第28話:記憶喪失の街と「迷走のメモリー」! ミリティの超高圧メンタル除菌(デトックス)
「情熱のバーニング」をシズクの執念とアキラのツッコミで消滅させた一行。次なる目的地は、深い霧に包まれた石造りの街「ルーズ」であった。
この街に足を踏み入れた瞬間、アキラは違和感に気づく。
道ゆく人々が、手に持ったリンゴを見つめて
「……これ、なんだっけ? 食べ物? それとも鈍器?」
と首を傾げ、買い物途中の主婦が
「……私、誰と結婚してたかしら。まあいいわ、適当な男と夕飯食べましょう」
と、隣の赤の他人の腕を引いて去っていく。
「……なんやここ。街全体がボケ倒しとるぞ!!
3歩歩いたら自分の名前忘れるニワトリの集まりか!!」
「アキラ様、深刻なバイオハザード……いえ、『メモリーハザード』です。空気中に漂うこの霧、微細な『忘却の胞子』が含まれています。人々の脳内の短期記憶を物理的に分解し、知性を初期化しようとしています。……不潔です。脳のシワの間に溜まった『思考のカス』ごと、一気に洗浄する必要があります」
ミリティがいつになく冷徹な手つきで、杖を「高圧洗浄ノズルモード」にガチャリと換装する。
(……アキラ様。……私、……アキラ様のこと……忘れた。……なんて、……嘘。……アキラ様が初恋の相手を忘れても、……私が、……当時の状況を、……1秒単位で、……再現してあげる。……逃がさない)
シズクが「記憶復元用」の婚姻届(バックアップ済み)をアキラの背中に貼り付ける。
「怖いねん!! 忘れたい過去まで強制復旧させるな!!」
「フハハ……。……ワレは……誰だ? 貴様らは……何だ?
……あ、そうだ。ワレは世界を滅ぼす……予定だった気がする……」
街の中央広場の時計塔から、全身が「ポストイット(付箋)」と「メモ帳」で埋め尽くされた奇妙な男が降りてきた。
四天王が一人――『迷走のメモリー』。
彼は「世界中の恥ずかしい記憶」をエネルギーにする強敵……のはずだったが、本人が一番、自分の設定を忘れていた。
「……えーと。……ワレの必殺技は……なんだっけ。……あ、書いてあった。
『相手の初恋の人の名前を大声で叫ぶ』……。
えーと。……アキラ。……貴様の初恋は……『隣の席の、消しゴムを貸してくれた……佐藤さん』!!」
「……ダメージ、地味ィィィ!!
やめろ!! リアルな記憶を掘り返すな!!
お前、四天王やろ!! 四天王の風格どこへやったんや!!
全身に貼っとるそのメモは何や!!
『火曜日は燃えるゴミの日』って、
**『一人暮らしを始めたばかりの大学生の冷蔵庫』**みたいな生活感出しとるんじゃねぇ!!」
パキィィィン!!
アキラのツッコミが炸裂する。しかし、メフィストは霧を操り、ミリティの記憶に干渉しようとした。
「……お前の……一番消したい記憶を……消してやろう……。
……それは……『勇者アキラが、他の女と……仲良くしている光景』……だ!」
「…………」
ミリティの動きが止まる。彼女の周囲に、黒い霧が渦巻く。
「…………アキラ様。……今、この魔物は……私の『心の聖域(推し活)』を汚しました。
不条理な記憶の改竄……。
これは、……除菌ではなく、**『解体』**の対象です」
ミリティの眼鏡がキラーンと白く光り、彼女の魔力が爆発した。
「マジカル・クリーニング……フルパワー出力。
『高圧洗浄・精神汚物吸引』!!」
ミリティが杖を突き出すと、街を覆っていた「忘却の霧」が一気に吸い込まれ、代わりに真っ白な「除菌用高圧蒸気」が噴射された。
「迷走のメモリー。……お前の脳内、……整理整頓ができていません。
『四天王としての義務』と『今日の献立』が混ざっています。
……これでは、……ゴミ屋敷と同じです。
……私が、……お前の前頭葉ごと、……ピカピカに磨き上げてあげます!」
「ギ、ギャァァァ!! 脳が……脳が洗われるぅぅ!!
ワレの……ワレの『恥ずかしい黒歴史コレクション』が、
**『酸素系漂白剤』**の勢いで真っ白に……!!」
アキラは、ミリティの怒涛の洗浄に合わせ、トドメの叫びを放った。
「……お前、四天王やろ!!
自分の脳みそすら管理できん奴が、世界の記憶を操ろうなんて100年早いわ!!
お前、その全身のポストイットもな!!
よく見たら、**『粘着力が弱まって、端っこから丸まっとる』やないか!!
そんなんで、他人の記憶を繋ぎ止められると思うな!!
お前のその『迷走』はな!!
ただの『スーパーに買い物に来たのに、何を買うか忘れて店内を三往復しとるおじいちゃん』と同じ徘徊やろがい!!
お前のその『忘却の霧』はな!!
ただの『お風呂場の換気扇を掃除してないせいで溜まった、カビ臭い蒸気』と同じレベルなんじゃ!!ボケェェェ!!!!!」
ドガァァァァァァァァン!!!!!
ミリティの洗浄魔法とアキラのツッコミが完全融合!
メフィストのポストイットはすべて剥がれ落ち、中からは……
「……すみません。……本当は、街の図書館で、『延滞図書リスト』を整理するのが夢なんです……」
という、おどおどした事務員風の男が現れた。
街の霧は晴れ、人々は正気を取り戻した。
「……あれ? 俺、なんで知らないおばさんと夕飯食おうとしてたんだ?」
と、街のあちこちで気まずい解散劇が繰り広げられる。
「……ふぅ。……ミリティ、お前。……怒ると怖いな。……除菌っていうか、……消滅させてたぞ」
「アキラ様。……不潔な記憶は、……世界の不条理を増やすだけですから。
……あ、アキラ様。……佐藤さんとの消しゴムの思い出、……私が今すぐ『上書き(オーバーライト)』してあげますね。
……この特殊な除菌剤を浴びれば、……佐藤さんの顔が、……私の顔に差し替わります」
「記憶の偽造はやめろ!! 犯罪やぞ!!」
「シズクさん。……佐藤さんの住所、……特定できましたか?」
(‥‥‥完了。……佐藤さんの……消しゴム、……影で……回収した。……アキラ様の……初恋……終了)
「お前ら、……コンビ組むな!! 史上最悪の『記憶クリーニング屋』やないか!!」
アキラのツッコミが、晴れ渡ったルーズの街に響く。
一行は、ついに魔王城の門番、最後の四天王が待つ四天王参謀にして最狂の頭脳、『理論物理学のメフィスト』。へと歩みを進めるのであった。
【現在のパーティ状況】
• ミリティ: 「精神除菌」という新ジャンルを開拓。魔導ランクが「特級鑑定士」に昇格。
• アキラの喉: 記憶の霧を吸い込んだせいで、時々「自分が勇者であることを忘れる(ボケる)」という副作用が出始めた。
• シズク: 「初恋抹殺担当」としてミリティと裏で手を組む。婚姻届の「配偶者」の欄をアキラの脳内に直接投影する術を開発中。




