第23話:美しさは罪!? 鏡の村のナルシストと、笑いの共鳴現象(レゾナンス)
「リジッド」の村に爆笑の渦を巻き起こし、四天王の配下プクリンを星にしたアキラ一行。次に彼らが足を踏み入れたのは、岩山のさらに奥、クリスタルのように透き通った湖のほとりに建つ村「ルサンチ」だった。
この村の光景は、一言で言えば「異様」であった。
村の建物という建物、地面という地面が、すべてピカピカに磨き上げられた「鏡」でできている。そして村人たちは、農作業も家事もせず、ただひたすらに自分の顔を鏡で覗き込み、恍惚とした表情を浮かべていた。
「……なんやここ。ナルシストの強制収容所か? 自分の顔見すぎて首の骨折れとるやつおるぞ」
アキラがドン引きしながら歩を進めると、村の中央で一人の男が、地面に頭を擦り付けながら鏡にキスをしていた。
「……アキラ様。この村の衛生状態、ある意味で最悪です。見た目だけはピカピカですが、人々の心には『自己愛』という名の脂ぎった指紋がびっしりと付いています。マジカル・鏡拭き……今すぐこの歪んだ自意識をクリーニングする必要がありますね」
ミリティがいつになく厳しい目をして、杖の先端で自分のメガネをキュッキュと磨く。
(……アキラ様。……この村、シズク的には『あり』。……鏡さえあれば、背後に潜む自分の姿を確認しなくて済む。……でも、アキラ様が鏡を見て自分に惚れたら、ライバルが増える。……鏡、全部割る。……逃がさない)
シズクが影から「反射防止加工済み」の婚姻届を取り出す。
「お前が一番のバグやわ!! 鏡を割る前に自分のストーカー気質を割れ!!」
その時、湖の水面が爆発した。
水飛沫の中から現れたのは、『鏡華のナルシス』。
「フハハハ……!! 跪け、愚民ども! そして見よ、この完璧な美を!!」
現れた魔物の姿に、アキラは思わず膝から崩れ落ちそうになった。
そこにいたのは、身長2メートル。スタイルは抜群だが、その頭部は……**「巨大なミラーボール」**だった。
体には、なぜかビカビカに光る「金色の全身タイツ」を着用し、背中からは「クジャクの羽根」を模した、これまた鏡でできた巨大な翼が生えている。
さらに、右手に持っている武器は、剣でも杖でもなく、**「特大サイズの自撮り棒」**だった。
「……ワレこそが、美を司る者……ナルシス。この村の者は、ワレの美しさに見惚れ、笑うことすら忘れて鏡を見続ける運命……。もし笑う者がいれば、その醜い笑顔ごと、鏡の中に封印してやろう……!!」
「……お、おい。あいつ、自分の頭がミラーボールっていう自覚あるんか? 喋るたびに反射で周囲がディスコみたいになっとるぞ!!」
村人たちは、ナルシスの言葉に従い、必死に「自分の顔」を鏡で見つめ直す。しかし、その目には生気がない。彼らは魔物の魔力によって、「自分を愛さなければならない」という強迫観念に囚われていた。
ミリティがアキラの耳元で囁く。
「アキラ様、見てください。あの魔物のミラーボール頭は、村人の『真実の感情』を跳ね返して、偽りの自意識に変えています。でも、先ほどの村と同様、村人たちが心の底から『爆笑』すれば、そのエネルギーはアキラ様の声と共鳴し、ツッコミの威力を数倍、数十倍へと跳ね上げるはずです!」
「……笑えば笑うほど、俺のツッコミが強くなるんか? つまり、俺がこいつを公開処刑にすれば、村人の笑いが俺の『武器』になるってことやな!」
アキラは確信した。これは、一人で戦う漫才ではない。村人全員を「観客」にした、前代未聞の爆笑討伐戦なのだ。
「おい!! ミラーボール野郎!! ちょっとその自撮り棒を置けや!!」
「何だ、醜い男よ。貴様もワレの輝きに目が眩んだか?」
「眩しすぎるわ!! 公害レベルやぞ!!
お前、自分のこと『美の化身』とか言うとるけど、
客観的に見てみろ!!
お前の頭、昭和のキャバレーの天井からぶら下がっとるやつと同じやぞ!!
美しさどころか、漂う『場末の飲み屋感』が凄まじいわ!!」
パキィィィン!!
アキラの第一声が鏡の村に響き渡る。
村人たちの肩が、ピクリと揺れた。「(あ……言っちゃった。あいつ、ミラーボールだったんだ……)」という真実が、鏡の呪縛をわずかに解く。
「……フン、嫉妬か。この黄金のタイツの輝き、貴様には……」
「タイツもや!! なんでそんなピッチピチやねん!!
お前、それ着る時にベビーパウダー全身に塗ったやろ!!
四天王の配下が、出撃前に部屋で一人でタイツ履いて『ヌルッ……』とか言うとんのか!?
その光景を想像しただけで、こっちは吐き気がするわ!!
黄金の輝きじゃなくて、ただの『金紙を巻いたハム』にしか見えんぞ!!」
「……ククッ……!!」
村人の数人が、口を押さえて震え始めた。
その瞬間、村人たちの体から「笑いの粒子」が立ち上り、アキラの喉へと吸い込まれていく。
(……アキラ様! 笑いのエネルギーが貯まっています! ツッコミの出力が120%に上昇!!)
「よし、加速全開や!!
お前、その背中のクジャクの羽!!
それ、よく見たら『車のサイドミラー』を接着剤で繋げただけやないか!!
美の象徴やなくて、ただの『廃車置場の再利用』やろがい!!
エコロジー意識高すぎんねん!! 魔王軍に就職せんと、市役所の資源ゴミ回収車に並んどけボケェェェ!!!」
「ヒィィ……! ハハハハ!!!」
村人たちの笑いが連鎖し、爆発する。
笑えば笑うほど、アキラの声は物理的な破壊力を持って空間を震わせた。
(……出力300%! アキラ様、いけます!!)
「トドメや!! その自撮り棒!!
お前、さっきから戦いもせんと自分の角度ばっかり気にしとるけど、
ミラーボールに『角度』もクソもあるか!!
どこから見ても同じ円球やろがい!!
お前が一番綺麗に映る角度はな、
実家の押し入れの奥底に、黒歴史ごと封印されとる時だけや!!!」
ドォォォォォォォォン!!!!!
村人の爆笑を乗せたアキラの究極のツッコミが、ナルシスのミラーボール頭を直撃した。
「美の極致……!!」という断末魔と共に、ミラーボールは粉々に砕け散り、中の電球が「パリン」と虚しく弾けた。
村の鏡はすべて普通の石に戻り、村人たちは自分自身の顔ではなく、隣にいる仲間の顔を見て笑い合っていた。
「……ふぅ。……笑いの共鳴、恐ろしい威力やな。俺の喉が、一瞬だけスピーカーになった気分やわ」
「お疲れ様です、アキラ様。
皆さんの笑いで、村の『脂ぎった自意識』は綺麗さっぱりクリーニングされました。
……ただ、アキラ様。
さっきの『金紙を巻いたハム』という例え。
お腹が空いているせいか、私の食欲を刺激して汚れ(空腹)を生みました。
今すぐ、私の特製『除菌サンドイッチ』で、アキラ様の胃袋を掃除(充填)しましょう」
「掃除っていうな! 食事やそれは!!」
アキラのツッコミが、晴れ渡った湖畔の村に響く。
鏡の呪縛が解けた村人たちは、自分たちを救った「美しくないけれど最高に面白い」勇者の姿を、その目にしっかりと焼き付けていた。
【現在のパーティ状況】
• アキラの喉: 笑いの共鳴により、一時的に「破壊神の声」を習得。
• ミリティの成果: 砕け散ったミラーボールの破片を回収し、村人全員に「除菌用手鏡」として配り歩いた。
• シズクの動向: 「アキラ様の美しさは私だけが知っていればいい」と、村の鏡を全部叩き割ろうとしたため、ルビィに羽交い締めにされている。




