツッコミという名の最強魔法を手に、彼は異世界のカオスを真っ正面から迎え撃つ決意を固めたのだった。
「……よし、行くぞ! とりあえずルビィ、その鎧を脱げ!
見てるだけで目がチカチカするんじゃい!!!」
「はいっ! 喜んで脱ぎます、アキラ様ぁ!!!」
「脱ぐなっ! 着替えろと言っとるんじゃ!!!」
アキラの叫びと、それに応じるような謎の小爆発が、異世界の空に高らかに響き渡った。
【アキラの現在のステータス】
• HP:90(精神的疲労により減少)
• MP:0
• スキル:【真実の弾劾Lv.3】
• 現在のハーレム(予備軍):
1. エルナ(タコ聖女/天然)
2. ルビィ(前後逆騎士/ドM)
• 今回の被害:露出オーク軍団(蒸発)、街道、ルビィの鎧(全損)




