第22話:笑えば即・爆発!? 禁じられた爆笑と「残念すぎる四天王配下」
「サイレンス」の村を救い、音を取り戻したアキラ一行が次に辿り着いたのは、岩山に囲まれた要塞のような村「リジッド」だった。
この村の雰囲気は、前回の「音がない」のとはまた別の意味で異常だった。
村人たちは皆、鋼鉄の仮面でも被っているかのように無表情。誰一人として口角を上げず、眉間に深い皺を刻んで、まるで「葬式の最中に無理やり働かされている参列者」のような顔で生活していた。
「……なぁ。この村、前回の村より『空気』が固くないか? 全員が俺の借金の保証人みたいな顔してこっち見とるぞ」
アキラが引きつった笑顔で呟くと、村の中央にある巨大な掲示板が目に飛び込んできた。そこには、禍々しい角が生えた「顔面」の紋章と共に、恐ろしい掟が刻まれていた。
【村の掟:笑う門には死来たる】
一、歯を見せてはならぬ。
一、腹を抱えてはならぬ。
一、もし『爆笑』したならば……その者の肺胞は内側から爆発し、魔物の餌食となる。
「……なんちゅう過酷な掟や。吉本新喜劇を見せたら全滅するやないか」
(……アキラ様。今のボケ、0.2秒ほど私の『笑いのツボ(深部)』を刺激しました。この村の衛生状態、最悪です。人々の心に『笑い残し』という名のカビが充満しています。マジカル・デトックス……。今すぐ、この村を『清潔な笑顔』で除菌する必要がありますね)
ミリティが杖を握り締め、アキラの背中を「無表情のまま」押す。
「……アキラ様。……笑えない村、私にとっては天国。でも、アキラ様の『ツッコミ待ちの顔』を見て、誰も笑わないのは……耐えられない。婚姻届、300枚。……アキラ様が滑るたびに、私が1枚ずつサインして慰める。……離さない」
シズクが影から「滑り止め機能付き」の婚姻届を差し出す。
「慰め方が重いわ!! 滑る前提で話を進めるな!!」
その時だった。村の地面が激しく揺れ、中央広場の石畳が弾け飛んだ。
砂煙の中から現れたのは、四天王「重厚のグラビトン」の第一の部下――『重圧のプクリン』。
四天王の配下。事前の情報では、「一睨みで大地を陥没させ、その重圧だけで勇者をひれ伏させる恐怖の権化」と聞いていたのだが。
目の前に現れたその姿を見て、アキラは思わず自分の目を疑った。
「……え。……何、あれ。……嘘やろ?」
そこにいたのは、身長3メートルを超える巨体。しかし、その全身を覆っているのは、威厳のある鎧ではなく、**「異常なまでに丸っこい、テカテカのピンク色のラバー素材」だった。
頭部には「重力」を象徴するはずの天秤が載っているのだが、それが左右に動くたびに「ピコピコ」と情けない音が鳴り、顔の真ん中には、なぜか「つぶらすぎる、少女漫画のようなキラキラした瞳」**が描かれていた。
さらによく見ると、お腹の部分には「安全第一」と書かれた黄色いタスキが斜め掛けにされており、手には威厳のある杖ではなく、**「巨大な綿菓子」**のようなふわふわした棒を持っている。
「……ワ、ワレこそが、グラビトン様が……右腕……プクリン。ワレの前に……跪け。笑ったヤツは……重力で、ひき肉にして……やる……ピコッ」
喋るたびに、頭の天秤がピコピコと鳴る。
その姿は、威厳の欠片もない。むしろ、「誰かが深夜のテンションでデザインした、ボツになった地方のゆるキャラ」のようだった。
「…………(ぷるぷる)」
村人たちが一斉に、自分の口を両手で、あるいはペンチのような道具で必死に塞いだ。
笑えば死ぬ。しかし、目の前の魔物が**「あまりにも残念すぎるビジュアル」**なのだ。これは、魔王軍が仕掛けた「究極の我慢大会」という名の精神的拷問だった。
「……あかん。これ、ツッコまんと俺の喉が爆発する……!」
「……アキラ様、待ってください!」
ミリティがアキラの腕を掴む。
「あの魔物、村人の『笑いたいエネルギー』を重力として吸収し、自分の鎧に変えています。でも、もし……アキラ様のツッコミで村人の笑いが一定の『臨界点(爆笑)』を超えたら……。そのエネルギーは逆に、魔物の鎧を内側から破壊する『対消滅弾』に変わるはずです!」
「……なるほど。つまり、俺が全力でこいつを『イジり倒せば』ええんやな?」
アキラは、芸人としての全プライドをかけて、プクリンの前に歩み出た。
「おい、プクリン!! お前、ちょっとこっち向いて喋れや!!」
「……何だ、勇者。ワレの……重圧に……耐えられるか……ピコッ」
「その『ピコッ』はなんやねん!!! 重力を司る軍団の幹部候補やろ!? なんで頭の上に、100均で売っとる『音が出るサンダル』みたいなギミック積んどんねん!! 威圧感がマイナス突き抜けて、保育園の運動会の開会式におる着ぐるみやないか!!」
パキィィィン!!
アキラの鋭いツッコミが響いた瞬間、村人たちの肩が「ビクッ」と跳ねた。「(言った……! あの勇者、俺たちの思ってたことを全部言った……!)」という心の声が、無言の振動となって地面を伝わる。
「……ワ、ワレの……鎧は、魔界の……超合金……」
「ラバー素材やないか!! どっからどう見ても、雨の日に近所のおばちゃんが着とる『安もんのレインコート』と同じ質感やぞ!! お前、魔王軍の予算会議で寝とったんか!? 『四天王の部下やから、もっと強そうなトゲとか付けたろか?』っていう上司の提案を、『いえ、僕はテカテカの丸腰でいきます!』って押し切ったんか!! そのこだわり、一ミリも理解できへんわ!!」
「グッ……!? ワレの……瞳を、見ろ……。深淵の……闇が……」
「キラキラしすぎやろがい!! なんで瞳の中に、星が4つも飛んどんねん!! お前、魔王軍に入る前に、少女漫画のヒロインのオーディション受けてきたんか!? その目で『ひき肉にしてやる』とか言うても、『今から一緒にイチゴパフェ食べに行こう』って誘われとるようにしか聞こえんわ!!」
「……おまけにその手に持っとる綿菓子は何や!! 武器か!? 敵を糖分で倒すつもりか!! 糖尿病にさせるまで何年かかると思っとんねん!!」
「……ブフッ……!!(村人の一人)」
ついに、一人の村人の口から、堪えきれない笑いが漏れた。その瞬間、村人の体が赤く光る。笑いの呪いが発動しようとした、その時!
「エルナ! 今や!!」
「任せて、アキラ様! 聖なるタコの、吸音シールド!!」
エルナが放ったタコたちが、笑った村人の口元に吸い付き、爆発のエネルギーを「ヌチャヌチャ」という音に変えて中和した。同時に、シズクの影が村人たちを包み込み、重力の呪縛から物理的に引き剥がす。
「さあ、村人の皆!! 我慢せんでええぞ!! こいつの姿を見てみろ! 四天王の部下やぞ!? 世界を滅ぼす軍団の精鋭が、頭ピコピコ鳴らしながら、テカテカのピンク衣装で、お星様キラキラの目で綿菓子持っとんねん!! これを笑わんのは、逆に失礼やろがい!!」
アキラは、ルビィの巨大な盾を鏡のように掲げ、プクリンに自分の姿を見せつけた。
「見ろ!! 自分のその『残念すぎる勇姿』をな!!」
プクリンは鏡に映った自分の姿――ピコピコ鳴りながら、キラキラした目で、ピンクのラバーを輝かせ、綿菓子を握りしめている自分――を見て、自分でも一瞬「……ダサっ」という顔をした。その隙を、アキラは見逃さない。
「お前、実家のお母さんにその姿見せられるんか!? 『お母さん、俺、四天王の右腕になったよ! 見て、このタスキの「安全第一」!』って報告するんか!! お母さん、泣くぞ!! 『近所の田中くんは立派な公務員になったのに、うちの子はなんで頭の上に天秤載せてピンク色になっとるの……』って、寝込むぞボケェェェ!!!」
「ガッハッハッハッハッハ!!!!!」
村人たちの爆笑が、要塞を揺らした。三ヶ月の間、死の恐怖で抑え込まれていた笑いのエネルギーが、アキラのツッコミという導火線によって一気に爆発したのだ。
その膨大な「笑いの波」は、プクリンが吸収していた重力を一瞬で反転させた。
「ギ、ギャァァァ!? な、何だ……体が……軽い……軽すぎる……ピコッ! ピコピコピコッ!!」
笑いのエネルギーがプクリンの鎧を内側から破壊する。テカテカのラバーが弾け飛び、中から出てきたのは……**「驚くほどヒョロヒョロで、全身に『ピコピコハンマー』をぶら下げた、情けない小男」**だった。
「……正体、それかーーーい!! 鎧で誤魔化しとっただけやないか!! ただの『ドン・キホーテのパーティーグッズ売り場の常連』やろがい!! 魔王軍!! 採用基準どうなっとんねん!! 履歴書だけで選んだんか!!」
「ワハハハハ!! 」
村人たちも爆笑で追い討ちをかける。アキラは最後の一撃として、ミリティの杖を「ハリセン」の形に変形させた。
「……アキラ様。今の笑いの飽和状態なら、この『マジカル・ハリセン・デリート』の一撃で、このバグった配下をクリーニング(追放)できます。……いってください!」
「おっしゃぁぁ!! お前のその『ピコピコ人生』、ここで強制終了や!! お前のその『中二病』すら生温い、恥ずかしすぎる中途半端な設定ごと、実家に強制送還や!!」
アキラは喉を限界まで広げ、渾身の力を込めた。
「――お前、その『重圧』という名の能力……!! 俺が中学二年生の時、『俺には見えない重圧がかかっている……』とか言うて、机に突っ伏して寝たフリしとった時の『黒歴史』より痛々しいわ!! なんでやねぇぇぇぇん!!!!!」
ドガァァァァァァァァン!!!!!
アキラのハリセンがプクリンの脳天を直撃。凄まじい「ピコッ!」という断末魔と共に、配下プクリンは地面にめり込み爆散した。
村に、本物の笑顔が戻った。村人たちはアキラを囲み、涙を流しながら笑い続けていた。
「勇者様! ありがとう!! 笑うのがこんなに気持ちいいなんて、忘れてたよ!」
「あの魔物のキラキラした目……今思い出しても腹がよじれるわ!」
アキラは地面に座り込み、ミリティから差し出された「殺菌済み冷水」を飲み干した。
「……ふぅ。……笑いで世界を救うなんて、芸人冥利に尽きるわ。……でも、喉が。喉がもう、おじいちゃんの膝裏くらいカサカサや……」
「お疲れ様です、アキラ様。皆さんの笑いで、村の心の汚れは完全に落ちました。ただ、アキラ様のツッコミ、途中で『お母さん』を出しすぎて、少しマザコンの気があるのではないかと分析されました。今すぐ、私の魔法で脳内の『母親への未練』をクリーニングしましょうか?」
「余計なお世話や!! 田中くんのお母さんを例えに出しただけやろがい!!」
(……アキラ様。……皆を笑わせるアキラ様、格好良かった。……でも、私だけを笑わせる権利、独占したい。次の村では、二人きりで『無言の漫才』。……逃がさない)
シズクが婚姻届を「おひねり」のようにアキラの頭に浴びせる。アキラの悲鳴のようなツッコミが、笑顔の溢れる「リジッド」の村に、いつまでも元気に響き渡っていた。
【現在のパーティ状況】
• アキラの喉: 笑いのエネルギーを触媒にしたことで、一時的に「ゴールデン・ボイス(美声)」に変化。ただし30分で切れる。
• ミリティの成果: 村人全員の仮面を回収し、リサイクルして「ピカピカの鍋」に作り変えた。
• ルビィの動向: 「爆笑の衝撃波」を全身で浴びたことで、精神的にリフレッシュ。「次は爆発的なツッコミを直撃したい」と意欲を燃やす。




