第25話:鋼鉄の乙女(物理)! 重力1000gの試練とルビィの「至福の圧殺」
「スベラナイ・ワン」の軍団をエルナの軟体魔法で無力化したアキラ一行。関所を越えた彼らの前に立ちはだかったのは、四天王「重厚のグラビトン」の本拠地へと続く最後の難所、**「断罪の重力回廊」**であった。
その回廊に足を踏み入れた瞬間、アキラの視界が歪んだ。
「ぐっ……!? な、なんや……これ……!」
ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃と共に、アキラの全身が地面に叩きつけられた。肺の中の空気が無理やり押し出され、目玉が眼窩の奥にめり込むような感覚。
そこは、グラビトンの魔力によって**常時1000g(地球の千倍)**の重力が維持された、生物生存不可能なデッドゾーンだった。
「……アキラ様! 計測不能な重力エネルギーです! 本来なら、ここを通る者は一瞬で『ひき肉のパンケーキ』に加工される仕組みになっています! 私のバリアも、あと30秒でペシャンコに潰されます!!」
ミリティが杖を両手で支え、必死に抗重力フィールドを展開するが、その防護膜は「メキメキ」と嫌な音を立てて収縮していく。
「1000gって何やねん!! 体重70キロの俺が……70トン!?
戦車に踏まれながら生活しろってか!!
グラビトンの野郎、バリアフリーの精神が欠片もねぇぇぇ!!」
アキラは地面に顔を押し付けたまま、喉の奥から絞り出すようにツッコむが、言葉の「重み」ですら物理的な質量を持って、自分の喉を圧迫する。
(……アキラ様。……重力、重い。……でも、私の愛の重さに比べれば、……綿毛。
……今のうちに、アキラ様を地面ごとラミネート加工して、……持ち帰る。
……重力、ありがとう。……離さない)
シズクが地面に這いつくばりながら、アキラの腕に「高重力対応」の婚姻届を巻き付けようとする。
「この状況で愛を語るな!! 物理的に重いねん!!」
回廊の奥から、ズシン、ズシンと地響きを立てて巨大な影が現れた。
それは四天王グラビトンが最も信頼を置く、重力操作のスペシャリスト――『プレスの重蔵』。
その容姿は、これまでの配下とは一線を画す威圧感……を放つはずだった。
しかし、現れた「重蔵」の姿を見て、アキラは潰れた鼻の隙間から、決死のツッコミを放った。
「……ちょ、待て。……お前、なんやその姿。……巨大な『漬物石』に手足が生えただけやないか!!」
そこにいたのは、高さ4メートルを超える、四角い御影石のような胴体を持つ魔物。
頭にはなぜか「ハチマキ」を巻き、手には巨大な「木槌」を持っている。
「……フン。ワレこそが、グラビトン様の忠実な僕……重蔵。
この回廊に入る者は、ワレの重力と、この『正義のプレス』によって、
ペラペラの『押し花』にしてくれるわ……ドスンッ」
喋るたびに、重蔵の体から「漬物の匂い」が漂ってくる。
「『ドスンッ』って自分で言うな!!
お前、重力を司る魔物やろ!? なんでコンセプトが『漬物作り』に寄っとんねん!!
そのハチマキも、ただの『近所の頑固な豆腐屋』にしか見えんわ!!
世界を滅ぼす前に、白菜でも漬けとけボケェェェ!!!」
パキィィィン!!
アキラのツッコミが重圧を切り裂く。しかし、重蔵はびくともしない。
「……笑わせても無駄だ。ワレは石だ。石に感情はない……ドスンッ。
さあ、まずはその青い鎧の騎士から、平らにしてやろう!」
重蔵が巨大な木槌を振り上げた。
1000gの重力下で放たれる、数万トンの衝撃。
「アカン、ルビィ!! 逃げろぉぉぉ!!」
アキラの制止も虚しく、木槌はルビィの頭上に振り下ろされた。
ドガァァァァァァァァン!!!!!
凄まじい衝撃波が回廊を駆け抜け、アキラたちの体が数メートル吹き飛ばされる。
砂煙が舞い、地面には巨大なクレーターが穿たれていた。
「ルビィ……!!」
アキラが絶望的な声を上げる。あんなものを喰らえば、いかに頑丈な重騎士といえど、存在そのものが消去されているはずだ。
しかし。
砂煙が晴れた中心部で、アキラは信じられない光景を目にした。
「……ふぅ……。はぁ……。……今のは……なかなかの……『圧』だったな……」
そこには、巨大な木槌を、片手で受け止め、頬を赤らめて喘ぐルビィの姿があった。
彼女の鎧は1000gの重力と木槌の衝撃でミシミシと悲鳴を上げ、各所から火花が散っている。だが、その表情は……これ以上ないほど「至福」に満ちていた。
「な、……耐えとる!? あのバカ、あの質量を真っ向から受け止めよったぞ!!」
「……おのれ……。ワレの『千貫プレス』を耐えるとは……!
ならば、重力をさらに倍にする……ドスンッ!!」
「……ああっ……!! 体が……内側に……折り畳まれていく……!!
この、全方位からの……逃げ場のない……一方的な……『重すぎる抱擁』……!!」
ルビィの背中から、神々しいまでの「ドMのオーラ」が噴き出した。
彼女は震える足で立ち上がり、あえて盾を捨てて、重蔵の前に歩み出た。
「さあ……魔物よ!! もっとだ!! もっと私を……『薄く』してくれ!!
私の魂を……重力の極限まで……圧縮して……、
ダイヤモンドのように……硬く……美しく……仕上げてみせろ!!」
「ルビィ! お前、何言うとんねん!!
自己研鑽の方向性が間違っとるぞ!!
お前、騎士道やなくて『加工食品』の道に進もうとしとるやろがい!!」
ルビィが重蔵の攻撃を全身で受け止める。
その度に、ルビィの体からは「快感のエネルギー」が放射され、回廊の重力バランスが狂い始めた。
「アキラ様! ルビィ様の『ドMエネルギー』が、重蔵の重力魔法と干渉しています!
今なら、アキラ様のツッコミで重力を逆流させることができます!!」
「よし、任せろ!! おい、重蔵!!
お前、さっきから『プレス』とか言うとるけどな!!
その体……よく見たら、角が取れて丸くなってきとるやないか!!
漬物石としてのプライドはどうした!!
お前、連戦連勝しすぎて、自分自身の重みで『摩耗』しとんねん!!
四天王の右腕が、ただの『河原に転がっとる丸っこい岩』になってどうすんねん!!」
パキィィィン!!
アキラの言葉が、重蔵の「石としてのアイデンティティ」を直撃した。
「……ナニッ!? ワレが……丸いだと……!?
ワレは……角張った……厳格な……石……」
「丸いわ!! どっからどう見ても、近所のおじいちゃんが足ツボマッサージに使うとる『滑らかな小石』の巨大版や!!
お前、名前も『重蔵』じゃなくて『丸出し』に改名せぇ!!
存在そのものが、ただの『景観を損ねる不法投棄』やろがい!!」
アキラのツッコミとルビィの異常な耐久力が共鳴し、回廊の重力がついに限界を超えた。
ルビィが叫ぶ。
「今だ、アキラ殿!! 私が……この魔物の『重み(ボケ)』を、すべて引き受ける!!
貴殿は、その『軽やかなツッコミ』で……こいつを空へ飛ばしてやれ!!」
「よし、任せろ!! おい、重蔵!! お前、さっきから『プレス』だの『正義』だの偉そうに抜かしとるけどな!! お前のその巨体……よく見たら、表面から**『乳酸菌の過剰な汁』**がダダ漏れやないか!! 四天王の忠実な僕が、戦場に酸っぱい匂い撒き散らしてどうすんねん!!」
パキィィィン!!
アキラの言葉が、重蔵の「石としてのアイデンティティ」を酸味で腐食させる。
「……ナ、ナニッ!? ワレの……芳醇な……発酵の……香りが……不快だと……!?」
「不快やわ!! どっからどう見ても、**『賞味期限が三年前で止まっとる、冷蔵庫の奥底の古漬け』と同じ存在感やぞ!! お前、名前も『重蔵』じゃなくて『三年間熟成(放置)されたキュウリ』**に改名せぇ!!
そのハチマキもな、気合の現れやなくて、ただの**『重すぎて中身が漏れんように縛っとるだけの輪ゴム』**やろがい!!
そんなにプレスが好きならな、実家に帰って、お母さんの『浅漬けの重石』として、一生台所の隅っこでカビとけボケェェェ!!!!!」
「……ピコォォォォォォォォォ(完敗)!!」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
アキラの全身全霊のツッコミが、ルビィを媒介にして重蔵に炸裂した。
重力は一瞬で反転し、巨大な漬物石(重蔵)は、自らの重みを失って空へと舞い上がっていった。
「石なのに……浮く……ピコォォォォ!!」
「最後は『ピコ』って言うたんかお前も!! 四天王の配下は、負け際の設定を統一しとけボケェェェ!!!」
ドゴォォォォォォォォン!!!!!
重力の呪縛が解け、回廊に爽やかな風が吹き抜ける。
アキラたちは地面に立ち上がり、ようやくまともな呼吸を取り戻した。
「……ふぅ。……死ぬかと思ったわ。……おい、ルビィ。……大丈夫か?」
アキラが駆け寄ると、そこにはボロボロになった鎧の中で、恍惚とした表情で眠りにつくルビィの姿があった。
彼女の防御力が、この一戦でまた一段階「バグった」のは言うまでもない。
「アキラ様。ルビィ様の鎧、重力で圧縮されて『原子レベル』で密になっています。……これ、もう普通の手段では脱がせられませんね。一生その鎧の中で生活することになるかもしれません」
ミリティが冷静に分析する。
(……一生、鎧の中。……ルビィ、勝ち組。……私も、アキラ様の影の中に、原子レベルで密着したい。……婚姻届、重力1000g対応のペンで書く。……逃がさない)
シズクがアキラの背後から忍び寄る。
「……勘弁してくれ。……俺の旅、いつになったら『普通の勇者』っぽくなるんや……」
アキラの掠れたツッコミが、夕暮れの回廊に虚しく響いた。
【現在のパーティ状況】
• ルビィ: 1000gの圧力を受けたことで、防御力は300%上昇したが、体から微かに「ぬか漬け」の香りがするようになった。
• アキラの喉: 重力に逆らって声を張り上げたため、声帯が「鋼の弦」のように強靭になった。
• エルナの成果: 騒動の最中、重力で圧縮された「干しタコ」を大量生産することに成功。




